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第百五句

「この二つは対比している」

 さっきとは違いとても静かな、暗い平安の森の中。人工的に倒された木の下敷きになった井戸はいつの間にか姿を消していた。





「そんでその時の心、目をかっぴらきながら言ったんだよ。『隙あらば膝カックンしてやるよ!』って」

「俺そんなこと言ってねぇよ!」

「アハハッ!何の話だよ!」

「心もなかなかしょうもないことをしますね」

「ちょっ、春兄まで!」


 戦いの後、この四人で飛び交うのは相変わらずしょうもない話だ。いつもならリビングに行ってくつろぐのだが、今回は違った。来たのは、『特別医務室』と書かれた部屋。春の体はまだ完治とは言えない。弾丸を取り除いただけで傷は深く残っている。そこで、先ほどできなかった“医者”の本格的な治療を受けてもらうことにしたのだ。


 ガラス張りになったドーム状の部屋からは、風になびいている木々が見える。中央にあるベッドに横たわると、その周りにある医療道具たちが静かににらんできているようで落ち着かなかった。まもなく春の目の前に来たのは白菊だ。だがいつもと様子が違う。きっちりとした白衣に青いゴム手袋。マスクをつけてできるだけ髪をまとめている。今までサングラスを付けていて見えなかった吊り目が一層緊張感を出した。


 そう、 “医者”の正体は白菊だったのだ。深い傷のついたところにそっと手を当てると、和歌を唱えた。


『心あてに 折らばや折らむ 初霜の』


 春は痛みが引いていくのを感じた。次に体全体の脈が速くなっているのが分かる。一分も満たないうちに手は離された。最初からなかったように、傷が消えているではないか。


白菊の句能力:細胞の進みを早くする


 最初は驚かれるが、白菊はどんなに深い傷も短時間で直せる治癒能力者だ。


『置きまどはせる 白菊の花』


 マスクを外し、白衣をハンガーにかけると一つため息をついた。本人は一回使うごとに激しい体力の消耗を感じているらしい。上半身だけを起こしてベッドに座っている春の横に来ると、心と暁も座った。


「それにしても、この部屋は便利だよな。能力が使えて」


 通常の場合、百人一魂の能力は現代で使用できない。正確にはできても弱く、長続きしないのだ。だが、この部屋は唯一能力最大限使える。すべては白菊がわざわざ平安時代へ行かなくとも能力で治療を行えるようにするためだ。


「まぁな。というか、なんで能力が使えるか知ってるか?」

「博士が何か特別な事でもしたんじゃないの?」

「……まぁ、特別っちゃ特別だ。大事なのは『空気』なんだよ」


 能力を使うカギとなるのは『空気』だ。窒素、酸素、二酸化炭素が主になってできている空気中でしか使えない。だが、最近は地球温暖化などもありその割合のバランスが崩れてきている。特にこの辺り、山を下りた先にある街には工業地帯があるので二酸化炭素やガスが出やすい。そこで博士は姿見を使って空気中に含まれる気体のバランスを平安時代に近づけたのだ。


 使われているのはいつも使っている空気と同じものだが、部屋に通る前に濾過(ろか)装置のようなものに通されることで比率の調節をしている。よって、唯一この部屋では能力が最大限活用できるのだ。


「なるほどね。じゃあ工場壊すか」

「なんでそうなるかな?」


 暁の急な提案に全員が止める。


「だって、日常でも使えたら便利じゃん」

「いや、俺はこの部屋だけでいいと思うな」


 白菊は立ち上がり、ガラスの向こうに少しだけ見える煙突を指さした。


「さっきの言葉を返せば、俺らは空気の比率が噛み合わないおかげで能力の制御ができるってことだ。いつでも能力を使えて暴走でもしたら現代では俺らが影狼扱いだよ」

「なるほどなぁ」

「ほら、仕組みが分かったなら帰った帰った。部屋に戻るぞ」


 四人は特別医務室を出て、リビングに戻っていった。

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