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第百七十七句

「貴方は本当に賢い」

 なほが耳に当てている携帯からは混乱したような声が聞こえた。特別大声を張り上げるなどはなかったが、そんなことは気にせずに対応を続ける。


「じゃあ俺、姿見の前で待ってるから~」


 相手の反応をうかがわずにさっさと電話を切り、独特の機械音を鳴らすコードや大きな機械たちを見つめた。髪に隠れている細い三つ編みを整えたり、鼻歌を歌っているうちに勢いよく扉が開いたと思えば血走った眼をこちらに向けて歯を食いしばっている男性がいた。オーバーサイズの羽織と緩く結った二本の三つ編みをたなびかせながらこちらに近づいてくる。


「なほ……私の許可もなく仕事を引き受けるのはやめてくれないか」


通称:さしも

管理番号:051

主:藤原実方(ふじわらのさねかた)


 さしもは骨ばった方をオーバーに動かしながら説明していた。相槌はしていたものの、本当に納得しているかはわからない。ひとまず説教が終わると何もなかったように姿見へ入っていった。





 蛍の飛び交う野原、その横には立派な建物がいくつもあった。雰囲気からして宮中だろう。


「蛍……」


 そんな独り言をつぶやきながらその場で止まっているさしもを横目に、勝手に影狼探しは開始されていた。今のところただの雅な風景が広がってるだけだ。夢見状態のさしもを引き連れながらどんどん中心へ向かっていった。蛍の光を頼りに移動しているといきなり建物の影で足を止めた。


 衝撃の大きさに両者が目を見開き、突き当たりを覗き込んだ。影狼が下を向きながら何かをしている。よく目を凝らすとその目線をたどった場所にいたのは――人だった。綺麗な衣をまとって烏帽子を付けている、恐らく男性の貴族だ。


 この距離からでもよくわかるくらいに大口を開き、歯が首筋に食い込む、その瞬間だ。覆いかぶさる大きな影が影狼を背中からまっすぐに突き刺した。燃える炎と見違える明るい髪色をしたさしもだ。両手には槍を持っている。


 四肢を地面に這いつくばらせて溶けていった影狼を哀しそうな目で見送った後に男性が立ち上がるのを補助し、何か言ってから記憶をなくす薬を握らせた。瞬きを一つしたらもういない。いつの間にかなほの後ろへ戻っていた。


「いつの間に行ったんだ」

「困っている人がいたら助けるのは、私たち(百人一魂)の基本だと考えてるからね」


 先ほど、なほの後ろでわずかに聞こえた音。壁を蹴るような音から、屋根を伝って行ったと考えられる。


(こんな壁、よく登れるよね――)


 ふと目線を上へ移したとき、影狼が頭上から鬼の形相で落ちてきていた。鋭い爪が構えられている。咄嗟に姿勢を低くしながらライフルを担ぎ、影狼の体が乗った瞬間に弾を放った。飛んでゆくわけでもなく腹の真ん中を貫かれた影狼は銃口の上でぐったりとした。


 二人は顔を見合わせると建物の影から移動した。影人になりそうだった男性は二人の場所を特定するための囮だと考えるとつじつまが合う。武器をしまい、足音を立てずに走るとしばらく行ったところで建物の相手へ身をひそめた。後ろからわずかに影狼の足音がする。こちらに目線が向いていないタイミングになると両者軽々と壁を伝り、屋根の上へ飛び乗った。


 風は少なく、落ちる心配はあまりない。下を見ると何匹かの影狼が目を合わせ、何か話し合っているようだった。そのうちの一匹が溶けて黒マントへ姿を変える。本物と見違えるほどの変身だが、見てしまった以上はどうってことない。


 確認ができたところでそこに座り込み、こちらに気づくまでどれほどかかるか、というタイムアタックを始めた。「はっ」となほがわざとらしい声を出してから懐を探ると、出てきたのは小型の定点カメラだった。


「それは何だ?」

「新型のカメラだって。定点にしないと博士が画面酔いして大変ことになるから」

「だが、それは黒マントの撮影のためだろう。影狼を撮ってどうする?」


 首を大きく横に振って否定すると、カメラの準備をしながら答えが返ってきた。


「違うんですよそれが~。影狼は黒マントの()()しかできないんだから、見た目だけ見ればいい材料になるんだよ」


 納得しながら起動したカメラには、ばっちりとその姿が映っている。そんな二人の目はいきなり鋭くなり、瞬時に武器を構えて後ろへ向いた。

この章に出てくる百一の主は二十六番のみゆきの親戚がたくさんいます。今回はひ孫ペアです。

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