第百九十九句
「君は美しいね」
互いに間合いへ着くと、まずは黒マントが銃身であくるのマシンガンの銃口を塞ぐ。強い力を逆手にあくるは両手を上げると黒マントは足を踏み外して前に倒れていった。後頭部に銃口を当てるが、素早く地面に手をついたと思うと両足を上げて勢いよく降ろしてきた。右腕が巻き込まれて動かせなくなる。手首を掴まれて立ち上がったと思うと前へ投げられた。
一瞬何が起きたかわからずに混乱したが、倒れた体勢のまま両腕を伸ばして足元をひたすら狙った。細かく避けながら近づいてくる。ふと、それが消えたかと思うと頭上から影がかぶさってきた。素早く体を仰向けにしてマシンガンを構える。
全体重をかけている姿勢で落ちてくる黒マントに弾を撃つ。マントには当たっているがどうしても体には当たっていないようだ。
(マントがあるのは体の位置をごまかすため……とも考えられるな)
完全に着地される前に体を滑らせて避ける。追撃は免れたものの、その隣を見てようやく接近してきた意味が分かった。先ほど飛ばされたところは、突進する前にいた位置。つまりもう一人の黒マントがいるところだ。目的はあくるではなく、仲間に接近するためだったのだ。最初の様子からもくみ取れたことだが、まさかこんなに早く行動を起こすとは、あくるも思わなかった。
難なく布を解き、二対一へ戻ってしまった。銃を取り戻されてしまったのを思い出して焦りながらもマシンガンをしまい、相手の銃を取り出した。マガジンを抜き取り、砲丸投げの体勢で遠くに投げ捨てた。その後に勢いよく銃身を地面へ叩きつけ、さらにはヒールのかかとで踏んだ。
一種の挑発だ。鈍い音が何回もして、それは銃と見まがうほどの形にまで壊れていった。みるみる、拘束されていた黒マントの手が震えていく。気が済んだところで乱暴に返す。恐らく、使えないだろう。ゆっくりとこちらに向いた顔へ鋭く睨んだ。
「お前たちが歴史を壊そうとした数だけ、その銃を壊した。本当はそれ以上やりたいが……それは、私の私情になってしまう」
銃を持っている方が両手に強い力を込めながら引き金を引いた。うっすら口角を上げながら、その後ろにあった塀に飛び乗る。武器は出さず、ただその攻撃を眺めた。
「どうした、力が入っていてスピードに欠けているな。怒り任せにやってもどうにもならんぞ!」
挑発は終わらない。だが、言えば言うほど黒マントは冷静になっていった。いつしか通常の銃さばきになっていく。座ったままのあくると同じくらいの高さまで飛ぶと、いつもよりも強く引き金を引いていた。驚いたような表情で、それは避けられることもできず肩のあたりを貫いた。続いて連射が体全体を狙って来た。
弾は全て当たり、悠長に話していた口からは血が出てきている。着地し、味を占めた黒マントはマガジンが切れるまで連射していった。所々から血が出ており、動くこともままならない。だが、マガジンを交換して前を向いたとき、黒マントは自分の目を疑っただろう。上げられた顔は笑っているのだ。勝算があるはずがない。それでも、一気に重くなった体を起こして両手を広げる。
「動きが止まっているじゃないか。もっと撃っていいというのに?」
体が硬くなりながらも、広げられた腕に何発かを当てた。すると、あくるは小さく和歌の上の句を唱えた。
『嘆きつつ ひとり寝る夜の あくる間は』
「ありがとう、これでお前たちの負けだ」
何を言ったかと思えば急に手前の黒マントは銃から手を離し、膝から崩れ落ちた。その体には何発も撃たれた跡がある。それも、あくるが撃たれた位置と同じだ。逆にあくるの体には傷一つついていなかった。
マシンガンの残弾を確認してから、奥で身を引こうとしている黒マントに銃口を向けた。何が起きたか、一瞬すぎて理解が追い付かない。引き金を引く直前にあくるは、今までよりも低い声で言った。
「見返りとは、やはり恐ろしいものだな」
あくるの句能力:自分の心身状態を相手に転嫁する




