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第百四十二句

「何で僕は目立たないかな」

 浅茅は、四方八方から囲んでくる影狼を見ながら絶望していた。その横には、倒れた一人の男性。


(どうしよう……。このままじゃ倒せない!)





 数時間前――


 「026」というナンバープレートが下げられた部屋、みゆきの自室の壁には金糸で縫われた着物とどこか昔の学生を思わせる襟のたてたマントを着た青年がもたれ掛かっていた。左耳の前では、暗い色をした髪が数ヵ所に分けて止められており、まるでみゆきと正反対のようだった。


「久しぶり。元気だった?」

「えぇ、僕はいつでも健全ですよ!」


通称:あはれ

管理番号:045

主:藤原伊尹(ふじわらのこれまさ)


 よく言えば小洒落た、悪く言えば悪いとしか言い様のない姿勢で窓の奥を見つめながら会話を続けた。


「最近、新しい着物を卸したんです。模様がとっても綺麗なんですよ。なにせ、三十万もしたんですから!」


 大きくてどこか幼さを感じる目を持ちながらも、その口から飛び出してくる話は大体金だ。新しいものを買っただの、投資が成功しただのと、はっきり言ってあまりよいとは思えない。性格までみゆきと正反対だ。


「あまり、無駄遣いはしないようにね」


 いつも優しいみゆきでさえ困り眉になってしまうほどなのだから相当だ。ご機嫌で部屋の外に出ていったあはれと入れ替わるように、冬が転びそうになりながら扉から顔を出す。どうやら仕事が来たということを伝えに来たようで、準備万端のいづみがその下から顔を出した。


 笑いかけて部屋にいれると、話題はあはれのことになった。


「あれ、みゆきさんとあはれさんって、主同士での関係があるんですか?」

「うん、僕の主にとって、あはれくんの主は孫にあたるんだ」

「だが性格はあまり似ていないな」


 あはれの主である伊尹は、質素倹約を大事にしていた家計にいるにも関わらず、あらゆるところで金銭を無駄遣いしたという。完全に変えろとは言わないが、少しは気づいてほしいものだと三人で頭を抱えた。





『もしもーし』

「仕事ですか?報告ですか?それとも、つくしさんの捜索依頼ですか?」


 噛みつくかの如く言葉が出てくる浅茅に圧倒された博士は、しばらく右耳が痛くなった。軽い耳鳴りが治まったところで用件を言う。


『浅茅くんに仕事を頼みたいんだ』

「はい。誰とやりますか?」

『あれ、今まで誰とやってないっけ?』


 ひとまずほぼ全員とはやったはずだ。だが、口が名前を言うのを少しためらったため一拍おいてからの発言になる。


「……あはれさんですかね」

『じゃあ、あはれ君とお願い』


 電話を切ると、全身の力が抜けたようにソファへ座り込んだ。今までさんざん避けてきたことだが、やはりあはれのような周りがキラキラして見える人には近づけない。それは、主が親戚同士で交流のあるしのぶにも同じことが起こっていた。


 たまに会って話をするが、自らが発する言葉のほとんどが相槌だ。まともに話せないため連携をとることも難しい。脳内でその言葉が回っていると、あはれが勢い良くドアを開けて部屋に入ってきた。


「たっだいまー!」

「あ、あのぉ……仕事が」

「え?なになに?」

「博士から仕事がぁ……」

「あ、仕事ね。今準備するから」


 嵐のように自室へ戻っていったあはれを、ただ棒立ちで見ることしかできなかった。体がよろめきながらも部屋を出て、姿見の部屋までの廊下を進んだ。


 目の前に人影が見えたと思うと、勝手に視界に入ってくるほど大きく手を振ってきたものがいた。しのぶだ。小走りで向かってきたので止まっていたが、近づかれる度に後ろが光っていく気がして思わずサングラスを探す。


「浅茅くん!こんにちは!」

「こんにちは……」


 仕事に行くので、話は手短に終わらせたい。事情を話すとあちらも用事があったようなので挨拶だけで終わった。大きくため息をつき、部屋に向かうとすでにあはれが髪をいじりながら待っていた。やつれているであろう浅茅を見るなり姿見に入っていったので、それについていくようにした。

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