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第百十九句

「悲しいな……それは」

 かたみはひたすら追いかけてくる影狼から逃げた。薙刀が邪魔なので片手で担いでいく。いきなり出てきたので準備時間が欲しい。今は影狼を撒くことに必死だった。ちょうど木々の間隔がない場所にたどり着いたのでそれを使って蛇行しながら走るなどをして何とか居場所をごまかすことができた。


 だがほっとしたのもつかの間、目の前で別のものがこちらを睨んで吠えてきた。ため息をつくと口を開いた瞬間に刃を口に突っ込んだ。手前にあった左手を柄の先端に持っていき、両方の手首を曲げながら今まで触れていた柄の側面の反対側を持つと刃を自分側に持ってくるようにすくな力で回転させた。頬が引っ張られて口裂け状態になり、動かなくなったところを前に突っ込みながら刺すとたちまち倒れた。


 倒れているときの様子を見る時間はない。吠えたのを聞き取って大まかな位置が特定される前にある程度の距離は離れたい。反対方向に行ったがまたしても影狼が追ってくる。仕方なく前へ行くが、この状況はとても偶然とは思えなかった。


(……何かに誘導されている?これは油断できないな)


 そう思いながらも足を進めると、思わず足が止まった。井戸が目の前にあったのだ。こんなところにあるはずがない。間違いなく、噂の井戸だろう。


 蓋となるものはないかとあたりを見回していると、さっきまで追いかけまわしてきた影狼が背後から忍び寄っていた。その気配に気づいて上半身を後ろに向けるとそのまま体全体をひねって影狼に背を取らせないようにした。井戸から影狼が出てくることは今のところない。薙刀特有のリーチの大きさを使い、間合いに入らせないようにした。


 合計二匹だ。恐らく、最初に追ってきたものがもう一匹の鳴き声を聞いて配置についたのだろう。全てはかたみをこの井戸がある場所まで誘導するためだ。


 後ろ側に行こうとする二匹の首を薙刀全体で止めながら徐々に押していく。井戸から影狼が間合いを取りたいからだ。体を反らされて避けられると柄を自分の腹に当ててその周りを伝わせるように槍を回転させる。前後でどこかしらに当たったような感覚がしたのでひとまず刃に近い影狼を倒すと後ろを向いた。


 後ろに行った影狼を見ると大人しく座っていた。これも何かの罠だろうか。刃先を向けた途端、月影が大きく隠れた。それと同時に気配が大きくなり、両手で柄を持って右から左へ大きく振った。だが、待ち受けていたのは予想の倍は多い数の影狼だった。


「そういうことか……」


 一度下がって着地してからの様子をうかがおうとしたとき、その登場の仕方の意味が分かった。


 今において井戸はただの飾り、そして重要なトラップだったのだ。影狼は事前に井戸から出て隠れておく。井戸に注意を引くことでそれには気づかれないだろう。こちらの目的を逆手に取られた。


 数十匹に睨まれながら後ろに下がっていくが背中には一匹が構えている。一匹一匹を丁寧に倒すことは不可能だ。何やら周りを見渡してから和歌を唱えた。


『契りきな かたみに袖を しぼりつつ』


 突如地面が変形したと思うと大量の水が出てきてかたみを乗せた。


かたみの句能力:どんなものでも越える波の作成


「行けっ!」


 人差し指を影狼の大群に向けると波はゆっくり、だが少しずつ大きくなりながら影狼に近づいていった。だんだんスピードを増して影狼を飲み込んでいく。木々の多い場所までも逃げたがそこに近い地へ波が吸い込まれて正面にかたみが現れた。


 正面からぶつかってきた影狼たちに対して走りながら大きく薙刀を振ってゆく。あっけなく倒れたのを確認すると井戸のある場所へ波を使って戻った。その道中には波に飲み込まれて灰になっている影狼が何匹もいた。

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