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第百十五句

「いつまでも待っています」

 なくはは驚きが隠せなくなりながらも冷静に影狼へ銃を撃った。歯が砕けるかというまで食いしばりながら玉はゆっくり立ち上がっていった。肩に指先を当てると、触れたところが白く光って広がる。


「玉……君?」

「今、句能力で体の一部を真珠に変えています」


 確かに広がっていくのを見て、さらになくはが険しい顔になる。


「でも、さっき、真珠は脆いって……」


『一番高いダイヤモンドが十なのに対して真珠は四から二。高くても刃物で傷つけられます』


 玉から聞いた硬度の話、覚えていて損はなかった。足がすくんでくる。どんどん姿が遠くに見える。その中でも、声ははっきり聞こえた。


「止血するにも時間はありません。これは、僕自身が決めてやった行動です。ほら、ほころんでしまうまで、一緒に戦いましょう」


 自分よりもずっと大人びているその言葉は輝いている。拳を握り、決意を固めると右の銃をその場において両手でショットガンを持った。肩にかけていた紐を外して一発撃つ。やはりこちらの方が自由だ。


 それに乗じて狙われている影狼を玉がぴったりくっつきながら追いかけ始めた。低い姿勢で走るが相変わらずの身軽さだ。一度腰にしまったサーベルを左手で抜き、刃が背中側に来るように持つ。その姿勢のままだんだん大股に、速度を落としながら走ると五歩くらい進んだところで勢いをつけて跳んだ。尻尾につかみかかって下駄でブレーキをかけると足で踏んで止めながら背中を深く斬った。


 残り二匹となった。玉がいつまで持つかわからない。今はとにかく足止めをしたいと考え、引き続き追いかけているのと挟み撃ちになるよう弾丸が前から迫ってくるようにした。反動が続き、拍手をずっとしているような感覚になる。だが、影狼は急に反対側を向いた。このままでは弾丸から逃げられるに加えて背中が脆くなっている玉が壊れる確率が高くなってしまう。


 今まで間合い内で追いかけていたのが裏目に出たのか、すぐに追いつかれてしまうだろう。かといって前に撃つとそれこそ危険だ。木の上に乗ってそれを伝いながら近づく。玉は木に触れてそれをサーベルでかすらせることによって真珠を影狼の頭に落としていこうとする。だが、逆手に取られて良いジャンプ台となってしまった。体を掴まれそうになっては前のめりになって逃げている。


 いよいよ一周してきた。ちらっとこちらを見つめていたので気づいていたのだろう。手のひらを見せてきたところでやりたいことを理解すると銃を持つ手が一層強くなった。


 真珠となった木は、なくはの体重で内側へ傾く。体を横向きにさせながら空中にいる間に少しずつ位置をずらしながら連射した。玉が右へ避けていったのは確認済みだ。一発も軌道を外すことなく当たって倒れた影狼を見ると安堵しながら着地した。破片が目に入らぬよう腕で覆いをするとすぐに立ち上がった。


「大丈夫か?」

「はい、おかげさまで」


 もう首元まで広がってきている。あまり動かせないのか、顔はずっとこちらを向いたままだった。近づくにつれて安心感が広がっていく。そばまで来たとき、また何か気配を感じた。


 同時に後ろを向くとさっきとは違い弱々しい雰囲気の影狼が息を荒くしてこちらを睨んでいた。これが最後の一匹だ。足をよろめかせながら逃げていくのに玉は剣を投げ、なくはが一発撃つ。今までと比べてすぐに倒れたのを見て逆に怪しむが、すぐに灰になった。


 剣を抜き、玉に渡すとついでに手のひらを出すように言った。戸惑いながらも両手を出すと、干飯が一つ置いてあった。


「これは……」

「俺だけ食べるの、なんかズルい気がするから」


 二人で干飯を食みながら姿見をくぐった。


「――うわっ⁉」


 くぐってすぐに玉が大声を出した。それに相当驚いたようで、なくはは一瞬だけ跳んだ。姿見をくぐったことで能力が使えなくなり、今まで止めていた分の血が一気に出てきて着物に染み込んだのだ。


「……白菊さんに診てもらおう」

「そうですね」


 楽しそうに話す二人の声が、廊下に響いていた。

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