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第十六句

さようなら

「紅葉君……もみじー……起きろッ!」


 周りに風が起きるのではないかと思うほど大声で呼ぶと、紅葉は一瞬で飛び起きた。


「すいませんッ!」

「よし、許す」


 しばらく正座をしていた紅葉は周りをきょろきょろし始めた。


「あの……黄葉ってどこですか……?」

「カエデ?んー、月君のところにあるんじゃない?」


 必死に周りの竹を見ていく紅葉にあきれながらも、一緒に探してあげることにした。しばらく奥の方へ進んでいるとそこには幸せそうな顔をした月と黄葉がいた。


「ん……」

「おはよう」

「大丈夫……ですか?」


 こちらの心配を気にも留めないかの様子で月は笑顔になった。高嶺と紅葉は内心驚いた。


「うん。そっちは大丈夫?」


 まるでさっきまで何もなかったような振る舞いだ。


「月君。さっきまであったこと、覚えてる?」

「えっと……、能力を使って紅葉君に意識を移して、影狼を倒して……」


 急に無言になった月を見て高嶺はそれ予想していたかのような顔になった。


「まぁいいや、とにかく行こう。ちょっとお客さんを迎える準備が必要だからね」

「「お客さん?」」


 不思議に思いながらも三人は移動し始めた。





「――やぁ。こんにちは」


 男性が起きるとそこには見慣れないものばかりがそろった部屋と三人の青年が見えた。無精ひげを蓄えた男性――高嶺が爆竹で気絶させたあの人だ。


「大丈夫ですか?」

「……あぁ」


 手のひらに布団の柔らかい感触があり戸惑っている男性を、三人は面白そうに見つめていた。


「ここはどこだ?お前らは……」

「気にしなくていいよ。それより、君はなんか覚えてることある?」

「えぇと……家でずっと寝てて、そろそろ怒られるかと思って家から出て……気づいたときにはお前が目の前にいたんだよ」


 男性は高嶺を指さしながらそう答えた。どうやら、襲った時の記憶はないらしい。高嶺は顎に手を当ててしばらく部屋を歩き回った。彼が何かを考えるときの癖である。一分もかからずにそれをやめると男性に粉薬を差し出した。


「ありがとう。君、怪我をしているみたいだからこれを飲むといいよ」


 それを差し出すと飲む暇も与えず男性を姿見の前まで手を引っ張った。


「ほら、ここから君の家に帰れるよ」

「あの……薬は……」

「あぁ、今飲んでよ」


 見た目に反して丁寧に薬を口に入れると、ゆっくり飲み込んだ。高嶺はすかさず男性を鏡の中へ押し込んだ。


「もう寝すぎないようにしてね~」


禍々しい光が消えた姿見の中、男性は今頃()()()()()()()()()()()()()だろう。三人はリビングに戻っていった。


「高嶺さん、あの薬って?」

「あぁ、博士からもらったの。影狼の情報とかを聞くためにあっちの時代の人を呼んでいいかって聞いたんだ。あの薬は、僕たちに会った時の記憶をなくすことができるみたい」

「いつの間に……」


 高嶺の影狼に対する準備に二人は感心した。


「そういえば月君。君の主の死因は何かわかる?」


 月はさっきのような絶望に満ちた顔をせずに言った。


「僕の主は遣唐使で、帰国しようと思ったけど反乱が起っちゃったの。だから唐に残って働いてたら日本に帰れないまま亡くなったんだって」

「えっ……」


 紅葉は驚きを隠せなかった。さっきまで主が幽閉されたと泣きながら言っていた彼はどうしたのだろう。


「君の主は幽閉されたんじゃなかったっけ?」

「やだなぁ。そんなの()()だよ」

「……やっぱり。さっきの君は“裏”だったんだね」


 表情一つ変えず話を聞いていた高嶺はいきなりそんなことを言い出した。


「裏?」

「僕、さっき月君を見たんだ。でも、それは月君じゃなかった」

「どういうことですか?」

「月君……いや、彼には鬼みたいな角が生えていて誰も近づけさせないような雰囲気で……まぁ、とにかく不思議だった」


 月は何かを思い出したらしく、部屋に声が響いた。


「それって主の伝説とそっくりだよ。主は幽閉されて亡くなった後、鬼になったの」

「高嶺さん、それ以外はなんかありましたか?」

「えっと……アイツらがどうとか?」

「多分それは幽閉した人のことだと思う」


 まだ納得はしていないようだが、そこで話は一段落した。


「そういえば、今日の影狼はいつもと違ったね」

「僕たちも見た!歯に色素みたいなのがついてたよね?」

「さっきの男性は影狼に噛まれていたんだけど、傷口に同じ色素がついてたんだ」


 周りから足音が聞こえ始めた。まもなくリビングに入ってきたのは露、夏来、しだり、鵲だ。


「なに話してたの?」

「今日の仕事で気になることが……」

「気になること、ですか?」


 今までの状況を整理して話すと四人は興味深く聞いていた。


「つまり、その塗料とやらが人を影狼にするんだな?」

「まぁ、予想ではあるけどね」

「じゃあ、僕が前見たのも影狼じゃなくてその人本人ってこと?」


 高嶺が頭を抱えていると、そこに電話がかかってきた。博士からだ。


「もしもし~」

『もしもし高嶺君。大丈夫だった?』

「はい。博士、相談したいことが……」


 今まであったことを話すと博士も電話越しにうなった。


『うーん。つまり、その影狼は人を噛むとその人を仲間にすることができるんだね』

「うん。でも、月君が変わったことには何か関係ありますか?」


 電話はスピーカーだったので全員に聞こえていた。高嶺は月へ目くばせすると、月は顎に手を当てた。


「あっ……そういえば、影狼が僕の槍の柄を噛んだ時に結構強めに頭突きをして……その時に傷に何かが当たったんですよ。もしかしたら、その色素かもしれません。」

『百人一魂にその色素が付くと、主の“裏”が出てくる……。なかなか興味深いね』

「いきなり月君の言ってることが変わったので驚きましたよ」


 月は少し恥ずかしそうに下を向いた。


『わかった、他の人たちにも言っておくよ』

「お願いします」


 電話を切ると一人、自室に戻った者がいた。紅葉だ。


(今日も疲れた……)


 もちろん、黄葉を忘れずに持っている。夕食にはまだ時間がある。それまで何をしていようかと部屋を見渡していると、急に肩にズキッとした痛みが走った。


「いだっ!……なんだろう、どっか怪我したかなぁ……?」





ここはある大きな館。

ここには百人の青年たちが暮らしている。





飛鳥・奈良編 《終》

投稿が遅くなってしまいすいません!

これで飛鳥・奈良編は終わります。番外編をはさんでから新しいところへ入っていきます。しばらく露達には会えませんが、忘れないでください!

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