緑の魔女とエルフの王〜新しい婚約と祝福〜
完結用
「……と言うわけで、こちらのエルフの里で王様をしているエドヴァンと婚約することになりました♡」
「うむ、よろしく頼む」
婚約するからには様付けも敬語もいらないと言われたので、遠慮なくエドヴァンの胸元にキャピッと手を添えてフランクに婚約の報告を家族に告げる。エドヴァンも私の肩を抱いて満足げだが、家族のみんなはあんぐりと開いた口が塞がらない様子だった。
「いや、まあ、話は理解できるけどさあ……昨日の今日で急すぎない!?」
最初に言葉を取り戻したのは頭を抱えた我が愛弟、リカルドだった。
そう、何も前置きも無しにエドヴァンを連れてきたのではない。家に着いたら家族全員無事に揃っていたので、ギュスタヴ王の病の真実やエドヴァンが助けてくれたことを話した上で、外で「見張をしておく」と待機してくれていた彼を招き入れたのだ。
「リカルド。恋はね、フィーリングなのよ……」
「うわあ、やめて!姉さんのそんな恋愛浮かれポンチなところ見たくない!」
「まあまあ、ちょっと驚いたけど母さんは賛成よ?真面目で良い人そうじゃないの」
「うん、そうだね。それに2人好きあっての婚約じゃないか。リカルドも姉さんを祝福してあげなさい」
「う、うぅ……わかったよ、おめでとう姉さん……」
しょんもりとしてしまったリカルドはまだやや納得してなさげであったが、お祝いの言葉を述べてくれた。
こうして私たちは何日間かの準備ののちに家族でエルフの里に移住することとなった。あらかじめエドヴァンが連絡を入れていたのか、里に着くとたくさんの民衆が歓声とともに私たちを出迎えてくれた。
「ロージィ様。城でエドヴァン様がお待ちです。ご家族様と一緒にご案内いたします」
「アレス、久しぶりね。案内してくれるのはありがたいんだけど、お父さんと弟は魔法が使えないから今回は徒歩で行こうかと思って」
「ご安心ください、その程度のことぬかりはありませんよ」
パチンっとアレスが指を鳴らすとどこからともなくカボチャの馬車が現れた。私が作るそれとは違って装飾がしっかり施されているし、馬の代わりをユニコーンが勤めている立派な馬車だ。
「わあ、素敵!」
「さあ、お前たち!王妃とご家族のご送迎だ、しっかり頼みますよ!」
御者を務めるアレスの合図で馬車が浮かび上がる。「うわあ……!」と感嘆の声が家族から口々に上がった。私も窓から景色を見下ろして、改めてエルフの里の景色の美しさに感心する。
「これからはここで暮らしていくのね……」
「なあにロージィ、人間界に帰れないのが寂しいの?」
「ううん。むしろすっごくワクワクする!」
笑顔でピースも付けて返答すると、母さんは「ならよかったわ」と安心したように微笑んだ。事実、私の胸はこれからここに生殖している未知の植物への期待でいっぱいである。
「お待たせしました。お荷物は部屋に運び込んでおきますので、カモミール家の皆さまは王が待つこちらへ先にお通りください」
城に着くとさっそくエドヴァンの元へと案内された。うやうやしいお辞儀とともに、エドヴァンが待つと言う部屋の扉が開く。
「ロージィ……!」
「エドヴァン!」
私の姿を見てガタリと立ち上がったエドヴァンの元に駆け寄り、その腕に飛び込む。
「会いたかった、ロージィ……。ここ数日はお前に会えず寂しくてたまらなかった」
「私も、ずっとあなたに会いたかった!」
2人抱き合っていると背後からオホン、と咳払いが聞こえる。父さんだ。流石に家族の前でイチャつきすぎたか、と私は慌てて身体を離す。エドヴァンも冷静になったのか、顔を真っ赤にして「すまなかった……」とそっぽを向いていた。
「謝らないでよ。これからみんなの前で婚約発表でしょ?ほら、王様なんだからもっと堂々として!」
「これでもお前の前でなければ威厳があると評判なのだが……」
「はいはい、いいから2人とも早く準備をしてきたらどうですか」
また2人の世界に入りかけたところでリカルドからベリっと引き剥がされる。危ないところだった、また家族の前で無駄にイチャイチャしてしまうところだった。実に頼りになる弟である。
「そうしましたらご家族の方も来賓席にご案内いたします。エドヴァン様とロージィ様は着替えの準備を……」
言われるがままに私たちは婚約発表の準備に取り掛かった。エルフの侍女によってメイクを施され、植物の意匠をあしらったドレスを着付けてもらう。
最後に、大きなエメラルドの首飾りをつけてもらった。
「わあ、綺麗……!」
「こちらはエドヴァン様から、ロージィ様への贈り物でございます」
「そうなの?エドヴァンたら、直接渡してくれたらよかったのに」
「ふふ、きっと照れ臭かったのでしょう」
鏡を見たら、首元で光るエメラルドは緑色のドレスが調和して嫌味のない美しさをたたえていた。
「さあ、こちらへ。エドヴァン様と民がお待ちです」
婚約発表を行う城のバルコニーへ案内され、心臓が跳ねる。思い出すのはあの日の婚約破棄をされたパーティー。
(大丈夫、エドヴァンはギルベルトとは違う……)
胸元に輝くエメラルドをギュッと握りしめ、覚悟を決めて一息にバルコニーへと踏み出した。
ワアアアアッッ!!と耳をつんざかんばかりの歓声が私を包む。最前列では笑顔で私を見守る家族の姿も目に入った。
「ロージィ、手を」
エドヴァンに差し出された手を取る。そのまま1歩、2歩と前に出ると、エドヴァンに肩を抱かれてグッと身体を引き寄せられた。
「……皆、聞いてくれ!」
エドヴァンの一声でピタッ、とざわめきが静まり返る。今や誰もが彼の一挙一動に視線を注いでいた。
「彼女の名はロージィ・カモミール!緑の魔女として人間界でもその力を多分に求められながら、俺との婚約を受け入れこの里に移り住むことを決めてくれた!どうか皆、俺と彼女の婚約を祝福してほしい!!」
再度爆発する歓声。飛び交う拍手、口笛とお祝いの野次は人もエルフも変わらないようだ。
「皆、私たちをお祝いしてくれているのね……」
「ああ、そうだ。どうだ、この里でやっていける自信はついたか?」
私は満面の笑みで彼に答えた。
「当然!大好きよ、エドヴァン!」
エドヴァンの首元に抱きつき、頬にキスをする。「なっ、こんな人前で大胆な……!」とあわあわする彼の姿を見て満足しながら、私はこれからの日々に思いを馳せるのであった。
ーーああ、あの日婚約破棄されて本当によかった!
これにて完結になります!
ここまでお読みくださった方、本当にありがとうございました。
次作はもっとペース良く投稿できるように頑張って書き溜めたいと思います。