第百三十四句
「あなたしか愛しません」
庭の一部に作られた小さな洋風庭園は、百人一魂たちが話をするときに良く使われる。今日も、設置されたテーブルを囲んでいた二人の人物がいた。日差しの中で優雅に茶会をしている、と思いきや一方はなぜか不服そうな顔をしている。
きりっとした顔立ちに赤茶色のカーディガンを羽織り、髪の両側面に編み込みの入った青年はテーブルに両肘をつけて手を顔の前で組んだ。
「……呼んだ目的を言ってもらえないか?」
通称:くらぶ
管理番号:043
主:藤原敦忠
くらぶの向かいに座っていたのは、女性とも見間違える服装をした男性だ。ワイシャツの上に大ぶりなレースのケープ。花飾りのついた小さい帽子をつけ、背中まで伸びている髪。くらぶとは真逆のおっとりとした目を持っている。
男性は自らの手につけている黒い網目状の手袋を撫でながらくらぶの方を向いた。
「いいえ、ただ話がしたいと思っただけです」
通称:誓
管理番号:038
主:右近
満面の笑みを浮かべた誓に大きくため息をついた。他の人と接するときは優しいのに、どうもくらぶにだけは突っかかってくる。まるでいたずら少年だ。こうやっていつも話すのだが、内容はとにかく普通。わざわざここまで呼び出さなくてもいいだろうと思うくらいだ。
「なんで君は俺にちょっかいかけてくるのさ」
「なんか反応が面白くて」
「それなら玉君とかかたみさんとか……もっといるじゃん」
「私はお友達のいないくらぶさんを心配してるのですよ?」
「友達はいるよ」
互いの間にバチバチと電流が見えているとき、浅茅は気まずそうにその空間へ入ってきた。
「あのぉ……博士から仕事のお電話です。お二人に行って欲しいと」
態度が変わったかのように二人は穏やかな笑顔を見せる。その切り替えに驚きながらも去っていったのを確認すると、誓はくらぶをいじるときの笑い方になった。困り眉になっているのがなおさら腹立つ。
「あら、くらぶさんと一緒だなんて。今日は悪い日ですね」
「それはこっちの台詞だな」
両者が立ち上がる。誓がマーメイドスカートの裾を持つとヒールが見えた。だが、その高さがあっても身長は越えられていない。姿見に行くときも互いに競っているように早歩きで移動した。
夕日が神々しく輝く森の入り口につくと、その光を背に受けながら奥へ進んだ。できるだけ明るいときに倒したいというのは誰もが思っていることだが、生憎、影狼はそんなに優しくない。しばらく歩いたところで休憩がてら止まっていると、いきなりくらぶが立ち上がって西洋の武器であるスペンサー銃を取り出して弾を七発装填した。
それを向けた先は誓の後ろだ。少しだけ顔を左に避けると弾は顔に当たるか当たらないかくらいを通っていった。一瞬だけ苦しそうな声が聞こえ、影狼が落ちてきた。誓は髪をさわりながら頬を膨らませた。
「まったく、当たっていたらどうしたんですか?」
「当たってないからいいだろ」
いつの間にか夜になっていたことを知り、それと同時に影狼の鳴き声が所々からした。まとめていくのは効率が悪いというくらぶの意見で、場所を分担しようということになった。倒したら今いる場所で集合する。誓は裏切りそうでなぜか怖くなったが、一応信用はあるだろう。
誓が急ぐことなく進んだのを見送ると、くらぶは反対方向にいった。
(さて、途中で絡まれると大変だから……)
ポケットから鈴を取り出すとベルトに取り付け、わざと音を出しながら林を走り抜けた。道中で影狼に捕まって遅れたりしたらそれこそ誓にからかわれる。早く戻るために一ヶ所に集めてしまおうと思った。後ろから微かに何匹かの足音が聞こえる正面の木に飛び乗ると鈴を外し、揺らして誘導させると下を通っていく集団があった。
鈴をしまい、足音をたてずにその尻尾たちを追っていった。