番外編:古今和歌衆の(深夜テンション)お泊り会
「お泊り会だっ!」
今日は土曜日、休日だ。皆はそれぞれ用があって今部屋にいるのは白菊、暁、春、心の四人だった。
「ねぇ、お泊り会しない?」
最初にそう提案したのは暁だった。最初は驚愕した三人だったが、快く受け入れてくれた。と言っても個室は多くても二人分の布団しか敷けない。話し合った末に特別医務室でということになった。白菊はあまり納得していない様子だった。
当たり前だ。特別医務室は様々な医療道具がそろえられており、壊したものを弁償するとなると相当な額がかかる。それにあの部屋は能力を使うことができてしまうので暴走なんてしたら白菊に一生口を聞いてもらえないだろう。それくらいの覚悟は必要だ。
せっかくなので四人でできることがしたい。夕飯は全員要らないらしいので、スーパーに行って食材をそろえた。
以後、スーパーでのくだらない会話である。
「何食べたい?」
「俺、カレー食べたい!」
「は?カレイ?」
「うん、違う」
外出時の暁は普段とまるで違う。多分だがここでは見た目相応な振る舞いをしているのだろう。カレーのルーをかごに入れると説明書に書いてあった材料を分担してそろえることにした。
「野菜は……人参、玉ねぎ、じゃがいも……」
「アトランチック・ジャイアントは?」
「そうそう、アトランチック……って聞いたこともねぇやつ出てきたぞ」
アトランチック・ジャイアントとは、アメリカにある巨大なカボチャのことである。(参考:心の携帯)だが日本ではめったに見ないのですぐに却下された。
無事に会計を済ませ、館に戻ると早速調理に取り掛かった。だがこの場でマトモに料理ができる者は誰もいない。
「は、春さん⁉包丁を使う時に指伸ばしたら切れますよ⁉」
「あれ、そうなの?」
「おい!そういう白菊だって鍋から目を離すな!なんか沸騰してるぞ!って暁は何を入れてるんだよ!」
「え、チョコレートだけど」
そう言って暁の手に握られているのはイチゴ味の板チョコ三枚だ。
「多いし味のチョイスが変なんだよ!」
「はぁ~⁉心だって皿何枚割ったんだよ?」
「三枚っ!!」
その後も裏に書いてあるレシピとは程遠い工程を通っていき、約一時間をかけて完成させた。一応カレーの原形はとどめているのだが食べて見ると野菜が固く、信じられないほど甘い。お茶のペットボトルを一本飲み干しながら完食した頃には顔を上げることすらままならなくなっていた。
寝る支度をする前に、一度自分たちの布団を特別医務室に持っていくことになった。事前に白菊が道具を自室に移動させていたのでいつもより広く見えた。珍しい景色に思わず準備する手を止めていた暁と心の後ろに、なんだか恐ろしい気配がした。
振り返るとそこには鬼の形相をした白菊がいた。あまりの怖さに顔が引きつる。げんこつを食らってからありえない速さで準備を進めると、それぞれ寝る支度を始めた。
風呂から上がり、再び特別医務室に戻る。目の前に見える暗い森とは対照的に、空には満点の星々が見えた。部屋の中心から四葉のクローバーのように並んだ布団に寝転がると、その美しさは一層引き立てられながら見える。
以後、四人によるくだらない会話②だ。
「めっちゃ星きれーだな」
「あぁ、もうこういう部屋にしていいんじゃないか?」
「こういう部屋って?」
「えっ……天文台室とか?ッフフフ」
「何自分でツボってるんだよ」
「天文台室の需要って何?」
自分の言った言葉にツボってしまった心は、しばらく布団に顔をうずめながら笑いをこらえた。
「フフフ……アハハハハハ……」
「あれ、もう心が話せないようですね」
「医者呼ぶ?」
「笑いを止める薬はねぇからな」
「天文台室て……ハハハ……」
白菊があきれた様子を見せたところで、一旦静かになった。心も笑いが止まったようで、深呼吸しながら空を見ていた。
「……」
「……」
「……」
「……恋バナしようよ」
「ッハハハハハ!」
暁からの突然の提案に全員が笑う。心の笑いがまた再発した。
「ちょっと!今せっかくいい雰囲気だったのに!」
「俺そういうの気にしないタイプなんだわ」
「ンフフフッ……!ヒヒヒヒ……」
「もう。暁のせいで心の笑い方が変わってしまったじゃありませんか」
皆の意見に一切耳を傾けないまま、話は進んでいった。どうやら自分のではなく、主の恋バナらしい。
「……つってもなぁ、主の恋なんて具体的に記録されてねぇんだよ」
「じゃあやめましょう」
自然に却下されたところで、暁は上半身だけ起こして皆の方を向いた。三人もそちらを向く。なんだか寂しそうな顔をしていた。
「俺、寂しいんだよ。お前らともう会えなくなったら……なんて思ったら、いつも泣きそうで。だから、こういう機会を設けてくれて、本当にうれしかった」
「暁……」
「物理的にも、な」
「「「え?」」」
急に立ち上がった暁は、寝転がっているせいかいつもより大きく見える。腕を組んで見下す体制となった。その顔は冗談交じりで怒っているように見える。
「いいなぁ、お前らはいつも目線が同じくらいで(←一五八センチ」
「いや、それはな、暁……(←一八八センチ」
「一番の高身長は黙ってろ白菊!」
「まぁでも、春兄は二番目だから……気が合うんじゃないか?(←一七七センチ」
「十三センチ差だぞ⁉なめんじゃねぇ!」
「……(←一七一cm」
そう言っていきなり白菊の顔に枕を投げつけてきた。これに相当キレたのか、白菊は投球の体勢で返してきた。それは相当強かったらしく、見事に腹の真ん中に当たった暁は数センチ先まで飛ばされた。それを皮切りに枕投げ合戦が始まる。楽しそうだという理由で参加した心との三つ巴だ。
(うーん、うるさい)
そんなことを思いながら、春は一人眠りについた
翌朝――
「ん……皆さん起きてますか……」
小鳥が鳴く、良く晴れた朝を迎えた。春は上半身だけ起こして大きくあくびすると、周りを見渡す。昨日の枕投げの時はとんでもなくうるさかったが、今は三人で仲良く眠っている。布団やまくらが散らばって殺風景となった部屋の中でも、あたたかい気持ちでいっぱいになった。
「……まったく、元気な人たちですね」
春の携帯に収まった三人の顔はとても幸せそうだった。
明日から新しい章に入りますが、投稿時間は変えずに行きたいと思います。
番外編で笑うシーンを書くとき、「w」を入れるかで悩みました