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第百三十一句

「私は忘れない」

 遡ること数分前、まだきは後ろから来た影狼に気づかなかったが、地面に目を向けたときの影の大きさでなんとか後ろを振り向いた。左手で掴んで叩き落とすと意識を失ったようで後から何匹も襲ってくる。狙っていた影狼どころではなくなり、大群を突き抜けて正面の木めがけて進んだ。


 少しでも来るのを遅らせるために能力で影狼をつかみ、その手を上に挙げて宙に浮かせると木に足をかけたタイミングでそれを離す。一斉に打ち付けられたのに混乱しながらも起き上がった。風が強く吹き、葉が揺れている。その時にはとっくにまだきの姿は見えなくなっていた。それでも、大まかな場所は特定できただろう。


 皆で目を合わせて木の下に集まると再び人形に変身した。こちらの方が動きやすいときもある。一人、また一人とよじ登っていくと、次々と枝の分岐点に着地した。だが、そこには誰もいない。辺りを見渡してもどこにも見えない。するとどこからか微かに糸を引く音が聞こえた。探しているうちに飛んで来た矢は地上にいた一人の背中を貫く。どんどん狙いが上へ上がっていく。当たった何人もが重なって山積みになっていくところを見ていたまだきは正面の木から二つほど離れた別の木で頬杖をしていた。


(予定もなくやったことだが……意外といいかもな)


 もう一度吹いた強い風に乗って左の木へどんどん移動していった。そう、影狼が起き上がろうとしている間に別の木へ移動していたのだ。ちょうど強い風も吹いたので葉が揺らぐ音を隠すのには最適だった。


 そして、これにはもう一つ利点がある。移動中に影狼たちの様子を見ていたが、元から木にいたものたちは位置を変えていない。隠れた今なら安易に接近できる。その隣まで来たところで一気に進んだ。陰でよく見えないため理解できないまま地上に二匹が落とされると容赦なくその上に乗った。苦しそうな声を聞き付けて降りてきた残党に矢尻を向けると弦を持つ手に力を込めた。


 体を震わすだけで動けなくなったマントの者たちに矢を放つ。弦から手を離したため解放されたが、矢はもうそこまで迫っていた。


 すぐに矢を構え、能力を発動させながら射ると目の前にいたのは溶けてなくなりかけている影狼だけだった。





 今度こそ分かれた場所へ向かおうとして見た景色は、ものやが二人の人物に銃を向けられているところだった。また影狼が化けたのかと考えたが今度は銃を持っているので恐らく本物だ。


「まだき……君?」


 苦しそうな表情からこちらに助けを求めているような眼差しを向けているものやに感じたのはまず『恐怖』。やはり恐怖だった。自然と足が後ろへ下がって行く。目の前が真っ暗になりそうだった。


『逃げてもいいんだよ』


 暁の声と、さっきのものやの声が交差してくる。このまま姿見に駆け込んでしまおうか。そうも思ったが、もう一度ものやの顔を見てはっとした。


(違う、今は逃げたらだめだ。いくら嫌いな人でも見殺しにするのは違う)


 そう思うと、ゆっくり、一歩ずつ足が動いて行く。


(現状と私情は別物だ。なら私は、現状を優先する!)


 腕を下ろしたまま、手のひらに爪痕が残るくらい強く握ると二人のからだが拘束された。それを見たものやは鷹になり、足で太刀を掴んでこちらに向かって飛んできた。人の姿に戻ったものやをよく見ると顔が傷だらけだ。まだ怖さが残りながらも目を合わせた。


「ありがとう。助けてくれて」

「礼はいい。それより敵だ」


 ものやがまだきと同じ方を向くと、まだ両者は拘束されたままだった。


「これから、能力を解除する。いけるか?」

「もちろん。まだ限界じゃないし」


 腕が顔の前に持っていかれ、強く握られた拳が開いていく。あちらは縄がほどけたかのような反応をしてから両手足を動かす。確認が終わるとそれぞれが近い方にいる者をマークした。

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