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第百二句

「私は、貴方がいなくて寂しいです」

 撰者たちに大木の後ろに身を隠すように言うと、素直に従ってくれた。それによじ登り、いつも通り白菊は遠隔からの攻撃に徹する。地上に見えたのはもうすでに戦っている暁と心の姿だ。


(ここからだと二人に当たる確率が多い。かといって移動すると主たちに被害の出る確率が上がるな……。ここは慎重に狙おう)


 角度や距離を見ながら、二人を見守った。


 影狼の数はそこまで多くなかったが、白菊の言う『応急処置』は、相当苦戦していたときだ。相手の調子を変える能力を持つ暁を前衛に、その目に魅了されているところを心が撃つ。この戦法は先ほど考えられたものだがやりやすい。


 帽子を脱ぎ、すっかりやる気になった暁は楽しそうにナイフを動かした。心も負けじと能力を発動させると次々と弾丸を放っていった。白菊から見える範囲にもう影狼はいない。そろそろ切れるだろうと思ったその時だ。戦っている二人の後ろに、影狼が近づいてきているではないか。すぐに構えていた矢で腹を射る。


「気を付けろ!後ろにもいるからな!」


 とはいっても二人の能力は合わせなければ圧倒的不利、注意はするが白菊が見張って攻撃をすることにした。いくら攻撃をしようと減らない影狼に最初は苦戦していたが、徐々に数が減っている。二人も戦っている様子はない。最後の一匹に矢が当たったとき、暁は焦った様子で白菊と目を合わせた。


「し、白菊!」

「どうした?」

「心が……」


 何かを察した白菊は急いで木から飛び降りると心がいるはずの左を見た。だが、いない。


「いつの間にかいなくなってて……」

「影狼は?」

「俺は見なかった」


 彼の能力は目標を達成するまで解除できない。もし、隠れている影狼におびき寄せられているとしたら大変だ。すると、撰者たちが木の陰から顔を出してきた。


「あの人ですか」

「確か……あちら側に行きましたよ」

「それも、何の迷いもなくです」


 そう言って三人で左の方を指さした。これ以上暴走したら何が起こるかわからない。焦りを感じながらも見えない背中を追いかけた。





 春のもとに影狼が来たのは、森を少し進んだ時だった。いきなり気配がしたものなので鞘から抜くのに手間取ってしまったが、何とか目の前に来る頃には準備が整った。だが、やろうと思った瞬間にはもう自分の背中に回っている。何が目的かはわからない。だが、きっとこれも何かの策略だ。振り返って刃を首に持っていこうとした瞬間だ。


 何か足音がする。また影狼か、いや、それにしては音が大きい。影人だろうか。不安になりながらも首だけを動かした。


「あ、春さん」

「……白菊君、暁君?」

「ちょうどよかった、実は――」


 白菊は何かを話そうとしていたが、それより先に茂みから何かが出てくる音がした。無表情で銃を持つ――心だ。また影狼は春の後ろに回り、様子をうかがっている。体をふらふらさせながらだんだんこっちに近づいてきた。両手の銃がだんだん自分の足元にまで上がってくる。


「コイツは今、能力のせいで暴走してるんだ!」


 後ろには主たちがいる。能力発動中の心は目標以外のことが何もない。それは、自分の主を殺してでもだ。必死に心の両肩を掴んで揺らした。だがどこか遠くを見つめているような目や、常に影狼の額を狙っている銃口は変わらない。


 何度も呼びかけている春の肩と同じくらいの高さまで影狼は跳んだ。たったの一瞬だ。だが、心にはそれがゆっくりと見えていた。目を見開きだんだん下がっていく額を見つめながら引き金を引く――。


「……春さん?」


 その弾丸は綺麗に、春の左胸より少し上の所にとどまった。周りにいた全員が目を見開く。流れ出る血と目が合いながらも、心は感情のない目で見つめていた。


 だが春は、決して肩から手を離そうとはしなかった。

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