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番外編:最強の武器、それは――“酒”

「酒は飲んでも飲まれるな」

ここはある大きな館。

ここには、百人の青年たちが暮らしている。


「いえー!」

「酒だ―!」


 いつもは自分の主を守るため、能力を駆使しながら戦っている彼らだが、そんな彼らにも休みというものがある。毎週土曜日、博士が影狼の出現場所を調べるので戦わない。そんな日くらい静かにすると思いきや、そんなことはない。彼らにも欲が存在するのだ。


「露さん相変わらずテンション高いね~」

「僕は毎週この日のために戦ってるからね」

「やりすぎないでくださいよ。他の方に迷惑になりますから」


机の上に缶を並べて楽しそうに見ている露は、夏来に注意された。今日の参加者は露、夏来、しだり、高嶺だ。百人一魂は主が成人していればお酒が飲めるようプログラムされているので、心配ご無用。だが、夏来に関しては見た目が他の三人より幼いので、買いに行った人はじゃんけんで負けたしだりだった。


「ごめんねしだり君。買いに行ってもらって」

「いや、全然」

「そういえば鵲君たちはどうしてるんですか?」

「えっとねー、お酒飲まないなら早く寝てねって言ったら三人で恨みの会始めちゃった」

「なんてことを……」


 夏来の心配している目を気にも留めず、さっそく炭酸の音が部屋に広がった。


「乾杯っ!」


 





 ――缶の中身がなくなるまでに時間はかからなかった。露は何があっても笑うし夏来は日々のストレスを叫び始めるし高嶺はなぜか缶の中に塩辛を入れるし……一言で表すなら“混沌”だろう。その中でも一番落ち着いていたのが、台所のカウンターにいたしだりだった。


「しだり君?君ほんとに飲んでるの?」

「あぁ」


 三人は酔っていて気付かなかったようだが、実はしだりのグラスにはただの水が入っていたのだ。リビングの中はだんだんとうるさくなり、あっという間に夜は更けていった。





 静かになった部屋の中、寝ている三人を起こさぬように片付けをしている者がいた。もちろんしだりだ。机の上の缶をビニール袋に入れていると、あるものが目に留まった。まだ開けられていない缶だ。しだりは、その缶をしばらく見つめていた。





(うーん……やっぱり一人は怖いなあ……)


 深夜一時、紅葉は喉が渇いたので黄葉を連れて自室から台所に向かう廊下にいた。黄葉がいてもやはり暗い場所は怖い。周りに注意しながら進んでいるとリビングの電気がついていることに気が付いて駆け込んだ。部屋に入った紅葉は驚いた。さっきまで酒を飲んでいたとは思いえない静けさ、床に倒れている露、夏来、高嶺。そしてカウンターで自分の腕に顔をうずめているしだり。まるで事件現場だ。


(起こさないように、そーっと……)


 つま先立ちで歩いて何とか台所に行くことができた。コップに水を入れたその瞬間だ。


「ん……」

「ギャッ!」


 目の前のカウンターで寝ているはずのしだりが動き始めた。思わず紅葉は短い悲鳴を上げた。


(絶対起こしちゃった……早く戻ろう……)

「……紅葉?」

「はいっ!そ、即刻立ち去りますのでどうか命だけは!」


 速足で部屋を去ろうとすると、パジャマの裾が捕まれた。それも、結構強い力で。


「待って……」

「え……?」

「行かないで……」


 よく見るとしだりの顔が赤い。紅葉はカウンターを見るとそこにはまだ中身のある缶があった。


(まさか……しだりさんってお酒弱いの⁉)


 普段との違いに驚きながらも、とりあえず隣の椅子に座った。


「しだりさんって、お酒弱かったんですね……」

「うん。人の前では極力飲まないようにしてるけど……やっぱ駄目だね」


 そこまで言うといきなり泣き始めた。


「大丈夫ですか……?」

「大丈夫。に、見える?」


 今度は笑った。しだりは酒を飲むと感情の変化が激しいらしい。唐突にされた質問に固まることしかできなかった。ようやく出てきた答えがこれだ。


「……僕にはわかりません」

「……フフッ、ごめん。それでいいんだよ。俺は夜になるといつもこう、寂しくなっちゃうんだよね。俺の主も奥さんが先に死んじゃって。たくさん泣いたんだって。俺はお前らといるのが楽しいから、みんなと会えなくなる夜が好きじゃないんだ」


 紅葉はその言葉に感心した。確かに、個性的である他の者に振り回される毎日は大変だが楽しい。思わず涙が出てきた。


「えっ……俺なんか嫌なこと言った?ごめん……」

「違うんです!その、僕もすごく共感出来て……僕も夜はすごい寂しいです。しだりさんは普段感情をあまり表に出さない方なので仲良くなれるか不安だったんですけど……同じ考え方の人がいたのが嬉しくて!」


 二人はふと目が合うと、失笑した。深夜二時、窓を見ると少し空が明るくなっていた。


「このままも戻るのもあれだから、眠くなるまで話そうよ。ほら、寂しい者同士として」

「フフッ、そうですね」

「あっ、そういえばこの前鵲が……あと夏来さんが――」

(酔ったしだりさんってなんか犬みたいだなぁ)


 頭の中に黒くて大きい犬が出てきた紅葉だった。





 午前七時、鵲と月は二日酔いに苦しめられている三人の体調を見ていた。残されたしだりと紅葉はカウンターで幸せそうに寝ている。何か物音でもしたのか、二人は同じタイミングで顔を上げた。


「お、おはようございます!」

「おはよう、紅葉」


 しだりは眠そうに目をこすると、いきなり体を停止させた。


「どうしたんですか……?」


 ゆっくりと紅葉のほうへ向けられたその顔は、酔っていた時よりも赤かった。カウンターをバンッとたたくと、立ち上がって紅葉に顔を近づけた。


「絶対に……」

「えっ?」

「昨日のことは絶対に誰にも話すなよっ!」

「は、はいっ!」


 どうやら自分の弱い姿を見せるのは恥ずかしいようだ。紅葉は涙目でそれに答え、後日そのことを誰かに言ったら黄葉を一週間没収ということになったとか。

番外編はこんな感じでコメディテイスト(?)なのでご了承ください。

次の話から投稿時間を16:00に変更します。次からもぜひ見てください!

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