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第百九十二句

「貴方なんて、信じられない」

 能力を発動させた滝は、なにやら近づくことのできない雰囲気を纏っていた。これにはあくるも動くことができない。


『人が多いな』

『あぁ、俺らも迷子になっちまいそうだな』


『こら、危ないから走らないで!』

『はーい!』


 滝の耳には、人混みの中だと決して聞こえないような会話がいくつも飛び交っていた。


滝の句能力:遠隔の声を盗み聞く


 しばらく大勢の会話を流していた。祭りの話、ただの雑談、井戸端会議。何の変哲もない会話までをもすべて拾った。聞き取る場所がだんだん奥になるにつれて、耳に入ってくるのが遅れていく。人混みの終わり辺りにまで遠くに能力を使った時だ。


『挟み撃ちにしよう』

『あぁ、その方が影人が多くなる』


 カッと目を開き、すぐさまあくるの方を向いた。


「あくるさん!黒マントだ、一番奥の人混みを外れたあたりだ!」


 指示を聞いたあくるは塀に上がって一直線に走りぬいた。決して祭りを楽しんでいる者たちを邪魔せぬような、静かな足取りだ。それと並行してマシンガンを両手で支えながら構えると前を向き、塀が途切れるのを待った。着地しようとした瞬間、足元には黒い影が二つあった。すかさず頭から落ちる体勢となりながら顔の前で引き金を引く。


「見つけたぞ」


 両手を組んだその姿勢では攻撃はできまい。そう思ったが、一方が袖で隠された手を出すともう引き金へ手が置かれていた。弾が発射されるのと着地するタイミングだったら明らかに銃の方が早い。せめて足などの動きを封じてくる場所には当たらないようにしたい。マシンガンから肩手を離して地面につけると、それを支えに両足を旋回させた。蹴った先はちょうど銃口のあたりだ。あまりの強さに吹き飛ばされた銃は向かいにある森へと入っていった。


 両手を付けて着地すると一度距離を離し、様子を見る。武器のなくなったほうは森の方をじっと見つめていた。動きが止まったところで姿勢を低くさせ、足元に銃口を近づけた。目線は確実にこちらを向いていない。それでも、間合いに入った瞬間に背中へ何かが当たった感触がした。空洞のある金属のような素材だ。


 それが銃口だということはすぐにわかった。顔を上げると、フードで見えないはずなのに冷たい視線を向けられているということがよくわかった。一気に動きが止まる。冷や汗が頬を通りながら銃口が下がるのを待ったがあちらも止まったままで一切銃を下げる気はなさそうだ。


 完全に黒マントの気迫に包まれてしまったその時、上から影が覆いかぶさった。弓矢を横に構え、体を縮こませながら飛び掛かってくる姿があった。その小柄な体で、滝ということに気づく。黒マントとの間に矢を放つと目線を集中させ、着地点を相手の銃のあたりにすると手首に足を乗せてそのまま蹴り上げた。


 いかにも単純な攻撃の仕方だ。だが予想外のことだったようで、相当効果があったらしい。あくるが一旦身を引くのに乗じて二人で距離を離す。もう一度仕切りなおそうとした時だ。


「そこの者!何をしている!」


 豪華な装束に弓矢、間違いなく検非違使だ。状況は一変、あくるは滝を睨むと苦笑いで返してきた。


「すいません、僕、静かに移動するの苦手なんですよ……」

「仕方ない。向かいの森に行くぞ」


 人に見つかってしまってしまっては戦いに弊害が出る。視線がこちらに集まるな中、検非違使が目を反らした瞬間に森へ飛び込んでしばらく走った。この距離からでも検非違使の怒声が聞こえる。


「しししっ、これは能力を使わなくてもよく聞こえるな」

「自分の責任を感じろ!とにかく声が聞こえなくなるくらいまで走れ!」


 辺りが風や鳥、虫などの声で満ちてくるようになった時、ゆっくりと足を止めた。黒マントの気配はない。恐らく追いかけるのを諦めたのだろう。息を整えたとき、滝はふとしたことを口に出した。


「……ここ、どこ?」

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