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第十二句

「私を閉じ込めた罰だ」

 そこから影狼は液体のように竹の間から出て、三人を襲った。だが実力はこちらの方が上だ。高嶺が鎌についた鎖で何匹か拘束すると、それを月のほうに投げる。すると月は万年筆のような形をした槍を見事に操って影狼を灰にした。そして高嶺が逃がしてしまったり遠くにいるものは紅葉に任せた。これらはすべて高嶺が歩いているときに考えたことだ。


(高嶺さん、さすがだな)


 高嶺は食のこと以外でも想像力の深いアイデアマンである。そういうところは主譲りだ。作戦もあるが、二人の呑み込みが早かったおかげですぐに周辺の影狼は少なくなった。だがそれだけでは終わっていないので一度集合して新たな作戦を考えることにした。


「じゃあ二手に分かれよう。僕は紅葉君と。月君は一人で大丈夫そう?」

「……僕、方向音痴だから誰かと一緒じゃないとなぁ」


 どこか含みのあるその言葉を聞いた高嶺の目が光った。


「珍しいね。月君が自分のこと方向音痴っていうなんて」

「ほら、みんないつも言ってるじゃん」

「僕は今日初めて君と一緒に仕事をするからわからないけど、いつもの様子だと自分のことを方向音痴だと自覚していないような気がするよ。何か、別の理由があるんじゃない?」




「――なんで……」


 いつもの笑顔が歪んだ。そしてその場でフードをかぶってしゃがみこんだ。完全にふさがれてしまった。


「月君……」

「ゆっくりでいい。君は主の出来事がトラウマになっているのだろう?」


 月はゆっくり顔を上げた。目には驚きが見えている。


「なんで知ってるの?」

「そりゃあ、仲間のことは全て調べてあるよ」


 ため息をつくと小さな声で話し始めた。


「僕の主ね、とっても頭がよかったんだって。でも、頭が良すぎて他の国に仕事に行ったとき、お酒をたくさん飲まされて……それで、酔って眠ったときに幽閉されて……断食して亡くなったって……」


 どんどん息が荒くなっていく。よっぽど苦しいということが二人に伝わった。


「だから君の部屋には照明がたくさんあって、部屋のドアに鍵がないんだね」


さらに驚いた表情を見せてくる。


「なんで知ってるの?」

「鵲君に聞いたんだよ。僕も前から気になってたんだ。百ある僕たちの個室の中で唯一鍵がない部屋。鍵があったらプライバシーの保護になるし、何か危険がせまったら少しは守ることができる。でもそれがない理由は、君が閉所に対しての大きな恐怖を感じているからだ」

「うん、いつも部屋にいるときは扉をちょっと開けてるよ。あと、お酒も怖い。見るのもいやだよ……」


 月は主の死の原因から様々な恐怖があるみたいだ。その話を聞いたうえで高嶺は自分を一人にして月は紅葉と一緒に行動してもらうことにした。本人はというと二人の会話に入れてもらえず黄葉を持ちながら半泣きになっていた。


「大丈夫かなぁ……」

「いや、彼はやるときはやるよ。しかも結構本気で」

「はぁ……」




 高嶺の言葉を信じながら紅葉と二手に分かれて行動を始めた。紅葉はまだ泣いているようで目が赤い。


「どうせ僕なんて皆についていけないんだよ……。黄葉が羨ましいなぁ」

「紅葉君……大丈夫?」

「うん、ありがとう……」


 紅葉は作り笑いを浮かべた。月は可哀想だと思い、何も話しかけることができなかった。風が心地よい竹林の中、月は赤い目を見た。


「危ないっ!」


 前を歩いていた紅葉のスカジャンを引っ張って上にある竹の葉の集まりに体を引っかけた。


「月君⁉」

「しばらく動かないで!影狼がたくさんいるから!」


槍を出して構えると、所々からうなり声が聞こえてくる。手が震えながらも影狼が出てくるのを待った。


「早く来て!ここでは誰の迷惑にもなりたくない!」


 その言葉に答えるように――影狼たちはこちらへ走ってきた。月は横並びで襲ってくるヤツらをあえて穂を横にしてバットのように槍を振った。すると影狼はまとまって右は飛んでいく。その際に竹で殴打されるので一瞬で倒せる。自分でもよい作戦を考えられたと思い少しうれしかった。


「――月君ッ!!」


 紅葉の声が聞こえたのは影狼が少なくなってきたころだ。とっさに声のほうへ振り向くと、目の前には牙をむき出しにした影狼が――

紅葉の服は鹿と紅葉が描かれたスカジャンです。

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