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婚約破棄!?~自由になっていいんですか?~

「緑の魔女、ロージィ・カモミール!貴様は第一王子であるオレの婚約者という地位を利用して不当に薬草の販売を独占するばかりか、競合店の娘であるレイナを(おとし)めた罪で婚約破棄とし、カモミール家を王宮から永遠に追放とする!」

 

「……はい?」


 私と王子ギルベルト・ベンバッハの婚前パーティー。

 正式な婚姻を発表するはずのその場で、ギルベルトは見知らぬ女の子の肩を抱いて私へと婚約破棄を突きつけた。

 ざわざわ、と周りが驚きと興奮に包まれる。


「まさかロージィ様に限ってそんなこと……」

 

「いやでも、確かに我が国でのカモミール家の強さはおかしいと思っていたんだ……」


 周りがざわつく中、私は全く身に覚えのない罪に驚きを抱きつつも、それを上回る1つの感情が胸の中を駆け回っていた。


(これでやっと窮屈な王宮暮らしから解放される〜〜!!)


 王子の婚約者!それは全女性の憧れ、悠々自適で(ぜい)の極み、豪華な暮らし……だと思ったら大間違いなのである。


 毎日のマナーレッスン、王族としての教養や将来の王を支えるための公務のお勉強、有力貴族との社交パーティー、民草の支持を集めるための慈善事業えとせらえとせら……。


 率直に行って、うんざりしていたのである。

 カモミール家は『緑の魔女』として王族に仕える魔女としての一族と薬草店の経営者としての二面性を備えている。

 優れた植物に関する知識と魔法の技術を持つ魔女の一族である我が家は古くから王家に仕えており、我が家の魔女は度々王家に嫁いできた歴史があった。


 魔法を使えるのは女である魔女だけ。しかし男でも魔力を濃く引き継げば常人よりも優れた身体能力を手に入れられる。自分で言うのもなんだけど、魔女というのは王侯貴族からすれば喉から手が出るほど欲しい配偶者である。

 そういう訳で現王であるギュスタヴ王からの頼みで婚約者として努力を重ねてきた私だが、婚約破棄とあればそんな不自由な生活とは名実ともにおさらばである!


「……わかりました。そのような所業、身に覚えはありませんがそれが王子の御心とあらば慎んで罰を受け入れます」

 

「ふん。なかなか物分かりがいいじゃないか。だがそんなしおらしくしてみたところでレイナの心の傷は癒えないぞ?」

 

「ギルベルト様……!レイナのことをそんなに想っていただけるなんて嬉しゅうございます。ですが、ロージィ様のこともこれ以上責めないでくださいませ!わたくしはギルベルト様からの寵愛さえいただけたら充分ですわ……」

 

「ああ、レイナ……。君はなんて優しい娘なんだ!」

 

 よっしゃー!!とガッツポーズでもしたい気分だが流石にそれは面に出さず、今にもこぼれてしまいそうな笑みを抑えるためにキュッと歯噛みして頭を下げる。


 ギルベルトといちゃついているレイナという少女。

 本当に身に覚えがないが、競合店と言うからにはどこぞの薬草屋の娘だろう。この国にカモミール家以外の薬草を扱う魔女はいないから間違いなく一般平民だが、ギュスタヴ王の許しは得たのだろうか?


 まあ、そんなことを考えても仕方ないか。私にはもう関係がないし。


「では、家にも早く正式にこのことを伝えなければいけませんし、私はこれにて失礼いたしますね。ギルベルト王子、両親にこれを伝えるためにも正式な書状を預からせていただけませんか?」

 

「構わないが、これを破棄したりしても無駄だぞ?この場にいる全ての貴族たちが証人だからな」

 

「存じております。ですがカモミール家の追放とのことでしたので、両親も書状がなければすぐには納得できないでしょう。早くこのことを伝えた方が、王子も気兼ねなくそちらのレイナ様とご結婚できるのでは?」

 

「ハッ、お前の両親の意向など関係ないが……まあ連絡係を進んでするというなら精々使ってやるよ。ほら、これが書状だ」

 

「ありがとうございます、確かにお受け取りしました。」


 渡された書状は想像以上にペラペラの紙一枚。

 だが、王家の捺印だけはしっかりと押されているので問題ないだろう。


「では、私はこれで失礼いたします」


 一礼するとざわめく群衆を突っ切って真っ直ぐにバルコニーへ出る。


「おい、お前何を……」


 飛び降りでもすると思ったのか悲鳴に似たどよめきが上がる。騒ぎを省みることなくイヤリングに常々仕込んでいたカボチャの種を取り出すと、私は最後にギルベルトへ振り返った。


 ずいぶんいけ好かない男に育ってしまったが、焦る顔は昔と変わらない。幼い頃は友人としての親しみも抱いていたが、私が厳しい王妃教育に追われている間も1人息子の後継者として周りからチヤホヤされて暮らす間にかつてあった友情はすっかり風化してしまった。


 しかし、これでコイツと会うのも最後だろう。私はとびきりの笑顔でギルベルトに向けて手を振った。


「結婚おめでとう、じゃあねー!」


 手の中のかぼちゃの種に魔法を込めて、投げる。

 種はたちまちカボチャとなり、カボチャは大きな馬車となった。宙を浮くそれにヒラリと飛び乗る。


「さあ、『世界樹のゆりかご』まで私を連れてって!」

 

「ヒヒヒーン!」


 カボチャのツルでかたどられた馬が呼応するようにいななき、星空へ駆け出す。

 空に浮かぶ月は私の自由を祝福するようにキラキラと輝いて見えた。


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