第十七句
「いつも、忘れないでくださいね。」
「はい、わかりました。みなさんにも伝えておきます」
ここはある大きな館。
ここには、百人の青年たちが暮らしている。
「みなさん、博士から連絡がありました。今まで見たことがない影狼が出現したから気を付けるように、と」
通称:花
管理番号:009
主:小野小町
花柄をあしらった袴を着たその青年、花は、まるで女性のような見た目をしていた。初めて見た者は彼の虜になるであろうが、ここにいる人たちはすっかり慣れているようだ。
「それって、噛んだ人を影狼にできる奴だよね」
通称:ちはや
管理番号:017
主:在原業平
「ちはや君、知ってたんですか?」
通称:天つ
管理番号:012
主:僧正遍照
眼鏡をかけた優しそうな雰囲気の天つは、ちはやと呼ばれた髪の長く着物を着こなしている少年に問いかけた。
「うん、最近噂になってたから僕も何だろうって思ってたんだ」
「それ、僕も知ってるよ! “おとめ先生”知らなかったの?」
通称:海人
管理番号:011
主:小野篁
天つはどうやら“おとめ先生”と呼ばれているらしい。天つは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「そういえば、僕たち百人一魂の中にもその影狼に噛まれた人がいるらしいよ」
通称:まつ
管理番号:016
主:在原行平
床に小さく座っていたまつは小声で言った。
「なんか、自分の本性が現れる?みたいなこと言ってたかなぁ」
あたりの空気が凍てついた。話を始めたまつ本人は声こそ笑っていたが、少し涙目になっていた。
そんな空気の中、音楽のようなものが流れた。花は懐から携帯を出すと耳に当てて声を一オクターブほど高くした。
「あぁ、博士でしたか」
『ごめんね花君。仕事を頼みたいんだ』
花の表情が真剣になった。それを見て皆も電話の内容を察した。
『そういえば、二人はもう帰ってきた?』
「いいえまだです。私が行きましょうか?」
『お願いできる?えっと、あともう一人は……』
「あのぉ……僕が行きましょうか?」
花が声のした方へ目を向けると、そこには小さく手を上げたまつがいた。目を合わせて笑いかけると花は話を続けた。
「博士、まつ君が行ってくれるそうなのでそうしますね」
『よろしくね』
電話を切ると花は自室に戻っていった。
「まつ君、先に行っておいてください。あとから行きますので」
「えっ……わ、わかりました!」
いつも通り姿見の前につくとお気に入りのキャスケットを深くかぶって気合を入れた。博士からの頼みで他国までおつかいに行った時のお土産だ。いつも来ているマントとおそろいなのでまつは片時も手放したことがない。
(よし!今日も気合入れて頑張ろう!)
早速姿見へ入ると華やかな町が見えた。人は笑い、周りの桜が綺麗に咲いている。季節は春だろうとすぐにわかった。そんな景色の中でもまつは一人で道に座り込んでいる。
(あぁ、知らない人ばっかりで怖いしみんな友達とかといて楽しそうなのに僕だけ一人なの寂しい……)
先ほどまつは他国へおつかいに行ったと言っていたが、彼は極度の寂しがり屋である。おつかいの時だって滞在予定は三日もあったのに、用を済ませてからすぐに帰ってきた。
そうは言いつつも、これは仕事なので改めて気を引き締めてから歩き始めた。人混みに巻き込まれると待った足が止まった。
(やっぱ無理っ!)
それでも、呼吸を整えてから小声で口ずさんだ。
『立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる』
まつの句能力:心の声を聴く
今回は出てくる人が多くて構成が大変だったので素人技が出てしまうかもしれませんが、優しく教えてくれると嬉しいです。