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第百八十四句

「絶対に、私のせいではない」

 なほがにこりと笑みを浮かべている後ろでは、その両足が勢いよく上げられた。黒マントの腰に衝突したと思うとそのまま前のめりに倒れてゆく。そこをすかさず股下を潜り抜けて脱出し、まるで入れ替わったかのように体を抑え込んだ。


 銃口を額にくらいつけるくらいしゃがんでいたのが悪い、と自分に言い聞かせては呆れてため息をついた。左手で首を包み込むように押さえ、その場で腰を下ろしながらライフルを額に当てる。手足を変に動かされてもまったく体勢は変わらない。跪いた姿勢となると、なほの目には冷酷な光が宿った。


「あんまり舐められたら困るよ。だって、影狼や影人が弱いから君たちが出てきたんでしょ?」


 死なせてはいけないことなんて頭の片隅にちゃんと残っている。だが、なほは今にも黒マントの額を貫いてしまいそうだった。一度心を落ち着かせてから、撃つ直前に横へずらして屋根へ弾を当てようと考えた。息を吸い、目を見開く。引き金へ手を当てた途端、黒マントは自らの銃を両手で持ってなほの額へ当てた。あちらもまた引き金に力を込められている。


 予想外のことで咄嗟に能力を発動してしまい、なほの体が浮き上がるほど大きな結界が張られると反発がこちらにかかってきて数メートル吹っ飛ばされた。それを予想していたかのように、黒マントはゆっくり立ち上がる。


(っ……完全にしくじった!)


 この距離からだと着地するときには黒マントには逃げられているだろう。体を斜めに反らし、少しでも追いつくところへ着地しようと試みた。余裕さはそのままに屋根の上を走り抜けている黒マントに追いつける気はしない。加えて場所が特定されているので着地寸前で攻撃を仕掛けたとて避けられるとしか考えられない。圧倒的に不利なのだ。


 それならば、せめて着地までのスピードは上げたい。顔を後ろに向けて何かないかと見回す。他人事のようにこちらを見ている星たちに胸がむず痒くなった。息を吸い込み、その空へ向かって一喝した。


「邪魔だっ!」


 突如体がぐんっと引っ張られるような感触があり、先ほどの倍くらいの速さで屋根に落ちてゆく。傍から見たら流れ星の如く、黒マントの前で屋根と衝突した。浅く積もった瓦礫に埋もれながらも能力でどかし、こめかみや額から流れ出る血を拭きとって銃を構える。


 恐らく、先ほどの引っ張られた感触は能力によるものだ。空と隔離され、地に飛ばされたのだろう。困惑しながらも銃を構えてきた黒マントをじっと見つめると、その頭上まで飛んでまっすぐに伸ばした右足のかかとを背中に当てた。背中が反ったかと思いきや両手で構えていた銃の銃口をそのまま上へ向け、なほの顔に狙いを定める。


 ここで顔を反らせてしまってはその瞬間に攻撃が仕掛けられる。少し横にずれると耳元に弾丸がかすり、髪を貫いた。顔を振り向かせたまま腰をひねらせ、体を前にすると勢いを使って右足で回し蹴りをした。


 衝撃で着地がうまくいかず、瓦で足を滑らせたが残っていた瓦礫に掴まって何とか耐える。対して黒マントは頭から地面に落ちて全身を強打していた。めまいがひどく、よくはわからないが動いていないのは確かだ。風が止まったのを確認してから体勢を整えると立ち上がる気力もなくなった黒マントを見つめた。


(とどめを刺す?いや、気絶状態だったら音で起きちゃうよね。大人しく回収してさしもに報告しよ)


 着地のダメージをなくすために能力を地面に使い、静かに降り立つと黒マントへ近づく。腕に触れようとした瞬間、軽く地鳴りがし始めた。地震かとも考えたが、少し離れたところにある木々は全く揺れていない。ここだけということになる。


 急に目線が高くなったかと思うと地面が少しずつ盛り上がってきているではないか。外側へ避けると出てきたのは井戸だ。囲うかのようにして出てきた井戸はそのまま黒マントを飲み込んで、再び地下へ消えていった。


 地面は何事もなかったかのように修復されている。まったく仕組みの理解できず、不思議な感覚になりながらもさしものいる方角へ走っていった。





 夜風に当たって体力を取り戻しながらその姿を見つけたなほはさぞかし驚いただろう。しばらくぶりに見たさしもは、気絶寸前だったのだから。

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