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第二百句

「私の気持ちなんて、分からないでしょうね」

 手前の黒マントは意識を失う。それとは対照的に、かすり傷しか外傷の見当たらないあくるに後方にいた黒マントはさぞかしおびえただろう。だが、逃げようとしてもその圧が逃がさない。


 今までの黒マントを越えるような速度で、あくるは塀からその後ろにある木の幹へ飛び移る。軽く蹴って背中を狙うと、難なく銃口を後頭部に当てることができた。動くことはできないだろう。自分の包帯として使っていた布を外して手に巻こうとしたとき、いきなり強い力で振りほどいてきた。離してしまい、自分がまだ油断をしていることを知る。


 黒マントが向かったのは、倒れた仲間のもとだ。助けるのかと思ったがその考えは裏切られた。銃を取って構えたのだ。そういえばさっき銃を壊したな、と呑気なことを思いながらも気を引き締めて相手に顔を向けた。ヒールが一歩、また一歩と前に行く。それに連動して黒マントは足を引いていくので、両者は常に等間隔だ。


 黒マントの足が倒れている仲間の体へ触れたのを見ると一気に飛び出した。それ以上後ろに行くのはできないだろうと考えた。銃を持っていないほうの手で指を鳴らしたと思うと、井戸が出現して二人はその中に吸い込まれた。


(なんだ、もう諦めたのか)


 気が緩んだ瞬間に、何かを吸い込むような音が後ろからした。振り向いたときにはマントの黒い布が顔の前で影をつくっていたではないか。弾が当たる前に塀に背中がつくくらいまで下がり、そこから勢いをつけて再び近づいた。


 黒マントは一歩も動かなかったが、あくるの動きは全て見えていた。真正面からの衝突に対してその体を飛び箱のように飛び越え、空中で片腕を掴んで動きを止めながら脇腹のあたりを撃ってきたのだ。痛みを必死に和らげようとしている間も追撃は止まらない。着地したのはあくるの背面だ。しゃがんで蹴りで足を払い、体勢を崩させてから体にぴったりとくっついている腕を掴んで下に押し込む。体全体が叩きつけられたのだ。


(能力を使うか?いや、まだだ。本当に限界の時になるまで耐えろ!)


 こんな攻撃、さっきまでの怪我たちと比べたら全然軽い方だ。自分に言い聞かせる。まだ残弾数は多いと見た。このまま逃げ続けるか、今までのように攻撃を繰り返すかの二択だが、あくるは自然に避けることを多くし、一切攻撃をしようとはしなかった。


 マシンガンを持って移動する気力すらない。体力は黒マントが持っていた分だけ回復したはずだ。あくるはすぐに理解した。これが()()()()だということを。『恐れ』の気持ちは理解したうえで一気に加速する。


 だが、何が原因かはいまいちつかめない。何におびえているのかも、どうやってそれが直せるかも。ふと、黒マントの弾が足元に来た。避けようと思ったものの気づいたときには腰を抜かしてその場に座り込んでいたではないか。思わず声が出ながら咄嗟に手を地面につけ、立ち上がって距離を離した。それでも黒マントは止まらずに、森に追い込むくらいまでに接近してくる。


 決して後ろを向いてはいけない。足を止め、一つのマシンガンを両手で握った。引き金に、人差し指の力がかかる――。


(あぁ、わかった、わかったぞ。私の怖いもの。傷つくのが、嫌なんだ)


 窓から入ってきた月明かりと目の前にあるパソコンのブルーライトが自室を照らし、その前でうずくまって泣いていた時の様子を思い出した。一気に顔の周りが熱くなった。続けて銃口が下を向く。両手がだらんと垂れた体勢になると、仁王立ちをして両手をばっと広げた。


「来い!私はもう逃げない、たとえこの体が、心が傷つこうと、今の状況に立ち向かってやるッ!」


 黒マントが攻撃をやめようとしても、もう遅かった。引き金は軽く引かれて弾が何発か飛び出る。あくるの四肢に到達し、留まるのを感じると唇を噛みながら笑っているではないか。後ろを向いて走ろうとした黒マントは、足を踏み外した瞬間に激痛に襲われた。

二百話を突破したので番外編を投稿します。ですが、あまりにも微妙なタイミングだと思ったのでそういう時の番外編を投稿する別の場所を作りました。『百人一魂 番外編』です。


今日の16:00頃の投稿ですので、良かったらぜひご覧ください。

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