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第百十四句

「ごめんなさい。こんな奴で」

 もう井戸はなくなったので仲間は呼べない。これで最後だ。そんなことを思いながらもそれぞれの武器を構えた。範囲を広くするためにたがいに目配せをしてから後ろに下がり、徐々に中央へ寄せていく。


 ようやく行ったところでなくはが先頭の影狼に向かって一発放った。それを皮切りにして玉が挟み撃ちの姿勢を取り、接近していく。影狼と銃の動きをどちらも見てくれるとのことだったのでとにかくリーダーの風格を出しているものを狙った。だが撃てたとしてもその後ろにいるものが前に出てきて当たりに行く。まるで、自らの命を賭けて王を守る騎士たちのようだった。







 影狼でできた黒い道を飛んだり跳ねたりして玉は背中を斬りつけていった。なくはが先頭のものを任せてほしいと言ってきたので後ろから下っ端であろう影狼たちを倒していった。だが量が多く、とても厄介だ。それに加えてリーダーへの圧倒的な信頼度が警戒心からわかる。一歩でも動いたら噛み砕かれるのではないかと思うくらいだ。


 半円型に並んで囲まれたところで奥にいるなくはの姿を確認する。だいぶ苦戦しているようだ。すれ違ってくる弾丸の風に髪をなびかせながら右側に走っていった。その時同時に銃口が右側を向く。ちょうど体を向けたところにいた影狼を斬るとすかさず周りのものも飛び掛かってきた。玉と正面で目が向くくらい高くまで来て牙をむいた影狼の首根っこを掴むと顔だけ左に向けながら少しずつ腕を伸ばした。ちょうどよくなったのか離すと、落ちながら腹のあたりに何かが貫通した。


 着地して倒れたときに見えたのはなくはが使っているショットガンの弾丸だ。玉は、なくはが外してしまった弾丸を再利用したのだ。銃口を見て目の前に来たもう一発を避けると後ろを向いて集団に刃を向けた。左から来た影狼へ膝を曲げて蹴った。あまり強くはできなかったが数センチは飛ばされただろう。戻ってくる前に右側の影狼へ剣を振って切り刻んだ。


(ん?あれは……)


 ふと正面を向いたとき、なくはが今まで見たことのないくらい険しい顔をしていた。怒りというか、悲しいというか。目が合っていると思ったがどうやらその奥らしい。特に何も思わずに後ろを向くと、いきなり背中が押される感覚がした。





 自分の外した弾をうまく再利用してくれるとは、さすがの思考力だ。目の前にいる影狼は一歩も動こうとしなかった。動かなくても田尾押されることはないからだ。やはり周りにいるのが邪魔をしてくる。だが数を減らせる点ではいいだろう。リーダーを狙うふりをしてその周りのものを倒していった。


 ようやく数が少なくなってきた。そろそろ本格的に狙い始めなければ。木が背中に着くつくらいに下がると、幹を蹴って少し上に跳んだ。体制を変え、足が最初に着地するよう体勢を整える。膝を曲げて代わりに下へ銃口を向けると落ちながら影狼を撃っていった。上からなら防御は出来ないだろう。だが、そう思った時だ。


 影狼が上に向かって跳んだのだ。これでは予想よりも着地距離が短くなってしまう。脛をひっかかれながらも足を伸ばして準備した。その際に肩を掴んで体を押さえると銃の先端を口に押し込んだ。足がしびれながらも着地して強く押さえた。力を強くするたびに左腕に食い込む爪が肉をえぐり取っていく。


「お前は倒さなくちゃいけない。ここで終わりだ」


 必死に牙で銃口を噛み砕こうとしている影狼にそう語りかけた。亀裂が入った音がした瞬間、目をカッと見開き引き金を引いた。


 ゆっくり銃を離すと先端がほころぶ。もう左側しか使えない。ふと、玉の様子を見た時だ。自分でもわかるくらい険しい顔になった。玉の後ろに影狼がいる。それはまっすぐ自分の方を向いていた。


(しまった。そうだ、忘れていた。この影狼たちは――)


 この影狼たちはいわば王を守る騎士。王がいなくなれば、必死に復讐をしに来るだろう。倒れた玉の背中には大きな傷がついていた。

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