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第百五十五句

「お前はなんて歌を!」

 数分前――


(……まずいっ!)


 衛士が他に怪我のしているところのないか確認しているとき、突如上から襲い掛かってきたそれを右に転がって避けた。簡易包帯を完全に巻いてから装弾数を確かめ、素早く目の前に向かって銃口を向けた。自分よりも少しばかり背の低く、黒いマントで全身を覆っている人物だ。


 あちらも銃を構えてきたため、銃口の向く先をよく見ながら行動した。直線的にではなく、左右ばらばらに避けることで動きの予測をつけにくくする。弾数を気にしながら移動するたびに打ち込んでゆくと、順調に距離を詰められた。手の届きそうなところまで来ると両腕を必死に伸ばし、マントを掴もうとする。だが、手のひらに一発が貫通し、流れ弾が顔をかすった。


 左手を使わないように振り下ろすが、その隙の右腕を握られてぐっと体が引き寄せられた。ちょうど胸元に銃口が当たったのを感じると反射的に膝が相手の腹へ直撃した。後ろへ引き下がっているうちに無線を取り出して末に連絡をした。


「末ちゃんっ!」


 すぐに返事が来ないという当たり前の状況でも、焦りが勝っている。


『――どうされましたか』

「今、黒マントが目の前にいる」


 ノイズの入りながらも変わらぬ声に安心しながらも、冷静になろうと状況を説明した。


『――見つかっているのですね』

「うん、だからッ――」


 用件を説明しようと思ったのにもかかわらず、黒マントは再び覆いかぶさるように襲って来た。無線を落としながらも地面に腰の付いたまま銃を構えた。腕についている包帯を噛みちぎり、傷口から菌が入らないようにしてから左手を付けると両足を浮かせて蹴りを入れた。腹を押さえながら引き下がっている間に立ち上がり、相手の銃口が地面に向くように押さえた。


 先ほどやられたように体を引き寄せ、さらに追い打ちをかけるように足をかけて固定してから首筋へ手を当てた。思ったよりもすぐに倒れてしまったのを見て安心した。末に報告をしようと、無線を手に取ったその時だ。いきなりマントの下の手足が動き出したかと思うと、膝を胸につけてから勢いをつけて起き上がった。


(っ……!完全に油断していた)


 間合いへすでに入られている状態だと挽回が難しい。銃を取ろうと後ろに手を回している瞬間にはもう人差し指は引き金についている。少しでも引こうとして、草に足をとられた時だ。頭上の影がだんだん大きくなっているのだ。決して自分のものではない、思ったよりも小さな影だ。上を向くと、その者には月明かりが見方をしているように見えた。


「――シャッターチャンスだッ!」


 上から刀を背中に当てながら舞い降りてきたのは、末だった。黒マントは銃身を立て代わりに押さえると、衛士と真反対の位置へ降りて挟み撃ちの体制となる。目線が末へ行った瞬間、意を決して相手の足を蹴った。予想外のことに姿勢を崩してしまうと続いて末が畳みかけた。手を拘束しながら背中に乗り、完全に動きを止めると手足を激しく動かしていた。


「ちょっと、動くと落ちてしまいます」


 黒マント相手でもこの様子、衛士は感心しながらも頭を下げた。


「ごめんなさい!俺のせいで作戦変更することになって……」

「はて、何の話でしょう?」


 まさかの反応に変な声が出ると、いきなり見た目に合っているように小さく笑っていた。


「冗談です。私が衛士さんを侮っていたせいですよ、責任はこちらにあります」


 怒っていないことを確認してから急に力が抜けたようで、その場にへなへなと座り込んだ。だが、その瞬間にどこからか指を鳴らす音が聞こえた。

 

 地面が少しだけ揺れ、目の前に出てきたのは見慣れた井戸だった。気を取られている間に末を振り払い、黒マントは逃げるように井戸へ入っていった。ほんの一瞬の出来事だ。


「あら、逃がしてしまいましたね」

「……というか、さっき末ちゃん『シャッターチャンスだ』って言ってたけど、何だったの?」


 そういわれるとポケットのカメラを再度取り出して衛士に見せつけた。


「身長を知っている人と知らない人が並んだら、大体の身長は予測できますよね」

「だから上からの登場だったのか……」


 いつの間にか消えていた井戸のあった場所を、二人はしばらく睨んでいた。

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