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第百二十四句

「俺の勝ちだな」

 武器を構えながら空いている手で手首らしいところを掴んだ。激しく振って抵抗されたがここで逃がすわけには行かない。


 木から引きずり降ろすと下から風が吹き、フードが取れそうになった。それだけはだめなのか、顔に当たるか当たらないかくらいのところに撃ってきた。避けるのに精一杯になって手の力が緩み、いつの間にか後ろに出現していた井戸へ飛び込んだ。


 追いかけようとしたが、その前に井戸は幻覚だったかのように姿を消していた。かたみは急に止まろうとして木にぶつかり、額を両手で押さえる。井戸があった周辺を歩き周りながら宵は顎に手を当てた。


「やっぱり、地下には埋まっていないみたいだね」

「一瞬で地面を掘れることなんてできませんよ。跡もありませんし、消えたとしか思えません」


 少し間を開けてから、宵は姿見のある方向へ歩き始めた。移動中は一言もしゃべらない様子に心配しながらも姿見の前で一度足を止めた。


「……お疲れ様。かたみ」

「はい、お疲れ様ですっ!」


 宵は帰ってすぐに特別医務室へ目を治しに行ってしまった。取り残されたかたみは姿見のある部屋を出て、自室に続く道を歩き始めた。





 姿見が下から上へ境界線に神秘的な光を放ちながら消えてゆく。その様子を見ていた黒いマントの二人組は、昇ってくる朝日と共にどこかに姿を消した。





『もしもし、大変だったね』

「はい、本当に……」


 ダイニングテーブルのそばでぐたっとしながら、かたみは今回あったことを博士に伝えた。もちろん、黒いマントの二人組のこともだ。電話越しにしばらくうなり声が聞こえた末に、博士はいつもより自信のない感じで話した。


『もしかしたらそれは、影狼より上の人なのかも』

「上?」


 聞きなれない、というよりかは理解のできない言葉で説明されて頭が混乱した。


『今まで君たちはた強い影狼を倒してくれたけど、いわゆるボスみたいな全体を仕切っているものは見たことないだろう?だから、その人たちが影狼の指示役なのかもしれない』


 まさか、人が影狼を操っているというのだろうか。確かにただの狼が自分たちの主を自らの意志で襲ったりするわけがない。あの黒マントの下にいるのは、とんでもない計画を持った人間なのだ。影狼はその計画に使われる駒に過ぎないというのか。


「ありえない……。いつも強いのに、もっと倒すのが難しくなるんすか……?」

『まぁ、そうなるね。引き続き、井戸を見つけたら塞いでおこう』


 電話を切ると、すっかり目が回復した宵が目の前にいた。


「どうだった?」

「……影狼の指示役みたいな人じゃないかって。これから、もっと強い敵が攻めてくるかもしれません」


 それを聞くや否や、得意げな顔をかたみに見せつけた。


「フフッ、僕の計算通りだね」

「へぇ……って、宵さん何にも言ってなかったじゃないですか!そんなの後出しですよ!」

「いや、自信なかったから言ってなかっただけ」

「それは理由になりませんっ!」


 真剣な場面から一変、いつも通りになった。楽しそうに漫才ごっこをしていると、遠くから扉が開く音がした。入ってきたのは垂れ目で怪しげな雰囲気を身にまとった青年だった。青年に気づいた二人が手を振ると、着物の袖に隠した手で振り返してくれた。


「なんだか楽しそうだね、お二方」


通称:ものや

管理番号:040

主:平兼盛(たいらのかねもり)


 ウツギの花の刺繍が施された服装と風になびく髪に、ただ者ではないような雰囲気を感じる。ふと、ものやはかたみの頭をまじまじと見つめた。


「そういえば、かたみさんっていっつもフード被ってるよねぇ……。もしかして、禿(はげ)隠し?」

「あぁん?誰が禿だよ!」


 かたみへの禿いじりはこの部屋では恒例だが、ものやが言うとまた違う。


「そのくだり、そろそろ変えて見たら?」


 彼の最大の特徴は何といってもその口の軽さだ。よく言えば正直者、悪く言えば思ったことは何でも言う人。悪気が一切入っていないのが逆に頭にくる。


 かたみは拳を左手でつねって押さえながら話を聞き続けた。





 数日後――


「もしもし、博士?」


 静かな部屋には、弱気な青年の声が響いた。

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