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第百六十三句

「そんなこと、言わないで」

「あぁ、二人ともお帰り」


 二人が部屋に帰るや否や、聞きなじみのある声が響いた。


「ただいま帰りました」

「おう、ただいま」


 あの後すぐに姿見の中へ戻り、銃を何発も喰らった衛士は特別医務室へ行った。最近はこういうことが多いらしいので偶然居合わせた(はる)曰く、医者改め白菊はストレスが多いらしい。いつも無償で能力を使って治療してくれるのは思えば感謝しなくてはならないことだ。お礼の品でも渡そうかと考え始めたときには目の前に衛士がいた。


 事情を話すと一緒に選んでくれるとのことで町へ行きたいのだが、さすがに今の状態では疲れが積み重なると思って一度部屋に戻ってきたのだ。


「今回もいた?黒マント」


通称:(むぐら)

管理番号:047

主:恵慶法師(えぎょうほうし)


 見るだけで安心するような目を持っている葎は本を閉じ、ゆっくりと二人に目を向けた。姿勢や言葉遣いから丁寧さがにじみ出ており、思わずこちらも姿勢を直した。


「はいっ。俺、頑張りました」

「衛士はいつも頑張ってるね。末くんも、大変だったでしょ」


 いかにもうれしそうな表情で末も話し始めた。


「はい。やはり猛獣使いは大変ですね」

「ん?猛獣使いって……俺は動物じゃねぇよ!」

「冗談ですよ」


 大きな怪我があったとしてもこの明るさを出せるのは、衛士の特徴と言ってもいい。それを分かったうえでの二人からのいじりだ。だが、そこから葎は一瞬にして真剣な表情となって机に合った紙とペンを自分のもとへ引き寄せた。


「さて、ここからは大事な話をしよう。二人とも、今日の戦いで気づいたことはある?」


 この部屋では、オリジナルの報告書を作って何か変わったことがあれば記入し、博士に報告する形式となっている。面倒に感じている者もいるようだが、やることで博士も情報整理がはかどるらしい。葎の真剣な表情に見つめられ、末は手を挙げた。


「今日、衛士さんが能力を使っているときにサポートとして戦っていたのですが……黒マントがこちらを見たときに周りの影狼たちの動きが明らかに速くなっていました」

「それは……上司みたいなもんだから怒られたくなかったんじゃないの?」


 顎に手を当ててうつむく末に、葎は首を傾げた。


「末くん、君には別の考えがあるの?」

「はい。あまり確信も持てませんし、何なら衛士さんの方が可能性は高い。でも、私は()()()()()()()()としか思えませんでした」

「なっ――操り⁉」


 急いで文字に起こされると、再び詳細を聞きだされた。影人と同じように、影狼も操られている。ヒエラルキーの高い者に、低い者は操られてしまうのではないか、と。言い終わると報告書を渡された。


「はい、どうぞ。博士に報告と、これを届けないと」


 受け取った二人はすぐに部屋を飛び出し、報告書を送っていった。





 数日後――


「うーん、エアコンが全然効いてないね」


 台所にいた葎は服を軽く引っ張って風を起こしていたが、それでもまだ暑い。エプロンの内側にある木物は涼しいものにしたはずだが、台所ということもあって熱気が倍に感じた。すぐに湯気が立ち込め、それは大きく広がると一瞬にして視界を奪った。


(しまった、火にかけすぎたかも……)


 手探りで火を止め、煙が治まったころに後ろからの気配を感じた。振り向くと後ろには――。


「うわーっ!だっ、誰?」


 突如見えたのはガスマスクをつけている長身の者だった。手には消火器を持っており、煙のせいか白く輝いている髪が一層輝いて見える。


「あ、すいません。驚かしましたよね」


通称:もがな

管理番号:050

主:藤原義孝(ふじわらのよしたか)


 ガスマスクを取ったときに見えた顔はとても整っており、葎は一瞬「これはガスマスクをしておいてよかった」と納得してしまうところだった。


「ていうか、何してるの?」

「あ、たまたまそこを通りかかったら煙しか見えなかったので、火事かなって思って」

「そのガスマスクは?」

「私物です」


 話が終わったところで葎の携帯が激しくバイブレーションした。急いで出ると、いつもの声だった。


「博士。こんにちは」

『こんにちは、仕事、頼んでも大丈夫?』

「えぇ」


 じっとこちらを見つめるもがなに口パクで『仕事』と伝えると、納得して部屋を飛び出した。彼なりの気遣いなのだろうか。


『ペアはどうしようか』

「基本的に誰でも、ちょっと待ってくださいね。誰がいるか確認を――」


 台所から顔をのぞかせた瞬間、立っていたのは準備を済ませたもがなだった。

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