第百三十五句
「私は悪くない」
馬鹿正直にくらぶが目の前にいると思い込んでいる影狼が滑稽に感じたものの、このまま止まらないと永遠に逃げられ続ける。どこかで止めないとと思い、再び鈴を出して前に投げた。影狼たちは三、四メートルほど先にいる。肩が取れるかと思うくらいに強く投げると見えなくなるまで遠くにいった。だが、空中を進んでいる間でも音はこちらに届いている。
さらに加速したところを見逃さないようについていくと、その先に群がっていった。囲まれていて良く見えないが恐らく鈴があるところだ。ぽかんとしているところへ銃を向け、早速後ろを向いているものに引き金を引いた。後頭部に当たったところでこちらをにらんでくるのを確認すると、堂々と立ち上がってその姿を見せた。
一気に襲ってきたところで頭上にあった枝を片手で掴む。足を前後に揺らし、それを大きくしていく影狼の背後をとるように着地した。鈴を回収し、近づかれる前に弾を装填する。スレンダー銃が一度に装填できるのは七発。まだ二発しか使っていないが、この数だとそんな時間はない。こまめに見ていこうと思った。
(七匹か。一匹につき一発……なんてことができたらいいんだけど)
この銃は宵たちとは異なり、引き金を一回引いても連射されない。いわゆるセミオート式だ。わざわざ一匹に集中しなければいけないためある程度時間がかかる。
体ごと振り返って近づいてくるのに対して間隔を変えないよう、銃と腕を目いっぱい広げた長さを保ち続ける。反動を大きく感じて指先がむず痒くなった。周りを囲ってきたのを見るといつもの姿勢に戻り、できるだけ早く引き金を引いた。人差し指にかかる力は重く、それが腕全体に伝わってくる。一瞬でも隙を作ることができ、木の後ろにさっと隠れた。
装填を済ませると、今度は近くにいるものから集中して狙いを定める。あからさまな動きが多く、見破られたが当たるところに行くまであきらめない。射撃の体勢で絶対に当たると思える瞬間まで動かなかった。後ろや横から攻めてくるのを手足で押さえながら撃った。先程押さえていたものを逃げられないようにすることで早く攻撃できる。攻撃を仕掛けていない影狼にとっても罠だ。
順調に倒していったが、一匹が逃げて姿を見失った。どこにいてもいいように四方八方を見渡す。だが、その必要はなかった。足音がすぐに聞こえたのだ。だが、明らかに一匹ではない。ゆっくりと出てきた影狼の後ろには何匹も引き連れられていたのだ。短い鳴き声に伴って砂ぼこりをたてながら来るのにどうしようもなく、木の上に隠れた。
(危ない。銃に入ってたのは残り一発……。あそこで攻撃していたら間違いなく噛まれてただろうな)
装填する手が震えているのがわかる。木の下にはさっきの倍以上の数の影狼が群がっていた。これから飛び込むにつれてゆっくり弾を込める時間はない。残弾が入った袋を腕にかけると深呼吸をして垂直に飛び出した。
幸い、着地する速さに影狼がついていけずに背中をとることができた。開けた場所の端まで行って距離を空ける。足元に近い地面へ向かって撃ち、少しでも時間を稼ごうとしたがやはり七発だと隙間があって何匹かが目の前まで来る。弾の入った袋から適当に何発かを出しながらしゃがみ、避けながら一発ずつ込めては撃ってゆく。
効率は上がったがこの状態ではただの無駄遣い。そうするわけには行かない。
(なにか注意を引けるもの……鈴じゃ足りない。もう少し範囲を広くしたい)
立ち上がろうと上を見ると視界を覆い尽くそうとする影狼。咄嗟に袋から雑に何発か握り取って出すと袋を投げた。するとどうだろう、袋から飛び出た無数の弾が雨のように降ったのだ。これに注目しないものなどいない。
今だと思い、死に物狂いで握っていた十数発を少しずつ入れて撃った。以外に気づかれないものであり、近づこうとするも弾で足を滑らせて転ぶものもいた。見事な銃さばきを披露し、あっという間に周りには散らばる銃弾だけになった。
疲れがどっと出る。が、これから銃弾を拾って袋に戻すという作業があると考えただけで頭が痛くなった。拾い終わってから誓と合流しようと戻っていくと背後から気配がした。
急に背中へじわっと温かく広がったそれは、徐々に痛みを出してゆく。温かい、よりも熱いが覆いかぶさってくる。せき込んで下を向くと地面には血が吐き出された。首を後ろへひねって見ると、絶望するでもなく笑った。
「ははっ、そういうことね」
後ろにいた黒マントの人物は、くらぶの背後からナイフを突き刺していたのだ。