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第百四十六句

「あなたがいないと、死んでしまう」

 茂みから出てきたのは影狼ではなく、人だ。あはれがほっとしていると、老人は足をよろめかせながら近づいてきた。目の前で急に止まってきたかと思うと、その顔は大きく目を見開いていて大きな牙を見せながら、にたぁっと笑った。背中に隠していた両手を素早く出し、マントをひっかくとあっという間に破けた。


 それでも決して引いたりはせず、その両手を合わせて取っ組み合いになった。位置がずれて手に爪が刺さっているがそれでも気にしない。他に影人がいる様子ではなさそうだったが、操られているのは明確にわかる。


(例の黒マント集団か?いや、この前の報告には激しく負傷したと書かれていたな。……それなら、影狼の可能性が高い)


 そう思い、周りを見渡した。しばらく経っても両者互角であり、汗が所々からにじみ始めたときに()()は見える。黒いマントの人物だ。こちらを見つめているばかりで何も攻撃はしてこない。それでもあまりの衝撃で一瞬力が緩み、押し飛ばされてしまった。


 深く傷がついてしまい、左手が使えそうにないのでピストルを一つに絞り、両手で持った。もちろん狙うは後ろにいる黒マント。すぐに立ち上がると、尋常ではない速さで追いかけられた。なるべく音を立てないように走りながら徐々に距離を詰めてゆき、とうとうすぐに後ろまで来た。


(確実に勝った、このまま撃ったら灰になる!)


 今まで宵も強く引き金を引いたが、惜しくも顔を横にずらされて化する程度になってしまった。だがおかしい。布が破れるだけで、変形しようとする動きなんて一つも見られない。それに加えて布の破れたところからは血がにじみ出ている。


 顔を合わせられると銃口を押さえられ、動かせないようにされた。それと同時に老人が迫ってきたのでもう一方の銃を出して一発撃った。幸い、服に貫通しただけなので傷は負わせていない。ひとまず距離を置こうと、挟まれている状態から素早く抜け出した。銃は返されていないままだが、最悪一つでもいけるだろうと考えた。


(どういうことだ⁉あちらにも白菊さんのような治癒技術がある?それか――)


 老人は一度木に登り、四足歩行であはれの下へ移動してゆく。


()()()()()というのか⁉)


 飛び降りてきた気配に気づくと、右手で覆うようにして軽く地面に叩きつけた。背中側だったが、相当ダメージは大きいだろう。うつ伏せにして噛み跡を見つけるとポイズンリムーバーを当てた。多少雑になりながらも毒を抜き、背中におぶって木の側まで移動させた。一度木へ隠れると、黒マントの下からは銃とマガジンが出てきた。静かに後ろへ回り込み、マガジンの装填が終わる前に押さえようと飛び出したが、目が合うなり銃口が一瞬だけ額に当たった。


 引き金に指が当たる前に体を反り、体を半回転させて飛び蹴りを食らわせた。背中から落ちたので痛みが残っているが、時間稼ぎにはなった。すぐに立ち上がると近づきながら装填を済ませてひたすら撃った。あちらも手間取ってはいたものの撃ち始め、互いに攻防戦だ。皮肉なことに、あちらは奪った銃を使ってくる。


 息を止めると三歩ほど助走を付け、大きくスライディングして間合いに入った。腕を曲げた反動で立ち上がり、顎の下に銃口を当てる。腕を伸ばしたときよりも内側にいるので、この状態から腕を体に引き付けるのは無理だ。左手を離して相手の右腕を握ると、思いきり引っ張って体勢を崩した。足を浮かせてさらに追い討ちをかけると右手を背中に持ってきて下に押し込み、銃を取り返した。


 背中を一蹴りしてから、先程浅茅が走り去っていった方角へ小走りに大きく距離をとった。顔だけ後ろへ向けると、目の下に人差し指を置いて舌を出す。


「ここまでおいでよ」


 低姿勢になって近づいてきた相手に、全速力を出して逃げた。

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