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第百三十三句

「あぁ、よかった!」

「何もかも終わりだ」

(本で読んだことがある。急降下しているときに約四百キロもの速度を出す鳥……)


 相手めがけて落下していく瞬間に、大きく勇猛な容姿をした――(はやぶさ)へ変身した。風を切り、自ら新しい風を作っていくように進むそれに驚きは隠せない。


『ものや思ふと 人の問ふまで』


 直前に能力を解き、人の姿になると銃口を掴んで背中側へ体を引っ張った。背面を打っていよいよ動けなくなると、すっかり力をなくしたようだった。


 それを見ていたもう一方は何やら怪しい動きをした。すると、目の前にあの井戸が現れた。縋るように入っていった二人をぽかんと見つめながら、取り残されたものやとまだきは目を合わせる。


「戻ろっか」

「……あぁ」


 姿見までは距離がある。そこまで歩いている間は行きと同じ無言状態だった。姿見の前まで来たとき、ものやがその視線をまっすぐに向けてくる。


「ごめんなさい」


 いきなり出てきた言葉に戸惑いながら、まだきは体をそちらに向けた。顔を上げるようにいうと見えた顔には純粋な『反省』の表情がある。


「人の気も知らずにあんな言葉を投げかけるなんて、どうかしてるよね」


 彼が深く反省しているのはよくわかった。だが、本当に言おうとしている言葉が引っ掛かって出てこない。一生懸命に出した答えを、噛まずにゆっくりと話した。


「私も悪かった。その、心配をさせてしまって。あの一件はもう気にしないでいい。だが――」


 ようやく言葉を構成できたところでもう一度姿見に体を向けた。背景には相変わらずの禍々しい模様が映し出されている。


「お前の主が私の主にしたこと、曖昧な判定でお前の方が優れていると言われたことも、私は生涯許さない。これからも私はお前を嫌うだろう」


 鋭く、そしてどこか儚げな言葉を残して姿見に入っていくまだきを追いかける。ものやもまた、彼を良いライバルとして見れるようになった。





 (あかつき)の正面で紅茶を飲んでいた(こころ)は、窓を見てから話しかけた。


「そういえば結構前の話だけど、お前が助けた子いたじゃん?」

「まだきの事?」


 ティーカップを受け皿に置いて話を進めようとするのに首を縦に振ってリアクションする。机の中央にあったクッキーを手に取ると、さらに質問をした。


「お前、何の突拍子もなくその子の部屋に行ったじゃん。何でわかったの?」

「何でって……いつかそうなると思ってたから」


 あまり納得できない返しに頭を抱えていると、暁もクッキーを手に取って口にくわえた。


「目には目を、歯には歯を。壬生(みぶ)には壬生を。だよ」

(なるほど。確かに身内の問題は身内で解決するべきだな)


 そう、暁の主である壬生忠岑(みぶのただみね)と、まだきの主の壬生忠見(みぶのただみ)は親子だ。最初から気にかけていたと思ったがそんな理由があったとは。再びティーカップを手に取り、湯気の向こうでクッキーを頬張る暁に笑いかけた。






『もしもし、どんな感じ?』


 博士は、なくはに二人の様子を見るように言っていた。


「えっと……大丈夫そうです」

「「どこがだよ!」」


 玉とかたみから慌てているような声が聞こえる。スピーカーモードにされ、すっかり冷めきってしまった昼食を食べる二人の会話を流した。


「……私の隣に座るな」

「え~?君があっちにいけばいいんじゃない?」

「後から座ってきた奴が移動しろ」

「は?嫌なんですけど」


 電話越しでもわかる仲の悪さを見せつけ、携帯を戻したかたみは耳に当てて博士に言った。


「ほら聞いたでしょ!?何とかしてください!」

「……博士?」


 いきなり無言になったと思えば、博士は高らかに笑いだした。


『フフッ、そっか』

「うぉおい!それで済ませようとするな!」

「まぁいいじゃないか。元気で」


 部屋に入って状況を理解した宵も博士と同じ考えをしていた。収拾がつかなくなり、大きくため息をついたかたみは困りながらも言い争いをする二人を見ていた。

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