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第百十八句

「夏は短いね」

 宵が後ろを向いたときには影狼が顔の前まで来ていた。だが顔を振り向かせると同時に銃を顔の前に持ってきていた。


 できる限り腕を伸ばして腹につっかえさせるとその状態で引き金を引いた。影狼の腹に銃口をうずめたので少しえずいている声が聞こえた。容赦なく撃つと反動で数センチ同じ体勢のまま飛ばされてから倒れていく。


 その流れに乗るようにどこからか出てきた影狼たちが一斉に木から飛び降りてきた。さすがにこれを短時間でさばくのは難しい。片手で器用にパーカーのフードを持ち上げると、目にかかるかかからないかくらいのところまで深々と被った。もはや地面と化している影狼の背を駆け抜けながら連射する。移動した場所は木の上だった。


 飛び乗って右手だけを離すと何発か撃ち、左腕の肘を強く曲げて体を引き寄せながら葉の中に姿を消した。何匹かが縋るように木に登った。だんだん積み重なる仲間を踏み台とし、ようやく一匹が上までたどり着いたが、その姿はどこにも見当たらなかった。反対側に降りたとしてもすぐに見つかるだろう。


『夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを』


 段の一番上にいたものが突然倒れ、影狼の階段は崩壊した。後ろから来たであろうその弾の道を辿ってゆくと宵がいるではないか。


「残念だったね、影狼さんたち」


宵の句能力:相手の視界外での瞬間移動


 相手に見えない位置にいること、それが宵の句能力の発動条件だ。夏ということもあって生い茂っている葉の中に隠れて能力を発動させたことで向かいにある木に瞬間移動したのだ。最初に近づいてきたものだけを倒すとまた木の裏側に隠れ、今度も影狼に近い木に移動する。銃口だけを出して隙間からその姿を確認すると跡で道をつくるようにじわじわと集団に近づけていった。


 荒い感じもするがあちら側は混乱を起こしている。数も少なくなってきたところで一度攻撃をやめてきた。何やら中央に集まって顔を合わせている。さほど気にしていなかったが、いきなり木の下に移動した一匹と目が合った。それだけではない。この開けた部分に一番近い木には全部一匹ずつ影狼がついている。護衛のようだ。


(これは……相当まずい)


 もう一分以上は目が合っている。これは完全に気付かれているだろう。見られていてはどうあがいても能力は使えない。そこへさらに追い打ちをかけるように、目の前の影狼がいきなり遠吠えをした。場所を仲間に知らせている。一歩も動けなくなる前にと、必死に頭をひねった。


 はっとして思いついたことには時間稼ぎが必要だった。遠吠え中の影狼の額へまっすぐ弾丸を貫かせると間を空けずに能力を使った。


 影狼たちはいきなりした銃声に驚きながらそれがした方に駆け寄った。裏側には倒れた仲間。枝をくまなく見るも何もなく、さっきまで自分たちがいたところも探したが影すらなかった。


 空から何か降ってくるものを発見したのはそのあとすぐだった。徐々に近づいてくるそれは人と捉えられる。それをぽかんと見ていた仲間がいつの間にか倒れていくのを見て焦りが高まった。白に黒のラインが見えるパーカーを羽織った者は着地すると、フードの中から優しい目を見せた。宵だ。認識してすぐに飛び掛かったがほぼ全方位に連射されて手も足も出なかった。


「まったく、かっこつけて着地したら足が痛くなった僕の気持ちも考えてくださいよ!」


 痛みが落ち着いたようで立ち上がると再び残ったものが襲って来る。銃を影狼の輪の外側に投げると低い姿勢でそこへ移動し、落ちてきた銃をキャッチした。うまく作られた集団に乱射すると一匹も逃げることなく撃たれていった。


 宵が移動した先は上――そう、空の上だ。約二百メートルほど、高いビルで四十七階分くらいの高さに移動して降りてきた。前に何かでそこから降りても生存したというのを見たのを思い出したのだ。確かに使えるが両足と片手だけで地面を支えて着地すると相当痛い。当分は使わないだろう。


 すっかり静かになったところで、あたりが少し暗くなる。雲に隠れてしまった月に向かって、目を細めて笑った。

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