表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
233/303

第二百二十五句

「私、あの人が好きなの」

 八重と別れた後の小川は、はっきり言ってとても不気味に見えた。せせらぐ川と強風で揺れる草花、木々はまるで自分たちを追い出そうとしているような気がして落ち着けない。それに、肌へ通る風が鳥肌を立たせてくるほどに寒い。前方へ注意しながらも、羽織についているフードを深々と被りながら移動した。


 いつ影狼たちが来るかはわからない。念のため両手に刀身が輝いて見える短剣を持ち、警戒しながら進んだ。夏の間に生い茂った植物たちは良い隠れ場所となる。夜目を利かせて歩き始めた。


 どこからか聞こえる虫の声も、今は何もないと同等の聞こえ方だ。主に似た強い心を持つ小夜にはとてつもない集中力がついている。今回もそれを生かし、影人の足音すらも聞き逃さぬようにした。


(――今っ!)


 ふと、左手に持っていた短剣を口に咥えて目の前にあった木の横へ飛び出している枝を片手でつかんだと思えば体を大きく前後へ揺らして二往復くらいしたところで幹の分岐点にあたるところへ乗った。すかさず右手の剣を前へ突き出す。決して綺麗とは言えない毛並みと暗闇でもよく映える赤い目を持った影狼は、首に当てられた刃先へなんの恐怖も感じていないようだった。


 こちらの顔を見るや否や、一番近くにある右手めがけて歯をむき出してくる。小夜も負けじと、顔を近くに寄せてその大きく開いた口へもう一方の剣の刀身が入るようにする。両者の戦いに、間合いなど存在しない。手が伸ばされてくるのを見切ると力で押し切って自分の体ごと影狼を木から落とした。


 下にいるのは影狼の方。空中にいる間でも、素早く体勢を整えてボールを投げるように短剣を投げた。影狼の腹に命中し、そのまま落ちていくと地面には赤黒い血が広がっていった。剣を引き抜き、血を払ってからしまう。しゃがんで手を合わせ、灰になり始めるまで見つめるとその場を後にした。


 少しは緊張が和らいだようだ。強風でフードが脱げても直そうとはせずに、さらに速度を上げていく。体が勝手に動いていく。そんな感覚がしてたまらなかった。いつの間にか木々は絶え、知らないところまで来てしまった。はしゃぎすぎた自分に恥ずかしさを感じながら、最後の木まで後ろ歩きで戻っていく。


(あぁ……やってしまった……)


 それと同時に強風が来た、その時だ。急に小夜の目つきが変わる。元からあまり目が大きい方ではないが、明らかに真剣な時の顔だ。すかさず木の上へ目を向けるが、すでにあちらからも把握されている。ここはひとまず距離を取った方が良いと判断して小川を一回転しながら越える。


 川と言っても、暗闇でも底が見えるほど浅くて子供でも飛び越えられるほどの幅だ。草原が広がっている先には同じような森が見えるが、さすがにあそこまで行くとなると遠すぎる。だが、接近するにしては見晴らしが良いところなのですぐに動きを読まれてしまう。木の位置を変えるなんてことはできなくて当たり前。仕方がないので、速さで勝負に出た。


 まずは川に沿って少しだけ離れたところへ行く。そこから小川の縁へ足をかけ、落ちるか落ちないかくらいの所で踏ん張って跳びあがった。適当に目の前へあった木へ掴まると、素早く幹を伝って頂上まで来た。頑丈な枝を探して足並みをそろえて蹴ると、小川を一望できるほどに高く舞い上がった。


 事前に目標の木から何本分離れているかを数えていたため、その角度へ来れるように調節する。直下できる位置に行ったらあとは全体重をかけて落ちるスピードを上げるだけ。まさに、速さでの勝負だ。急降下している間でも枝の形や枝分かれの仕方などを確認し、葉に隠れている黒い影を見つける。短刀を片方だけ出して右手を思い切り後ろに引いた。いよいよ、その奥へ入る。


 直前になり、その影が動いた。驚きながら受け身を取り、何とか枝の分岐点には着地できた。だが、すぐに両手を押さえつけられた感覚がした。必死に風呂ほどこうとしても範囲が狭く、うまく動けない。


(黒マント……?いや、影狼が人に化けた可能性が高いな)


 恐る恐る目の前を向くと、そこにいたのはもう一人の小夜だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ