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第百九十四句

「本当に嫌な人」

 影人はとにかく数が多かった。先程の子供では強さをはかれなかったため油断はせずに突進する。滝は弓矢を構えてなるべく足元を狙った。回転率の悪さと、目的が倒すことではないのを考えると弓矢はあまり影人には向いていない。せいぜい足止めできるくらいだ。


 一度放って手前にいたものの足にかすらせると瞬時にしまって距離を離す。影狼並みの身体能力はついていないだろうと考えた。さすがにこの量に対応した影狼を用意しようものなら、すぐにばれてしまうからだ。気配すら感じられない現状においてその可能性は低い。


 底の高い下駄を優雅に鳴らして体勢を整える。いつしかその音は一気に加速していった。手前へ来た瞬間に飛び出すと、一人だけそれに追いつくくらいに高く跳んだ者がいた。巨体の男性だ。見かけによらず身軽な動きで滝を越え、ものすごい勢いで右足を振り下ろしてきた。


 回し蹴りが見事に当たり、地面にめり込むかと思うほどの衝撃を感じながら落ちていった。砂ぼこりの中ですぐに立ち上がるが、その姿はない。


(クッソー……身長の暴力かよ)


 それは関係ないな、と自分でツッコミを入れるとあたりを再度見回した。気配を感じて顔をそちらへ向けると大きな拳が向かってきたではないか。しゃがむと左足を大きく後ろへ引いて勢いをつけ、拳が引かれる前に突進した。


 自他ともに認める小柄さを活かす時が来た。上手く股下をくぐり抜けて背中を取ると上へ乗っかって肩車をしてもらう。存在に気づいて暴れ始めたところで肩に両手を置いて体を離す。膝を限界まで曲げて思いっきり背中へ当てると影人の背中は一気に反った。そのまま背中を蹴り上げて着地すると完全に体勢を崩したようだ。


(ははーん、なるほどね。都合のいい感じの奴だけ選んで影狼が動かしてるんだ)


 先程、滝が落ちたときにたった砂埃は相当範囲が広がった。だがその状態でも影人を動かせるということはこちらからも見える範囲にいるということだ。空いているのは――上しかない。影人が立ち上がる前に上へ高く跳び、弓矢を構える。候補は二つ、右側にある塀と左側の森の木だ。ちょうど、近くに群を抜いて高い木があったのでまずはそちらに目を向ける。


「ビンゴっ!」


 こちらをじっと見つめた影狼の姿が、木に生い茂る葉の中にあった。急降下中のため、空気抵抗が生じやすい。なるべく距離を近づけてから少し下に傾けて右手を引く。ぱっと離した瞬間、矢はまっすぐに体の横を通り抜けて影狼のもとへ向かった。


 さすがに気付かれてしまっただろうか。影狼は矢が向かってくる前に身をかがめ、そのまま優雅に木から降りてゆく。まだ残っていた砂ぼこりのせいで見逃してしまったが、影人はもう操られないだろう。操られていた時の意図がぷつんと切れて動きが一気に遅くなった男性のもとへ落ちる。左手で首を掴むとポイズンリムーバーを強引に当てて勢いよく毒を抜いた。不器用さがにじみ出る。それでも毒は抜けたようで男性はその場で膝から崩れ落ちていた。


(これは、また別の影人を利用しそうだな。そうなる前に毒を抜ききらないと……)


 完全に砂ぼこりがおさまる。どこまで影人の群が続いているかを見るために一度塀に乗っていると、ある所だけ綺麗に間が空けられていた。小さい円の周りには影人が群がっている。見下ろすとそこにあったのは井戸だった。


 瞬きをした瞬間にはすでに数匹の影狼が出てきている。矢を事前に塀の上に広げてから、取っては刃夏を繰り返して数を減らそうとする。だが、陰りうが出てくるスピードは上がる一方だ。最終的に井戸が消え去ったときには数十匹の影狼が影人たちの合間を埋めるような位置に広がっていた。


 そのうち手前にいた一匹に当てると、たちまち目線がこちらに向く。大量の影人が、滝に覆いかぶさってきた。

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