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第百二十五句

「お前なんか嫌いだ」

「もしもし博士」


 電話に出たのは、目付きの悪く左目にかかっている前髪が特徴的で、膝下まで続く赤チェック柄のシャツを着た青年だった。見た目がどことなくしのぶに似ているがその表情は正反対であるかのように暗い。


『もしもし。今、大丈夫?』

「はい、僕はいつでも暇です」


通称:浅茅(あさぢ)

管理番号:039

主:源等(みなもとのひとし)


 そうやって高らかに宣言した彼に、思わず博士は苦笑いを浮かべた。


『今日は、ものや君に仕事を任せたいんだ』

「了解です。一緒に行くのは――」


 ものやの性格ははっきりつかめないため、今はペアの調節中である。玉、かたみ、そして浅茅とも、幅広く組んできたが今回は誰だろうか。


 胸が高鳴りながら聞くと、その声から飛び出したのはとんでもない言葉だった。


「……本当ですか」

『うん、正直不安だけど、やってみるしかない』


 電話を切った後も驚きを隠せなかった。ひとまず、本人の部屋へ向かおうと静かに足を進めた。





 この時間は皆、自分の好きなことを楽しんでいる者が多いので廊下はがらんとしていた。『041』と彫られた金のプレートを見つめ、恐る恐るノックする。間もなく出てきたのはつり目で所々がはねた髪の、浅茅より少しだけ背の高い青年だった。淡い夏草色の小袴に薄い羽織を着ている。


「私に何の用だ?」


通称:まだき

管理番号:041

主:壬生忠見(みぶのただみ)


 まだきのしっかりとした低い声で話され、さらに緊張が増した。「仕事が来た」と伝えると扉を半開きにしたまま準備を始めた。


 姿見の部屋まで同行する。きっと彼は今日のペアは浅茅だと思っているのだろう。だが違う。扉を開けてすぐに目に入ったのは手をひらひらと振っているものやだった。


 その瞬間、いままで冷静だったまだきの表情が一気に崩れた。怒りや悲しみ、驚きがどろどろとかき混ぜられたようななんとも言えない表情だ。


「……」

「あの……まだき君?」

「大丈夫そ?」


 ものやが近づくや否や、浅茅の後ろにさっと隠れた。まるで怖いものを見た子供のようだ。なんとか二人が向かい合わせになるように立つと博士と話したことを思い出しながら言った。





「まだき君とですか!?」

『そうだよ』


 二人には主同士での深い因縁がある。特にまだきの方はそれに対しての執念が強い。戦い中に仲間割れになってもおかしくないだろう。


「そんな……いくら博士のたのみでもさすがに躊躇します」


 その言葉を予測していたかのようにため息が聞こえると、幅広く博士も少し納得のいかなそうな様子で話し始めた。


『同感だよ。でも、君たちはあくまで実験体。言い方は悪いけど、戦うだけが君たちの役目でないことを分かってほしい』


 百人一魂をつくった理由は、影狼を倒すためだ。だが、ただそれだけなら無個性で攻撃力のあるロボットでも作ればよい話。それがあえて人間という形で、しかも性格を主に近づけたのは()()()()()()()()のためだ。


 それは、『関係による行動の変化』だ。百人一首の歌人同士では数多の関係が存在する。親子、友人、はたまた恋人など。主のあらゆる情報を詰め込むことによってその繋がりを持った人々がどんな動きを見せるかを研究したいのだ。


 そのなかでも因縁の相手というのは自分からは関わりにいかないというケースが多い。そこで、仕事という機会を使って研究を進めようとしていた。つまり彼らが生活のなかで行う行動の全てが実験対象なのだ。





 話に圧倒されてすっかり敵の存在を忘れていたまだきは、ハッとしてまた浅茅の背中に隠れた。


「えっとつまり、これはただの実験だからいつもどおりにいてねってこと」


 そんなことを言われたって、嫌いな人と一緒にいて正気を保てるはずがない。その思いは浅茅も理解していた。露骨に嫌そうな顔を見せたが、仕事が長引くとそれこそ苦痛だ。了承してくれた二人を見送ると浅茅は一気に肩の力が抜けた感覚がした。

いままでも、史実上で関わりのあるペアが登場してきています。作者のお気に入りは淵&つくしです。

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