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第百二十一句

「私はそんな人じゃないです」

「宵さん、俺の動きに合わせて撃つことは可能ですか」

「あぁ、お安いご用だよ」


 かたみからの頼みを聞き、宵は井戸の手前で足を止めた。かたみは素早く井戸の縁に足をかけて飛び越えてから姿勢を低くすると、その後ろから次々と宵の弾丸が当たった。その姿勢のまま影狼の背をとって静かに構える。正面にいる宵がライフルの装填をしようとしゃがんだタイミングで目の前の影狼を一突きした。


 ようやく存在に気づかれたところで注目がかたみへ移る。周りが集まってきたところで薙刀の中央を持つようにして距離を開けた。右手で左側の柄を握って回転させるように持つとその勢いで左の影狼たちを強く打った。苦しそうな声を出していたので軽傷だけでは済まされない。ひょこっと顔を出してきた宵はおそらく膝を地面につけながら撃っていた。さっき軽傷を負わされた影狼たちに集中している間に右側を重点的にやってくれる。やはり頼れる存在だ。


 近距離でも小回りをきかせて背中側を狙ってくる。常に柄と刃の長さを意識して攻撃しないときりがない。リーチが大きいと言うのはそういうことだ。何匹かの首根っこをつかんだり薙刀の先端を木にかけて行く手を阻むと自身の後ろから能力を発動させた。基準を自分の身長に設定すると肩などに水がかかりながらも飲み込んでいった。ついでに宵が攻撃した方も引き寄せてまとめると体の周りを一回転するかのごとく刃を回して魅せた。


 地面に戻っていく波を見送り、また出てきたものたちへ近づいた。


(いつまでも終わらなそうだな、これ)


 薙刀は限られた動きしかできない。どこで見ていたかは知らないが大体の動きは把握されている。後先考えず言ったことを後悔した。せめて、こことの位置を交換出来たら――。


(そうだ、瞬間移動!)


 動きを止めて宵に向かって大声で叫ぼうとした。だが、前を向いたときにそれを悟った。なぜ、今まで宵が能力を使わなかったのか。


 ここは完全に影狼で包囲されているからだ。どれほど逃げ回り、隠れても見つかるに違いない。そして、大量に出てくるのは壁となっている者が順番に出てくるからだ。一網打尽と行きたいところだが攻撃の範囲を広くすると処理が大変になる。かたみの顔はたちまち絶望に包まれていった。





 宵はかたみを手伝おうと必死だった。ここは完全に影狼の壁で包まれている。隠れようものなら即刻見つかるだろう。最初から影狼がいると伝えなかったのはなるべくあちらの意志に応えたいと思ったからだ。だが、おそらく今はそのような状況ではない。


(確かに、ライフルのほうが距離を詰められてもすぐに対応できる)


 移動したいが、周りで構えている影狼の様子を見る限り一歩でも動いたら前面から出ることになる。そうなると大変だ。やはり能力を使って場所を交代するのがよいだろう。考えているうちにかたみの方にいたはずの一匹が井戸を飛び越えてこちらに向かって来た。急いで構えると引き金を引くが銃口の一を一瞬で捉えられて不意に避けられた。そして狙ってきたのは目だ。右目を勢いのままにつぶると今までより大きな痛みが走った。血が入って周りが赤く見える。


 少し距離を空けて撃ったが、それを皮切りに辻の番の影狼が前倒しで向かって来た。この戦いは、一人でも欠けると絶対に倒せない。博士が決めることだ。地面に残弾をばら撒き、持てるだけ片手に握ると必死に装填していった。いつものペースでは間に合わない。





 いつの間にか宵の周りで壁が形成されていた。これでは絶対に宵が持たない。かたみは怒りに任せて波を出現させていた。それはどんどん高くなっていく。はっと我に返ったとき、口角が上がった。


(あぁ、そうか。そういうことか)


 まっすぐ上に上がっていった波は前に倒れていく。


「隠れる場所がないなら、作ればいいんだっ!」

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