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第十一句

「器は要りませんか?」

「お待たせ~」


 最後に姿見へ到着したのは月だった。


「どうして遅れたのさ?」

「いやぁー姿見の場所忘れちゃって……一回別のフロアまで行っちゃった」

「別のフロアって確か……」

「えっとねー009号室の……」


 紅葉に教えようとしたとき、高嶺が二人の間に革製の小さい袋を出した。


「何これ?」

「さっきまで作ってたんだー! 飴と塩辛を混ぜて……」


 説明をしている高嶺の横で紅葉は首が取れるくらい横に振っていた。さすがの月もこれを理解したらしく、絶対に口にしないと心に決めた。


「じ……時間もありませんし、そろそろ行きましょう! ね?」


 飴の解説をしていた高嶺はあきれながらも二人に一袋ずつあげた。


「疲れた時に食べるといいよ」


 紅葉は苦笑いを浮かべながら姿見の中へ入った。



 夕日が沈みそうな橙色の空の中、三人は茫然としていた。転送されたのは竹林の中だ。


「さて、影狼を探そうか」


 やはり日が落ちているので人が少ない。歩いているときも、後ろにナニカの気配を感じていた。影狼以外のものが出てもおかしくないだろう。


「アオーン!」


 遠吠えが聞こえた瞬間、三人は目をカッと開いて武器を出した。高嶺は鎖鎌、紅葉は火縄銃、月は槍だ。三人で背中合わせになり、背中を取られないように周りを見た。


「いないね」

「どこだろーね」

「……油断はしないようにしましょう」


 だが一向に姿を現さない。すると月が元の体勢に戻って二人のほうを向いた。


「影狼も生き物だよ。毎回一つのパターンで僕たちを襲ってくるわけじゃないと思うんだ」


 高嶺と紅葉も体勢を崩して月に目を合わせた。一瞬心配になったものの、特に何の気配も感じないので月の話を聞き続けた。


「なんでそう言えるの?」

「二人は多分気づいてると思うけど、歩いてるときに何か気配を感じたでしょ?僕、一番後ろを歩いてたから何かなって振り返ったら何もいないように思ったんだけど、よく見たら竹によく似た色の着物の袖が見えたんだ」

「で、でもなんで一般人が僕たちから隠れる必要が……?」

「それは人に化けた影狼だからだろ」


 高嶺は、月の言いたいことをなんとなく察したようだ。


「そう。多分さっきの鳴き声って僕たちを襲いに来る合図じゃなくて、仲間に報告するためにものだと思う」

「何を報告するためですか?」

「それはもちろん、僕たちがいることだよ」


 いつもとは違う、鋭い目つきだ。紅葉は少し怖くなった。


「多分だけど、さっき僕が見たのは“監視役”の影狼だよ」

「となると“報告役”が……」


 左右から意味の分からない話をされる紅葉は目の前がくらくらしてくる。


「あのっ!さっきから報告役とか監視役とかって!……何ですか?」


 考え事をしていた二人は同時に驚いたような目をして紅葉を見つめた。


「……え、僕変なこと言いました?」

「いや……君ってそんなに大声だせるんだなーって」

「まぁいいや。例えばの話。僕たちが姿見でこっちに来た時、気づかれないように二匹の影狼がついていく。その時の役目は“偵察役”と“報告役”で、監視役はさっき月君が見たと言っていた影狼。僕たちを監視する役目。そして監視役からの情報があったらそれを仲間に伝えるのが報告役」

「さっきの遠吠えが影狼のリーダー的な存在だとしたらすぐに襲ってくる。でもさっきはどこからも襲ってこなかったから、今は報告役から僕たちの存在を教えてもらって作戦でも立ててるのかも」


 情報量と文字量に圧倒されたのでいよいよ気絶寸前だ。だがとにかく、状況は理解できた。


「じゃあ、いつどこから襲ってくるかわからないってことですか……」

「そう。紅葉君はどう思う?」

「……へっ?」


 いきなり話を振られたので処理が難しい。


「だから、いつどこから襲ってくると思う?」

「お二人のほうが賢いと思うので、僕は考えませんよ」

「まぁまぁ、一種のゲームとでも思ってよ~」


 二人の間に挟まれ、もうどうしようもないと思ったので適当に答えた。


「……もうすぐ、上からですかね?」

「へぇ、どうしてそう思ったの?」

「僕たちの戦闘態勢は姿見に入る前に考えましたよね?それだったらもう監視役の影狼に読まれていると思うんですよ。よく考えると上は少し空いているので、前を向いている僕たちは上からくることに気づきませんよね。だから……」


 苦し紛れの理由だったが、二人の顔は徐々に大いなる関心を持っていった。


「なるほどね。それで、もうすぐっていうのは具体的に――」


 月はそう言いかけると、いきなり紅葉から目をそらした。そして歯を食いしばっているような顔をした。


「後ろっ!」


すかさず紅葉は後ろを向く。するとそこには――大きな黒い影、こちらにとびかかってくる影狼の姿があったのだ。


「グッ……」


 手を震えさせながらも火縄銃を顔の近くに持っていき、弾が飛び出した。黄葉を落としたことにも気づかずに。銃口と額が付きそうになる瞬間、影狼はその場で落ちて灰と化した。


「あ……危ない……」

「予知能力でも持ってる?」

「同じこと思った」


いつも閲覧などをしてくださりありがとうございます!

最近は百人一魂で四コマ漫画を作るのにハマっています。

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