第百七句
「このままだと死んでしまいます」
ここはある山奥にある古い館。ここでは、百人の青年たちが楽しく暮らしている。
「あの、すみません」
午後三時、机を囲んで座っていた夢、ふし、千々、かづらの口が止まった。それは、部屋に訪ねてきた少年の顔があまりにも整っていたからだと思う。緑がかった光沢のある髪に幼さがありながらもきりっとしている顔立ち、細い腕が垣間見える膝丈までの着物の下にはスパッツを履いている。例えるなら真珠のような子だ。
「あの……」
話し始めた途端、皆が一斉に集まってきた。やはりその美しさは近くで見ても変わらない。まじまじと見つめている顔たちの上からひらひらと振っている手が見えた。たちまち少年の顔が明るくなる。
「山風さんっ!」
「久しぶり~」
間を開けると、そこには麦わら帽子とケープが特徴的な山風が嬉しそうな顔で少年に微笑んだ。奥に行くところをついていくと先ほどまで自分たちが使っていた机に堂々と座って話していた。
ふと、千々が何かを思い出したように声を上げて話し始めた。
「思い出しました。あの子は『真珠天使』です」
「真珠天使?」
「見た目が美しいという評判です」
確かに、顔を見た瞬間から時が止まったかのように感じた。それくらいの美しさを持っているのだ。どうやら話が終わったようで出ていくのを見届けると、やはり注目されたのは山風だった。
「山風さん、あの子と何の話を?」
「あぁ、なんか影狼に関しての新しい情報が出たっていうからそれの報告に来たんだって」
「あの子とどんな関係が……?」
顎に手を当て、しばらく考えてからゆっくりしゃべり始めた。
「いや、僕っていうか……僕の主の息子が、あの子の主なんだよね」
「えっ⁉」
「『えっ⁉』って何だよ」
「ありえない」
確かに雰囲気は似ていると思うが、二人のイメージが全く違いすぎる。部屋の中で、様々な議論が飛び交った。
「お疲れ様です」
通称:玉
管理番号:037
主:文屋朝康
玉は自分の部屋に戻り、席に着いた。向かいにはタートルネックの上にパーカーを着ている男性が優雅に紅茶を飲んでいる。中が空になった封筒を目の前に置いたタイミングで男性は目を合わせた。
「お疲れ様。山風さんには会えた?」
通称:宵
管理番号:036
主:清原深養父
優しく、誰をも吸い込みそうな目を見ながら玉はあったことを報告した。所々に相槌を打ってくれるので相変わらず話しやすい。そこから雑談をしていると、大きな図体の男性が何かを食べながら机に座ってきた。右手にはラップにくるまれたおにぎりが見える。
「あれ、何食べてるんですか?」
「塩むすび。いる?」
通称:なくは
管理番号:044
主:藤原朝忠
オーバーオールの半袖シャツに深緑のカーゴパンツ。その上から袖のない脛くらいまでの丈をした羽織を着ており、見上げるほど背が高い。
ポケットから出てきた塩むすびを丁重に断ると、そのままラップをはいで両手に持ちながら食べ始めた。これが、なくはの恒例行事だ。その食欲とは裏腹に本人は体形を気にしているため基本的には一周り上のサイズを着る。だが今のところは身長と仕事でカバーできているようだ。
それにしても彼の食べっぷりはいつ見ても気持ちいい。目の前であっという間に消えていくのを見て思わず二人は拍手をしていた。
四つ目を食べ始めようと思った時、電話が鳴ったようで一旦手を止める。顔が不満さを物語りながら電話に出ると、どうやら博士だったようで敬語になった。
「もしもし……」
『なくは君。それ何個目?』
「四個目です」
やはりぶれない。食べながらの通話はよくあることだ。だが、博士もそれを楽しんでいるように聞こえた。
『仕事を頼みたくて。いま、誰か見える?』
「宵さんと玉君がいます」
『じゃあ、玉君とでいい?』
博士は本人にこだわりがない以上、即興で一緒に戦う相手を決める。玉と目を合わせるとすぐに意図を理解してくれたようで、自室に行った。
「わかりました」
『前回みたいに、道端に落としていかないようにね』
「はぁい」
電話を切ると、さっきよりもにこにこしながら宵が呼び止めた。
「前回、君は干し芋を持っていったときに道に落としていったんだよね」
「……あれは本当にもったいなかったです」
「今回は気を付けてね」
コクリとうなずき、自分も準備を始めた。