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第百四十九句

「目立たなくたっていい」

『あはれとも いふべき人は 思ほえで』


 いきなりあはれのからだが光だしたかと思うと、それは両手のひらへ集まった。全ての光が集まり終わったところで浅茅の目の前に差し出した。


「手、触って」


 何が起こるかわからない恐怖に包まれながらも、それは言わずにそっと手に触れた。影狼たちが近づけないほどまばゆい光は二人の間で大きく光る。やがて、浅茅は手から全身へ力がみなぎってくるような感覚がした。


 景色が元通りになったときには、浅茅の顔から汗が消えていた。なぜだかわからないが、体力が残っているのだ。前を向くと、あはれの足がよろめいて今にも倒れそうになっていた。


「何を……したんですか」

「なぁに、ただ、僕が持っているものを君に渡しただけだよ。それが僕の能力だ」


あはれの句能力:一時的に自分の()()を対象者に預ける


 どんどんまぶたが閉じていくのを見て焦りが加速していった。


「僕の体力、攻撃力……その他もろもろは今君の中にある。大丈夫だ、一人でもできる」

「あはれさんの『命』もですか?」


 言葉の違和感をすぐに指摘すると、少しだけ目が開いた。わずかな間があってから話される。


「そうだよ。解除後には残った体力が反映される。僕の体力を使っているうちに怪我を負ったらそれは僕の怪我だ」


 もう少し詳細を聞きたかったが、影狼は待ってくれないようだった。いきなり飛び込んできたのを、あはれの側にあった銃をとっさに構えて引き金を引いた。思ったよりも反動が少なく感じる。これも能力のおかげだろうか。


 この戦いには人の命もかかっている。なるべく使う体力を減らしたいと思い、あまりその場から動かずに銃を撃ち込んでいった。一緒に渡された弾の装填をこなしながら、順調に数を減らしてゆく。一度中心に集めたところで銃をしまい、高く跳ぶと刀を鞘から抜いて落ちていく間に刃先を真下に向けた。何匹かが鍔と地面の間で串刺しになったが、その衝撃は強く、逃げていくものもいる。すかさず赤黒い血がついたままの刃を背中に持っていきながら地面を思い切り蹴った。


 一気に距離を縮め、右腕全体を使って大きく振った。二つに分かれた体の切り口から灰になっていくのを見ると、左手に銃を持って真ん中にいたままのものを逃げられなくする。影狼と真正面で目が合うかと思えるほど、力を抜いた状態だったら余裕で手が地面につくくらいまで低姿勢になりながら再び近づいた。


 体力など関係ない。苦しいと思っていためまいがするたびに口角が上がってしまうかと思うくらい、楽しいのだ。手に額を当てるが、まだ熱くない。右手に刀、左手に銃を持ったままで、数えられる程度にまで減った影狼たちの中へ入っていった。あちらの戦略は先ほどとまったく同じだ。視覚外の所から襲ってくるため、最初は背中側に銃を持ってきてひたすら乱射した。多少反動は大きくなるものの、あはれから預かった銃さばきならカバーできる。


 左手の銃をしまい、目線が後ろに行きながら焦っている様子だった正面の影狼を一突きしようとすると間合いの距離を変えずに全体で輪を大きくされた。視覚から外れやすく、攻撃のタイミングをあやふやにされた。いちいち近くまで行かないと正確な攻撃ができないが、近づいたと手後ろで何を企まれているかが読み取れない。


(どうしよう……このままじゃ倒せない!)


 数は少ないとはいえ、四方八方から囲んでくる。どうにかして近くに寄せたい。ふと目に留まったのは、影狼をも囲む木々だ。一度呼吸を整え、疲労が出てくる前に大きく吸った息を止めた。垂直に高く跳んだかと思うと、目線や体勢で着地地点を調節して木の中に隠れた。当然、着地したときの衝撃音は隠せない。だが、浅茅は自らの影の薄さを信じている。


 着地して間もなく刀を鞘へしまって銃を両手で持つと、一切移動するときの音を立てずに頭めがけて撃った。正面にいた影狼に当たり、倒れてゆく。混乱して集まってくる影狼を、いつの間にか真反対に位置する木の上で、眺めていた。

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