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第百七十六句

「もう少し時間があれば……」

 葎の真剣な表情から話されることを掴んだのか、もがなは体を真正面に向けて姿勢を正し、正座をした。


「もがな君は僕に『嘘が下手』って言ったよね」

「はい」

「その言葉、そのまま返すよ。君は嘘が下手だ」


 あまり驚く様子はなく、むしろその話を待っていたかのように聞き入れた。変わらぬ表情に少しの不安が芽生えながらも話を続ける。


「最後、一緒に戦ったときに君は能力を使ったんだよね?しかも()()()()()

「どうしてそう思われたのですか?」


 恐ろしいほど瞬きの一つもせずに質問で返される。負けじと求められたことに対して言及をした。


「君が来るまで僕は体力が限界だったんだ。だけど、君が来てから妙に体が軽くなったんだ」

「極限状態に置かれた者が発揮できる実力じゃないですか」

「それと比例するように君は体力を失ってた。代償に自分の体力を使ったんでしょ?」

「あの時は俺も疲れてました」

「僕が気絶する前に聞いたのは何だったと思う?君の能力解除の和歌だよ」

「っ――、それは幻聴で――」


 衛士がどこからかスタンドライトを持ってきて葎に手渡すと、その光がもがなに直接当たるような角度で当てた。顔を手で塞いでいるところへ顔を近づけて問い詰めた。まるで昔の刑事ドラマだ。


「白状したらどうだ?」

「良いことをしたのに隠すなんて、もしかして君は“ツンデレ”ってやつなのかな?」


 その一言で表情が、一気に変わる。顔を覆っていたの両手になり、一度完全にふさいで下を向いていた。大きなため息が聞こえる。再び顔を上げたときには最初と同様の真剣な表情となっていた。


「衛士さん、葎さん、二人して俺をからかうのはやめてください。犯人は俺ですよ」


 手を挙げて『降参』のポーズをとると、向かいに座っていた二人は顔を合わせてにやりと笑った。そして、居合わせた末が理解できないほどずっと笑っていたとか。戦闘後にもかからわず、すっかり疲れは吹き飛んでいた。


 突如机が大きく揺れたと思うと、それは上に置いてあった携帯からのバイブレーションだった。持ち主の衛士が素早く手に取り、誰からの電話かも確認せずに通話ボタンを押した。


「もしもし」

『衛士君、今大丈夫?』


 一応声を低くしたが、予想通り博士の声がしたので安心した。隣にいる三人に顔を向けるとウィンクまでつけながら人差し指を口に付けて静かにしてほしいという合図を送った。


「報告書ならもうもがなさんが……って、大丈夫ですか?」

『うん、大丈夫……じゃないね』


 いつもよりやつれている声から何があったのかと心配したが、理由はすぐにわかった。


『いやぁ、この前の衛士君と末君の戦いを画面で見てたんだけど、二人とも動きが速いから画面酔いがひどくて』

(……なんかすごい罪悪感あるな)


 想像は容易にできる。口を押さえながら会話に戻るといきなり本題を話していた。


『立て続けにごめんね、また仕事が入ったよ』

「またですか、最近本当に多いですね」


 百人一魂で一度に仕事を頼めるのは各グループで一から三人。部屋は十に分かれているのだから最大で同時に三十人が行ける。一日に同じグループへ頼むわけではなく、次のグループへ回されるはずだ。先ほど戦いが終わったばかりなのにもう一周するほどまで来たということだ。


 葎ともがなにはもちろん行かせられない。そうなると自分たちになる。言い出そうと思ったその時だった。足音も立てずに部屋へ入ってきた者がいた。着物の袖を紐で留め、裾には土汚れがついている。がっしりとした腕は、どれ程見ても何を考えているか分からない目や風がなくてもふわりとしている髪からは想像できない。


 そちらを見るや否や、軽く会釈をして話し始めた。


「見苦しい姿ですみません。さっきまでしのぶさんの庭園作りのお手伝いをしていました」


通称:なほ

管理番号:052

主:藤原道信(ふじわらのみちのぶ)


 事情を説明するとなんの迷いもなく受け入れてくれた。先程まで力仕事をしていたと見られるので逆に心配になる。だが、いつの間にか衛士の携帯を取って応対を済ませていた。着物の紐を外すとなほは自分の携帯を取り出して電話を始めた。

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