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第百九十句

「本当は寂しいんだ」

「あ、皆さんお揃いで」

「え゛っ」


 何やら怪しげな雰囲気の少年が部屋に入ってくると、その場にいた六人の手が止まった。その手には台所に持っていこうとしていたお椀と大皿がある。


「あれ、何してたんですか」


通称:(たき)

管理番号:055

主:藤原公任(ふじわらのきんとう)


「え、え、え、っと、な、なんでもないよ」

(葎さん、嘘下手だな)


 言い出した者がこれではどうしようもない。諦めて、滝にそうめんを食べていたことを説明した。一通り話を聞き終わったと思えば手の甲が切り取られた黒い手袋をはめた手で口を押さえて笑った。


「しししっ、それはそれは。でも僕で良かったですね」


 雰囲気に合わないような豪華な着物をいくつか重ねて着ている姿はまるで高校生が大人の真似をしているようだった。それに加えて厚底の下駄が一層本人の願望をあらわにしている。肉体年齢的には大人だそうだが、初見では高校生か、せいぜい学生にしか見えない。


「あの人だったらもっと厳しくしてるから」


 あの人、と言われて全員が納得する。そこへまた別の足音が聞こえた。静かで、どこか高貴さを感じるような足音だ。それとは裏腹に扉を開ける音は凄まじく、皆が入口に注目した。


 そこに立っていたのは、ワイシャツの上に第二ボタンまで開かれた着物袖のコート。かき上げた片方の髪を高く結んで腕を組んでいる男性だった。女性のような風貌だが滝よりも若干背が高い。


「誰が厳しいって?」


通称:あくる

管理番号:053

主:右大将道綱(うだいしょうみちつな)(のはは)


 芯のある、力強い声だ。その場にいる全員の肝が冷え、いつの間にかあくるの前で並んで正座をしていた。


「何をしたんだ?」

「露さんたちからもらったそうめんを六人で食べました……」


 葎もこの様子である。とんでもない雷が落ちるかと思いきや一つため息をついてから頬に手を当てた。


「なんだ、そんなことか」

「あ、あくるさん、本当にすいません……」


 末が額をべったりと床につけている。目の前に来たと思うと優しく頭を撫でた。


「大丈夫、末ちゃんは何も悪くない。責任は全部、滝にあるからな」

「僕が一番関係ないのに!?」


 あくるが許してくれたので、ひとまずま話は終わった。さしもの提案によって、露たちへのお返しを考えることになった。




 数日後――


 滝はさしもの部屋で共に話をしていた。ありふれた世間話だ。一通り話しを終えたところでさしもは頬杖をついて滝の方をじっと見つめた。


「そういえば滝君、君は、途中からこの部屋に来たけどなにか事情があったのかい?」

「……まぁ、少しね、でも些細なことだよ。さしもが気にすることじゃない」


 どこか含みのある言い方だ。だが、特に詮索をしようとは思わなかったようだ。窓から見える街を眺め、再び話を始めた。





「はい、そうですね。ここはそのままで……」

「いや、そこはこうした方が……」


 なにやら険しい顔をしている衛士となほが喋りかけているのは携帯だ。そこに居合わせたあくるは二人の向かいに座って話が途切れるのを待つ。ようやく、といっていいほど話は続いたので遅れ気味に会話へ参戦した。


「博士と話しているのか」

『あ、あくる君じゃないか。元気?』


 画面に映し出されていた文字でわかった。どうやらカメラのことについて話しているらしい。


 衛士が使った小型カメラは相手の視点になって写せる代わりに、アクロバティックな戦闘をすると状況の把握がしにくくなる。かといって、なほが使った定点カメラだといちいち起動するのに時間がかかるのに加えて、万が一回収を忘れては計画が潰れてしまう。


「確かに、両方の利点を上手く取れればいいんだがな」

『そこはうまく調節を……おっと、連絡が入ったみたい』


 画面越しに聞こえるマウスのクリック音に思わず息を呑む。しばらくして話し始めたのは仕事のことだった。すぐに真剣な声色になる。


『仕事だ。誰が行ける?』

「私と滝で行きます」


 すぐさま返事をしたあくるに、反論する者はいない。博士からの承諾をもらうとすぐに立ち上がって部屋を去った。

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