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第二百七句

「お前は本当にダメな奴だ」

「お前、この間はよくもやってくれたなぁ」


 館の正面玄関付近に現れたのは、髪をまぶしいほどの蛍光色に染めて制服を着崩した学生たちだった。ピアスが何個もついており見るからに不良だ。話しかけられたのは、ほうきを持って掃除をしている青年だった。重い前髪で目が見えにくいのに加えて何やら家紋のようなものが描かれているフェイスベールで口を隠していて、全体的に顔が隠れていた。


 寒色に偏った服を風になびかせながらしばらく不良たちを覗き込んだ後に、青年は再び掃除に取り掛かった。すぐさま胸ぐらをつかまれるが、何も言おうとはしない。ただほうきをぎゅっと握っているだけだった。


「チッ、話も通じねぇのかよ」

「おーい、聞こえますかぁー?」


 身長は同じくらいだ。だが、まったく圧を感じないのですっかり舐められてしまっている。そこへ、無理して出しているような重低音が響いた。


「ねぇ、何してるの?」


 声のした方を向くとそこには鋭い目つきをした幼い顔立ちの青年と全体に白い服を身にまとった眼鏡をかけた青年が並んで歩いてきた。しがらみと、友ではないか。あっという間に標的扱いされた二人は拳の関節を鳴らす音を聞きながら身構えた。


「何の邪魔が入ってきたかと思ったら中学生かよ」

「でも、俺らは容赦しねぇからな!」


 二人が同時に拳を振り下ろした。だが、それでも逃げようとはせずに受け止めた。かなりの力の強さに思わず冷や汗をかいていた。


「誰が中学生だって?」

「貴方たちの目は節穴でしょうか?」


 連続でくる言葉たちに脳の処理が追い付かない。一方は焦ってもう片方の手を振り下ろしたが、それも受け止められてそれどころか手を後ろに回され、関節技をきめられていた。友は服を見ると素早く電話をかけて一オクターブ声を高くした。


「もしもし、そちらの高校の生徒さんたちがこちらに来ておりまして……はい、では、後ほど」


 一気にあちらの空気が凍った。顔色を悪くし、戦う気力すらなくなったようだ。その場で膝から崩れ落ちたところを見ると二人はハイタッチをした。


 その後、不良たちは教師に引き渡された。顔の隠された青年は駆け寄るとぺこりと綺麗に一礼した。


「ありがとうございます」


通称:(かぢ)

管理番号:046

主:曾禰好忠(そねのよしただ)


 こもっていてあまり聞こえないが、透き通った声をしている。恥ずかしそうにする友の背中を叩いたしがらみは笑顔で梶に話しかけた。


「大丈夫だった?」

「はい……」


 ひとまず暑いので、館内に入ってほうきをしまいに行くついでに話を聞いていた。どうやら、数日前に商店街に行ったところ、いじめられていた学生を見つけて助けたらしい。その時は被害者の手を掴んで一緒に逃げただけなのでいじめた者の顔はわからず、心当たりがなかったらしい。


 制服は、前に神社にたむろっていた学生たちと同じところのものだった。今回だけではない。度々町の方で騒ぎを起こしては百人一魂と学校のお世話になる。不良校と言っても教師たちは優しく、よく話しかけてくれるので顔見知りだ。


「ま、今回も一件落着でよかったな」

「うん。しがらに教えてもらった人の睨み方、役に立ったかも」

(なんてものを教えているんだ……)


 梶は二人と別れ、部屋に戻ろうと階段を登っていると踊り場の所で話している者たちがいた。一人はものやだ。相変わらず体より少し長い袖を口に当て、笑いながら話している。もう一人は大きな帽子の紐を首にかけているため横顔が見えなかったが、梶はその人物を知っていた。


「あれ、梶じゃん!」


通称:いたみ

管理番号:048

主:源重之(みなもとのしげゆき)


「いたみ……」

「あ、梶君こんにちは~」


 振り向いた顔には太陽の如く明るい笑顔があり、雲のように揺れる髪と少し日焼けした肌は夏を連想させている。梶は駆け寄ると二人の話し合いに参戦して淡々と話ばかりを聞いていた。どちらも顔見知りで仲が良い。だが、それでも梶の顔にはどこか曇りがあった。

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