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第百五十九句

「情熱というのは、長続きしないよ」

 数分前――


 衛士は末から受け取った銃を構え、行く手を阻んでくる影狼たちをどうにかしようと周りを見渡した。二、三重にも重なる黒マントたちの向こうにはすでに本物と戦っている末の姿が見える。どうにか手伝おうと必死になって戦った。


 ちょうど向いていた方向から下半身を狙っているかのような低姿勢で来た者に片足を近づけ、膝を曲げると引っ掛けて地面に押し付けた。だが、銃を動かしたところで泥のように溶けてゆく。


(変身を解いた⁉)


 影狼の姿に戻られ、するりと抜けられると再び人型になった。これではらちが明かない。すっかり疲れてしまった体を落ち着かせるようにしゃがむと大きく息を吸い込んでから足を大股に広げながら高く跳んだ。後ろに来た足が頭と思われるところに強く当たる。それに続いて体を百八十度回転させ、前にあった足で側面からも蹴りを入れる。さすがのこれには倒れることしかできなかった。


 地面に這いつくばっている背中へ着地し、後頭部の真ん中に弾を撃つと返り血と共に灰が顔へくっついた。そこから一度に襲い掛かられ、ひとまず近くにいた者を銃身で殴った。首を両手で押さえて背中へ乗り込み、またしても空中へ避難する。低くなっていく目線が変わらなくなる前に次の者の背中へ移動した。今度は一回転してかかとを当てる。すぐさま周りが足を掴んできたが重心を前にして覆いかぶさった。


 手の届くところにいた者を押し倒しながら着地して手で支える。だが、手のあった位置は額のちょうど真ん中であり銃が握られている。撃たれて気絶したのを確認すると地面に手のひらを置き、後ろに待ち構えている大群へ目を向けた。逆立ちの状態で足を広げて時計回りに一回転すると、ある程度の距離がとれた。


 だいぶ数は少なくなっている、あと一歩だ。だが、いきなり視界に入ってきたものは見たくなくても目にこびりついた。――末が倒れているのだ。その目の前には煤を払っている黒マント。微かに見える腫れあがった顔を見るや否や、のどから言葉が出てきた。


「やめろぉぉぉぉっ!」


 影狼たちを飛び越えて二人を遮る位置に着地する。傷だらけで目を瞑っている小さな体を持ったところで後ろからの殺気を感じた。すかさず右腕を伸ばして上半身を回転させると黒マントはよろめいた。その間に末を抱きかかえると急いで屋根を飛び越えてあるわずかな隙間に入っていった。





「っ……!」


 末は起きると同時に頭がくらみ、頬の痛みを感じた。目の前では衛士が残弾数を数えている。


「おっ、末ちゃん起きた?」

「……申し訳ございませんでした」


 突然の謝罪に困惑している衛士の目をまっすぐ見て、今までの状況を説明してもらった。影狼と黒マントはまだ残っているらしいが、隠れたことで攻撃ができないらしい。末の大きなポケットから出された湿布を貼っていると突然いつもの冷静な表情が見つめてきた。


「衛士さん、今、楽しいですか?」

「いきなり何……」


 あまりに真剣な目に冗談は通じそうになかったため、無理な笑顔は消した。


「目の前で仲間がやられて、楽しいわけがない。俺は怒ってるよ」

「じゃあそれを楽しい思い出に変えましょう」


 訳のわからないことを言い出したかと思いきや屋根に飛び乗り、風になびかれながら和歌を唱えた。


『忘れじの 行く末までは かたければ』


 その背中を追うように屋根に乗ると、影狼たちの注目が一気にこちらへ来た。


「今のでわかりましたよ。私たちには時間がありません。ですが……勝算はある。衛士さん、能力を使いましょう」

「でも……」

「知ってますよ。貴方の能力の発動条件。『夜』と『高揚した感情』です。自分にある怒りを全て能力にぶつけてください」

「……わかった」


 あまり納得していない様子に口角が上がると、一度口に当てた手を真上にある月へ指した。


「夜は私が守ります」


末の句能力:時間の流れを変えずに空間の状態を維持


 末が能力を発動している限りは時間が昼でも空は夜のまま。これが博士の思う『能力の相性』だ。銃を捨てて頭を抱えると、近くにいないと聞こえないくらいの声で和歌を唱えた。

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