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第二百一句

「本当にわからない奴だ」

「……っあー!疲れたーっ!」


 周りを一切に気にせず、滝は影人たちの毒を一人一人丁寧に抜いて重くなった腰を持ち上げた。この様子だと戦っていた時よりも辛そうだった。腰を押さえながら、一度人々を同じ場所に集める。


(一人で運ぶのはさすがに骨が折れるな……あくるさんに手伝ってもらおうかな?)


 そんな下心を持ちながら、小型無線を懐から取り出してマイクを口の近くまでもっていってボタンを押した。遠くで砂嵐でもあるかのような音に乗せて言葉を発する。


「こちら滝、影人たちは全員毒を抜き終わりました」






 あくるの能力により、今まで自分で負わせてきた傷を逆に負うこととなった黒マントはそのまま倒れこんだ。どうやら井戸を呼ぶ気力もないらしい。両手両足を縛った黒マントの腕を押さえながら小型無線で滝へ返事をする。


「わかった。だが生憎、私は今黒マントを拘束していて手が離せない。一度こっちに来てくれないか」

『りょーかいです』


 滝が来たのは割とすぐだった。いつもと同じように、厚底の下駄を履くのに加えて目線を合わせるために背伸びをしてくる。黒マントは姿を見るや否やすぐに目を背けた。それに対して二人は困り眉になりながら微笑んで顔を合わせた。動けない以上、これくらいしか抵抗の印にならないのだろう。


 黒マントには聞こえないような小さな声で話し、二人で黒マントを姿見へ運んで館にいる誰かに引き渡してから影人だった者たちを町の方に運ぼうと考えた。話をしている間の黒マントは、ふてくされているような感じがしていた。


 さっそく手足をそれぞれ掴んで運ぶ。抵抗が激しく、本当にあくるによって怪我を転嫁されたのかわからないくらいだったが、あくるが自分のこめかみにマシンガンの銃口をつけて一言。


「これがどういう意味か、分かるな?」


 と言うと信じられないほど静かになった。突き当りを曲がり、先ほどまでにぎわっていたはずの町へ出た。もう姿見はすぐそこだ。足早に向かって目の前まで来た。前にいたあくるが姿見に入った瞬間――。


「来い」


 どこからともなく、声が聞こえてきた。どんな声かなんて聞かれたら答えられない。男性が、女性なのかもわからない。だが、「来い」と言ったのは確かだった。二人の間に小さな地震が起きる。何が起きたのかとあくるは姿見から顔を出したが、その時にはすでに井戸が出現していた。


(馬鹿な、いつもあいつらは指を鳴らして井戸を出現させていたはずだ。そうならないように両手を拘束していたのに……!)

(声でも出現可能なのか⁉)


 予想外の展開に二人は唖然とすることしかできない。黒マントは拘束された状態でありながらも体を何回も揺らし、二人の手を振りほどいた。どこかに突っかかることなく綺麗に井戸に落ちていくとあっという間に井戸は消えてしまった。


 一度顔を見合わせる。だが、話すようなことがない。沈黙がしばらく続いたのちに、前を見たあくるは目を見開いた。滝もそれに気づいて後ろを向く。後ろにあったのは、さっき見たばかりの井戸ではないか。そこから出てきたのは、両手両足が布で縛られている黒マントだ。井戸の前に立ったと思えばバランスを崩したのか、その場に座り込む。


 続いて出てきたのは影狼だった。黒マントの後ろに規律よく並んでいる。そのうち、黒マントは一番近くにいたものに手を差し出す。いとも簡単に布は噛みちぎられてしまった。足は自らで解く。すぐに武器を出して戦闘態勢になったが、黒マントの指が向いたのは突き当りだった。


 すぐさま突っ込んでいく影狼たちに、どういう意味かわからなかったが滝が突然大声を上げた。


「しまった!」

「どうかしたのか?」

「あっちには影人だった人たちが!あのままだとまた影人にされるかもしれません!」


 黒マントを睨みながら、二人は駆け出していく。だが、あくるの肩にはいつの間にか弾丸が埋まっていた。

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