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第百三十七句

「永遠に続くでしょうか?」

 なんの感情も感じられない黒いフードを見つめたまま、くらぶは自身の背中に刺さったナイフの周りを軽く押さえた。だんだん離れて行き、後ろを向いたそれに怒りが止まらなくなった。一瞬にして心の奥底に溜まったどろどろとした言葉を吐く前に、和歌を唱える。


『逢ひ見ての のちの心に くらぶれば』


 自分の心配などせずに背中からはを引っこ抜いたその顔は、まさに狂気。少し離れていてもわかるほどに怒り狂っているところを見ると、マントをひらひらと舞わせながら逃げ始めた。欠陥が沸き上がり、血の巡りが倍速になったかのように熱くなった体に風が当たって心地よい。だが、両者そんなことを気にしている場合ではなかった。


 ただひたすらに前を見ながら装填を済ませると歯を食いしばって撃った。細かい狙いなど関係ない。今は、自分を刺したことへの怒りで頭がいっぱいなのだ。


くらぶの能力:一つの感情値を最大にする


 怒りのままに動いたら、いつか返り討ちを受けると思うだろう。だが、感情にも複数の種類がある。今、特に誇張されているのは『憎しみ』や『恨み』だ。それならじんわりと敵を追い詰めるまではうまく動いてくれる。


 時々こちらを振り向きながら逃げていくのにひたすら腹が立つ。ほとんど後ろを向いているというのに、どれだけ抑えた状態で撃っても軌道がずれた。姿を見られると動きが把握されやすいので音をたてないように近づきながら木に隠れた。相手は逃げることに夢中で移動する音など気にも止めない様子だ。必死に枝々をかき分け、やっと平行できるくらいまで追い付いた。


 後ろにいたはずのくらぶが消えていたことに気づくと、足の裏に力を集中させて止めた。辺りを見回してちょうど正面に向かれたとき、頬に当たるか当たらないかくらいのところで撃つといきなりそこを押さえた。絶対に姿を見せたくないと思っているこの者たちのプライドならそうしてくれるだろうと思ったからだ。片手が塞がった瞬間に木から飛び降り、腹と思われる部分に銃口を当てた。


「次、何かやったらお仲間と一緒に倒すからな」


 ずっと言いたかった言葉を吐き出した。迫ってくる目に押されながらも、振りほどかれていつの間にか後ろにあった井戸に入っていった。


『昔はものを 思はざりけり』


 小さく舌打ちをして、勝ち逃げのような形で去っていったのをまた探し始めた。





 大体は片付き、毒を抜いて人に戻すことができた。だがここからが厄介だ。操る人数が減ったことで一人一人にかける指示の質が上がり、はじめより簡単には倒せなくなる。誓の考えは間違っていなかかった。格段に剣を避ける技術が上がっている。かといって根本からなくそうとさらに奥へ行ってもそこまで読まれて追いかけられるだけ。


 ひねくれているなんて思いつつも再度近づこうとした途端、そこにいた全員が動きを止めて右に顔を向けた。突如現れた井戸からは、毎度お決まりのように黒いマントが飛び出してくる。奥の者と顔を合わせているところを明らかにうんざりしている顔で見ていると、急に背中が震えた。


(まずい、このままだと……!)


 今操られている影人は二人。 一人ずつ分担すればよいのでこのままでは今までよりも動きがさらに精密に、しつこくなってしまう。またもや予想が当たってしまい、心が折れそうになった。


 一気に四人で飛びかかってきたとき、いきなり空を裂くような爆音がした。再度全員が同じ方向を見ると天空に銃口を向けたくらぶが涼しい顔をしてそこに立っているではないか。ぽかんとされているのにも関わらず近づき、少し機嫌が悪いとも捉えられる顔で誓に言った。


「やぁ、調子は?」

「良好です。くらぶさんのお手伝いなんて――」

「嘘だね。アンタ、意外と顔に出やすいんだよ」


 予想外の言葉に思わず目を見開きながらも、大きくため息をついてから剣を肩に担いだ。


「くれぐれも、こちらの邪魔はしないように」

「それはこっちの台詞だね」


 誓の目には闘争心の炎が宿っている。だがそれは、向かい合わせにいたくらぶも同じだった。

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