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第二十二句

「絶対に帰ってくるよ」

「助けて……」


 花は女性の前に立ってぎゅっと目を閉じた。人が傷つくくらいなら自分などどうでもいい――。怖いという感情が消えたところで、何も起こっていないことに気が付いた。


「だいじょうぶ……ですか」


 苦しそうな声を聞いて目を開けると、花の前に小刀の両端を持ちながら必死に影狼を押さえているまつがいたのだ。


「とどめをお願いします!」

「は、はい!」


 押さえられている間に素早く後ろへ回ると、鉄扇で背中に大きな切り傷を付けた。影狼が意識をなくすと、今までまつにかかっていた強く押す力がなくなって前に倒れた。


「あ……すいません!」

「やっと……やっと言ってくれた……!」


 いつもは転ぶと泣きそうな顔になるまつの顔には、満面の笑みがこぼれている。


「どうしたんですか?」

「花さんが初めて……僕を頼ってくれたのが嬉しくて……!」


 花はさっきのことが一瞬すぎてあまり覚えていなかった。でも、まつの嬉しそうな顔を見ると今までよりも自分を好きになれた気がした。


「さて、この女性を早く助けましょう」

「え、でもどうやって……?」


 花は女性をおぶると、姿見の前まで戻ってまつのほうを向いた。


「いいですかまつさん。私は今から影狼の毒を抜く道具を持ってきます。なのでその間、女性の様子を見てくれませんか?万が一のことがあったらすぐ逃げてくださいね。無理をすると大変ですから」

「わかりました!」


 花が姿見の中へ消えていくと、まつは正座をしながら女性の顔をじっと見つめていた。


(なんか見覚えがあるなぁ……)


 花が戻ってくるまで特に大変なことはなかったが、まつの中には何かが引っ掛かったままだ。


「お待たせしました!」

「それは……」

「博士が開発した影狼用の毒抜き(ポイズンリムーバー)です。これを傷口に当ててレバーを引くだけで毒が抜けるようです」

「優れモノですね」


 傷口の位置が心臓よりも低くなるようにしてから花は慎重にレバーを引いた。すると、険しかった女性の顔がだんだん緩んでいった。


「これで毒はほとんど抜けました。ここに置いていくのも少々心もとないので家まで送りたいのですが……さすがに情報量が少ないですね」


 頭を抱えている花の傍らで女性の顔を再度見つめていると、まつは急に立ち上がった。


「……もしかしたら、僕この人の家わかるかもしれません!」

「本当ですか!」





 その家の前では、五歳ほどの少女が寂しそうな顔で座っていた。


「おーい!」

「あ、お兄ちゃん!」


 まつが呼びかけると、少女がこちらに駆け寄ってきた。


「猫ちゃんは元気?」

「うん!……でもね、私、お母さんもいなくなっちゃったの」


 その言葉で確信すると、まつは小さな声で少女に言った。


「実はね、君のお母さんも見つけたかもしれないんだ」

「ほんと⁉」

「本当に君のお母さんか、確かめてくれる?」


 後ろから花が現れてた。後ろには、女性が幸せそうに寝ている。


「お母さんだ!」

「よかった。今君のお母さんは寝てるから、起きたらたくさんお話してね」

「うん!」


 その笑い声を聞いて、少女の父親であろう男性も出てきた。二人には何度もお礼を言っていたので、まつは少し困惑した。


「じゃあね、お兄ちゃん!」

「うん、じゃあね」


 親子に別れを告げると、まつは疲れながら先に姿見の前にいた花に手を振った。







「まつさん、大活躍でしたね」

「いや、僕なんていつもみんなに迷惑をかけているので……花さんのほうがすごかったですよ」


 部屋に戻ると、長髪を一つに結んで革ジャンを着た長身の男性と顔がすっぽり入るくらい深いフードをかぶった細身の青年が二人と同じくらいボロボロになりながら立っていた。


「二人とも、先に帰られていたんですね」

「あぁ、花さんですか。こりゃどうも……」


通称:辰巳(たつみ)

管理番号:008

主:喜撰法師(きせんほうし)


「あ、そうだ聞いてよ花さん!辰巳さん今日は盗賊のアジトまで殴り込みに行ってさぁ!」


通称:()

管理番号:010

主:蝉丸(せみまる)


 このは自分の顔を覆っている紙と同じくらい楽しそうに話していた。


「俺はそんなことしてません……いい加減、俺が極道だとかそういう噂が広まるのは勘弁ですね……。別に悪いことは何もしていないのに」

「まったく、誰が流したんだろうね」


 全員の顔が一斉に此のへ向けられる。


「え、みんなどうしたの?」

「まさか、此のさんがやっているわけじゃないですよね?」

「そんなことないよ」

「いや、お前はそんな信用できんな」

「なんでよ?」


 辰巳はため息をつくと、此のにぐっと顔を寄せた。


「お前は何で顔を出さない!大体それで前見えてんのか怪我したらどうすんだ!なんで――」

「まぁまぁまぁ」


 辰巳はいろんなことを言っているが、花とまつは何を言っているか早口で理解できないし第一本人は聞いていないようだ。そうこうしているうちにリビングにつくと、良い匂いが漂ってきた。もうお昼だ。


「お疲れ様。お昼、できてますよ」

「ありがとうございます」


 百人一魂の食卓は騒がしい。なぜなら、ここには個性的な人しか集まっていないのだから。


リメイク前の花は疲れたら他の百人一魂におんぶを迫るなど、なかなかの我儘です。

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