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第百五十句

「この気持ちはどうやったら押さえられる……?」

 影狼が茂みの中を確認しても、人影なんて見当たらない。その急いで探している時間は、浅茅にとって有利なものだった。息をひそめ、一切気づかれずに近づいていくと一番近くにいた者へ大きく刃を振りかざした。他のものが気付いて振り返る間もなく木の上へ登る。さすがにその衝撃で落ちていった葉で気づいたのか、目線は木の上へいった。


 登って来られる前に銃を撃ち、混乱させてから木の内側へ着地して距離を取る。そろそろ疲労が出てきそうなので、なるべく短い時間で終わらせたい。中心に影狼を集めると銃で動きを制限してから刀で畳みかけた。あちらの体力もそろそろつきそうだ。動きが鈍くなってきたところを狙って、まるで仕返しをしているかのように後ろを向いている影狼ばかりを狙った。もう右腕がないかと思うくらい振っている。


(もう……無理なのか?)


 左目に汗が入って視野が狭まる。だが、それに手を使う余裕はない。強い地震が目の前で起こっているかと思うくらいひどいめまいがしながらもひたすら前を見続けた。いつの間にか前に影狼がいなくなっており、その代わりにできた月明かりを隠す大きな影を見つけた。振り返ると総勢で飛び掛かってきているではないか。一瞬何が起きたかわからなかったが、その場で刀を捨てて銃を両手に握った。


 ひたすら人差し指に力をため、視覚の足元と上に向かって撃つ。弾切れしたところで一旦刀を拾いながらあはれのもとへ駆けた。木のそばで静かに目を閉じていた。死んでいるかのような表情に心配しながらも、額に手を当てると箱型の爆弾が現れ、マッチで火をつけるとそれを投げつけた。すでに爆弾の怖さを知っているので足が下がっていく影狼の後ろへ移動し、逃げ場を完全になくす。


 まだ起爆はしないようだが、タイミングがわからない以上うかつに近づけない。浅地に目を向けて噛みつこうとしたが、口を開けた瞬間に銃口を入れられた。残った三匹に武器を向け、睨んだところで爆弾は微かに「カタッ」と音を立てて動いた。それに思わず顔を振り返る。


 そのタイミングで高く跳び、一瞬であはれのもとへ戻るとおぶって姿見まで一直線に走り始めた。顔を戻したとき、影狼はさぞかし驚いただろう。疲労に加えて人一人背負って走っているという状態のなので、一度転んだらもう起き上がれない。


 その後、倒れこむ形で姿見の部屋へ戻ってきたところを宵に見つけられた二人は、部屋に運ばれていった。





「……ん」


 起き上がると、いつも見る風景が広がっていた。自室の布団の上だ。上半身が重くなりながらも起き上がると、何か違和感を感じた。目の前の椅子に誰かが座っていたのだ。豪華な着物を着て本を読んでいる――あはれだ。起き上がったのを見てしおりを挟むと、目を合わせてきた。


「あ、もう大丈夫そう?」

「あの……なんで……」


 立ち上がって両手を広げると、ゆっくりその場で一周した。着物を見せたいのだろうか。


「ほら、この前言ってた着物。綺麗でしょ?」

「そうですね」

「みゆきさんに見せたからそのまま着てたんだよね。ほら、話しといて見せないのはなんか失礼だから」


 詳しく話を聞くと、現代に戻って自動的に能力が解除されてから浅茅は三日も熱で寝込んでいたらしい。対してあはれは、自分の体力を使われたのにもかかわらず半日静かにしていたらいつも通りになったとか。


「浅茅君、三十九度の熱なんて出しちゃってさ。みんな総出で看病してたんだ」

「あれ、熱は能力で下げたはずなのに……?」


 最後に浅茅が出した爆弾はプラスチック爆弾と言い、持ち運べる大きさの中でトップレベルの威力を持つ物だ。当然、それなりに体温を上げないと出すのは難しい。あの時は限界を越えて戦い、今かという時に体温を下げたはずがまだ残っていた。


「プラスチック爆弾はただ点火するだけでは起爆せず、点火された火薬に本体の火薬が触れないと爆発しないんです」

「へぇ、なるほど。もしかしたらその時の体温は下げられたけど、その限界を越えた分があとから来た……って感じじゃない?」


 妙に説得力がある答えを出されたので、ひとまずそういうことにしておいた。あはれが部屋から去ると、隠れていた微妙なだるさが頭に直撃してきた。枕元にあった水を飲み干し、頭を枕へ強めに押し付けると一瞬で深い眠りについた。

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