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第二百六句

「彼らは、いったい――?」

「そういえば、僕ちょっと疑問に思ってることがあるんですよ」


 まだ特別医務室にいた二人が談笑をしていると、滝がいきなり話を方向転換させた。あくるは先ほどよりも体を前のめりにして話を聞く。


「なんだ?」

「僕たちは完璧に黒マントが井戸を出す術を押さえたはずです。なのに、どうしてあんなに良いタイミングで井戸が出てきたんでしょうか」


 言われれば確かに奇妙な話だ。手は口というどうにも押さえづらい部分を、相手が顔を激しく動かすほどに強く押さえていたのにも関わらず、あのタイミングであんなに都合の良いところに出せるのは無理だ。もっと他に井戸を出す方法があったのではないかと考えたが、怪しい挙動はなかったので何とも言えなかった。


 ふと、医務室の扉が開く。入ってきたのは、(はな)、ちはや、(あま)つの三人だ。どうやらあちらも仕事帰りだったようで目立った外傷はなさそうだったが、前線に行っていた花とちはやが手足を軽く捻ったらしい。白菊は冷凍庫から保冷剤を取り出し、そこへ当てた。


「あれ、白菊さんの能力は使わないんですか?」

「当たり前だろ、俺の能力は何でも怪我を治すものじゃない。というか、お三方は外傷もないのになんでここ(特別医務室)に……?」


 白菊の能力はあくまで、『細胞の動く時間を早める』ことだ。外傷ではない以上治すことはできない。その明らかにあきれた様子を見ても三人は顔を見合わせて笑っていた。


「ごめんなさい。でも、普通の医務室はほぼ医療道具の物置みたいになっていますし……」

「ちはやさんが、白菊さんと話したいと言っていたので来てしまいました」

「ごめんね、白菊君」


 医務室が物置と化しているのは事実だ。白菊は、一瞬『まずい』とでも言いそうな顔をしてから一つ咳ばらいをして机に戻ってしまった。四人の会話を遮らないように影を薄め、黙っていたあくるがなるべく声を小さくするように口を手で押さえてさっきまでの話の返答をした。


「やはり、まだ何個か方法があったというのが妥当かもな」

「――何、話してるの?」


 滝ではない、透き通った声が近くで響く。声のした方を向くとちはやが腰をかがめて顔を近くにしていた。焦点が合っていない目とどこか幼気のある顔立ちを見ると思わず体を後ろに引きながら会話を止めた。


「何か、私たちに言ってはいけないことがあるのですか?」

「いや、そうではなくて……」

「それほど重要な話なら、お聞かせ願いたいですね」


 あまりにも周りがまぶしく見える。この三人は敵に回してはいけないという二人の直感から、正直に一通り話すことにした。話をしているときはそれぞれの聞き方があまりに自由だったので、あくるは喋っていて緊張が止まらなかった。


 滝も改めて、先ほどまでにあったことを整理した。そして、正面からという少ない情報から行動をくみ取ろうとしたが、目に焼き付いているはずの行動には何も異変がない。考え込んでいるときにふと、天つの声が脳に響いた。


「黒マントたちも、同じなのではないですか?」

「「同じ?」」


 声がそろった。天つは眼鏡をクイッと上げ、人差し指を立てながら皆に目線を送ると立ち上がって話し始めた。『おとめ先生』と言われる理由がわかる立ち振る舞いだ。


「私たちが姿見に入って出るところは、毎回博士が決めていますよね。その場所にいつも共通するのはどんな条件でしょうか?」

「……影狼たちが近くにいる、とかですか?」


 花が小さく挙手をして答えると、優しく笑った。これは全員が知っていることだ。何を言い出すのかと思いきや意外と当たり前のことだったので肩を落としかけたが、まだ続くようだった。


「博士が影狼を感知し、それを私たちに伝えて仕事へ行く。それは、()()()()()()なのかもしれません」

「……あの井戸も、僕たちを感知して出現したり移動できたりするってこと?」


 そう考えると確かに辻褄が合う。感知されていたのだとしたら、仲間が内側から井戸を出現させてそこに入らせればよい。少しの話だけでもここまでの考察ができるとは、さすが以外に言葉が見つからない。


 自分の中で納得する答えが出たところで、白菊が顔を出して二人の状態を確かめた。痛みもなく、銃で深く撃たれた傷も元からなかったようになっていたので一安心して特別医務室を出た。廊下を通っているとき、あくるは博士に電話をかけようと半分焦ったような状態で携帯を操作した。

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