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百話突破記念 番外編:第一回天皇会議

「さぁ、始めよう。百の物語を」

「あ、お久し振りです!」

「久しぶり」


 一階の会議室に、(つゆ)夏来(なつき)(ふち)(ゆき)は集められた。だが、これは珍しいことではない。


 博士はたまに、臨時で会議を開くことがある。今後の戦いのこと、影狼に何か変化があったときの対処など。全員を集めて議論などをかわすのは大変なので、それぞれの部屋にいる“主が天皇”の百人一魂が代表して会議をする。博士曰く、国を統一する力を主から受け継いでそうだから、なんていう理由らしい。だが今回はいつもと違う雰囲気が流れていた。


「最近は変化した影狼の噂も聞かないのに……なんで集めたんでしょうか」


 露は懐から三つ折りになった紙を出した。咳ばらいを一つすると中身を読む。


「えーっとぉ、『なんかいきなり百という数字に縁がありそうだったので呼びました』?」

「何それ?」


 いつもだったら中央にある大きなモニターでビデオ通話形式で博士が指揮を執りながら話し合いをするらしい。だが、今回は大事な用があるらしくいなかった。とりあえず着席した四人の後ろには二人が良い姿勢で立っている。しだりとしのぶだ。


 この二人の主は天皇の近くで働いた経験があるためこうして側近のような立ち位置で二つある出入り口を守っている。


「ねぇねぇしだり君、これどういう意味だと思う?」

「…… “百”に関連する話をしろってことじゃないですか?」


 なんとなく流れ的に合っていそうな気がしたので、とりあえず百に関する話をすることになった。側近たちはろうそくを持ってきてそれぞれの前に置く。


「ちょっと待って、これは何?」

「はい!百物語をしようと思いまして」


 しのぶから元気な返事が返ってきたと思いきや二言目にはさらに意味の分からないことを言い出す。


「でもろうそく配られたの四人しかいないよね?」

「じゃあ百分の四物語です!」

「約分したら二十五分の一か……」

「うん(?)」


 わけのわからないがとりあえず順番をじゃんけんで決め、最初は淵からになった。


「これは……俺が主に関する小論文(第百章)を書いていた時だ」

「うわこの時点で怖い(主への異常な執着が)」


「やっと終わりに近づいてきたんだ。結論をまとめてやっと解放されたと思ったその時だ」

「主への執着心にマンネリが芽生えてきてるときのセリフじゃん」


 淵は立ち上がって背中を震わせた。しばらく息苦しそうにしていたのをしのぶが落ち着かせて話す。


「そしたら……そしたらっ、時計を見たらっ!」


 急に低い声が部屋全体にささやく。


「もう午前六時だったんだよ」


 この時全員が静まり返ったのは、皆同じことを思ったからだろう。「お前早く寝ろ」と。


 部屋の電気をつけると、淵としのぶがいなくなっていた。


「あれ、いなくなっている」

「さっきの話の衝撃で淵さんの二十八徹(記録更新)分の睡魔が襲って来たからしのぶが引きずっていったよ」

「まったく、淵さんったら自分に厳しいんですから」

「厳しいどころじゃないかなぁ……」


 しだりからのわかりやすい解説が終わったところでしのぶが戻ってきて、再開した。次は夏来だ。


「これは僕が百貨店で買い物をしているときです。その日は連休で人がたくさんいました」

「そんなところでお化けが出るような感じは……」


「僕の後ろに、ずっと同じ男性がついてきたんですよ四十代くらいでした」

(まさかの不審者――)


 だがそれでも十分怖い。というか、夏来はそういう出来事に会いやすいので慣れているかと思ったがそうでもないらしい。続きを聞こうと前傾姿勢になった。


「それで、人混みの中に逃げようとしたら腕を掴まれて……『お嬢ちゃん、一緒に遊ぼう』って言われたんです」

「確かにそれは怖いね」

「いいえ、怖いのはこれからです」


 さっきよりも夏来の背中が震えている。いったいどんなことがあったのだろうか。


「その男性の腕がまたさらに掴まれました。後ろを向くと露さんがいたんです。『何しているんですか?』って優しく言ってから相手の指を……」

「待って待って。もしかしてさ、本当に怖いって思われているのって僕なの?」


 露は恐る恐る自分のことを指さした。迷うことなくうなずいた夏来に少し泣きそうになったとか。


 夏来のろうそくが消され、次は雪の番だ。


「えっと、僕が庭にあるヒャクニチソウの手入れをしてた時なんだけど……そこには結構、木とかがあって静かな場所だったんだよね。時々変な音が聞こえたり……」


 真剣な面持ちの雪の話に引き込まれる。思わず全員が息をのんだ。


「その日はがさがさと何かが木を通り抜けていくような音がしたんだ。風かと思ったけど、それにしては他の木が静かだし、動物にしては大きくて動きが早いと思ったんだ」

「熊とか?」

「それも怖いね」

「思い切って振り返ったんです。そしたら……誰もいませんでした。あれは気のせいだったんでしょうか?」


 急にちゃんとした話が来て、思わず皆の肝が冷えた。小さい拍手が起こる中、しのぶが手を挙げた。


「あ、それなんですけど、僕この話の真実を知っていますよ」

「っ……⁉」

「本当かい⁉」


 こちらも真剣な顔になり、ゆっくり話し始めた。


「消えた謎の怪物……それは……つくし君です」

「「「え?」」」

「どうやら逃げようとして隠れた場所があそこだったらしいです。天つさんが見つけて捕まったとか」

「蝉かよ」


 面白さは薄まってしまったが、これですっきりした。最後は露だ。両手を口の前で組み、肘を机につけながら話し始めた。


「この館は、元々江戸時代から続いていた名家の屋敷だったと言われているんだ。一家は芸能に長けていて、いつも演劇などで主役に選ばれるほどの実力を持っていたとか。だが、その中には恵まれなかった者もいた。末っ子は物覚えが悪く他の者たちから軽蔑されていて、そのまま病気で亡くなったんだ」

「どうなったんですか?」

「……その後、一家の者は次々と病気になっては亡くなって、ついに跡取りもいなくなってしまった。最後に亡くなった者――末っ子を一番虐めていた長男は亡くなる前にこう伝えている」


『目の前に、俺が、俺がいたんだ!』


「ってね。もしかしたらそれは兄の演技をした末っ子の幽霊じゃないかって言われて――」


 ここまで行ったとき、急に入り口が開いた。電気をつけるとそこには息が切れているしのぶがいたのだ。


「すいません。遅れてしまって……」

「あれ、最初からいたんじゃ……?」

「いいえ、僕は仕事から帰ったばっかりで……会議が開かれていると知ったので今来ました」


 周りを見渡す。今までいたしのぶの姿はどこにもない。


「じゃあ、今までいたしのぶ君って……」


 その後、自室の布団で幸せそうに寝ている淵の手首に、赤い手形を見つけたとか。

木に隠れていたつくしがどうなったかは、前の番外編『マトモ枠会議』をご覧ください。

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