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第38話 家族になろう

【ホタル視点】

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「やばい、やばい。遅刻する!」

 

 校舎に向かって走っていると後ろから声をかけられた。

「ホタル、おッはよー!今日もギリじゃん」

「人のこと言えない。香清かすみだって、そうじゃん」

 同じクラスの。香清かすみだ。入学して最初に声をかけてくれた子で席も近く仲良しになった。

「あ、いたたたッ・・」

 香清は、大げさに胸を押さえる。


「アッハッハッハ。でもさ、ホタルのちちってかっこいいよね。若いし。私もあんなちち欲しい~~~~ッ!」

「別にそんなこと・・・、無いと思うけど」

「優しそうだし。いいなあ、あんなちちに私も毎日送って貰いたい~~~!」

「父言うな!」

 私は突っ込まずにはいられない。香清は漫画に影響され過ぎだよ。


「それで、あのプリマヴェーラの店主でしょ。地元で有名じゃん。『街のイケメン店主』って」

「そ、そうかな」

 そう言われると、悪い気はしなくなってくる。

 確かに私は、〇〇を少し自慢に思っていた。


 でも、○○は、私のパパではないのだ。

 ただ、○○には、「僕たちは家族だ」と言われたことを思い出す。





「ホタル、僕たちは家族になろう」

 私が、転入試験に合格して、こっちに引っ越してきた日に、○○はそう言った。

「家族?」

「そう、僕たちは、家族だ。勿論、純華とホタルは、姉弟きょうだいだから家族だよね。僕と純華も親子だから家族だ。でも僕とホタルは、どんな関係かな?」

「私と○○の関係?」

「そう、僕とホタルの関係」

「そうねえ、ママの()()()()()?」

「何か嫌だな、その言い方・・・」

「結婚しなかったし。私、連れ子でもなかったし?」」

「まあ、そうなんだけど。血のつながりはないから、泉天いずみさんを通して僕とホタルは通じているんだと思う。でもね、泉天さんが生きていれば、僕と泉天さんは結婚していて、君を迎えていたと思う。そうであれば、僕とホタルは家族になっていた。だから、一緒に暮らすのであれば、僕は、ホタルと家族として接したい」

「家族って、○○が私のパパになるってこと?ちょっとそう思うのは、無理かな」

「まあ、そう思ってくれとは言わないけれど、()()()()と思って欲しい」

()()()()・・」

「戸籍上どうとか正式にするわけではないけれど、僕が、ここでは、親代わりとしてホタルに責任を持つから、ホタルにも気楽にして欲しいし、安心して欲しいということ」

 そう言うと、○○は、屈託なく優しく微笑んだ。

「・・・・・・」


 〇〇は、本当にやさしい。私のことを真剣に考えてくれている。そのことはとても嬉しい。

 一方で、○○にとっては、私は、ママののままなんだと思うと、少し胸が苦しくなるのを感じた。


 これって、何だろう?

 

「そうだね。私たちは家族よね。でも、私、○○のことをお父さんとは呼べないと思う」

 私は、そう呼びたくない。


「別にいいよ。ただ、人前ではせめて敬称をつけて欲しいかな。僕のためと言うよりもホタルのためにね」

「○○・・・さん?何か、は、恥ずかしいんだけど」

 少し体温上がって来た。

「あれ、何で顔赤くなっているの?」

 ダメ!○○の顔を見ていられない。

「う、うるさい。やっぱり○○は、○○だ!」

「はい、はい」

 ニッコリと優しく笑う〇〇に腹が立った。





「ホタル?」

 そんなやり取りが想起され、立ち止まっていたようだ。香清かすみが、心配そうに私の方を振り返る。

「私は、()()()だから。でも、○○・・・さんとは、()()だよ」

「そうか、そうだね」

 香清は、私たちの複雑な家庭事情を察してくれたようだ。何も聞かず、頷いた。

「2人とも急がないと遅刻だぞ」

 先生に後ろから声をかけられた。

「やばい、やばい。急ごう!」

 私と香清は、再び駆けだす。

「こら、廊下は走らない!」

「はーい!」



 隣のクラスの前を通るとき。

「よーし、ギリギリセーフだ」

 2人で安堵していると、隣のクラスの男子が窓を開けると、声をかけてきた。

葵井あおいさん、おはよう。あ、香清も」

屋井おくい君、おはよう」

「なんだよ!私は、ついでかーい!」


 この男の子は、屋井君。転校してきて以来、結構声をかけてくれる。フェンシング部のエースで短髪の整った顔立ちで清潔感があり、誰にでも気さくに接するので女子に人気がある。



「今日も頑張ろうね。あ、チャイム鳴っちゃうね。急いだ方がいいよ」

 そう言って、ニコっと微笑んだ。

「だったら、声かけるな!」

 香清が突っ込む。

「ゴメンゴメン」


 ギリギリセーフで私たちは、教室に入った。





 ある日の土曜日、授業が半日で終わった後。

「ねえ、今日みんなでホタルの家のカフェでランチしない?」

 帰る準備をしていると、香清かすみともう一人の女友達が後ろから声をかけて来た

「え?」

「プリマヴェーラってこの辺だと結構有名じゃない?森の中にあるカフェって。お母さんも行って、とても癒されるって言っていたよ。料理も美味しいし。ねえ、いいでしょ?」

「えーと」

 私が躊躇していると。

「え、何、何?」

 近くで聞いていた他の女子が寄って来た。

「ホタルん家のカフェに行こうって話」

「えー、いい!私も行く行く」

「私も・・」

「ちょっと・・」

「はーい、決まりー。今日は、プリマヴェーラでランチしまーす!」

 勝手に決められてしまった。


 仕方ない。


 私は、メッセージアプリで〇〇に急いで連絡を入れる。

『同じクラスの女子4人連れて帰ります』

 すると、すぐに○○から返信が来た。

『え?何?友達連れてくるの?』

『そう、カフェでランチをしたいって』

『了解』 



 教室を出ると、隣のクラスの屋井君が声をかけて来た。

「あれ、みんなでどこか行くの?」

 ニコっと自然に声をかけて来る。

「ホタルの家のカフェでランチするの」

「あ、いいなあ」

「オックーも来ればいいじゃん」

 香清が言う。

「え、いいの?行きたいけれど」

 私に皆の視線が集まる。

「ど、どうぞ」

 

 その後、急いで○○にメッセージを送る。

『男子一人追加で』

『男子?それって彼氏?』

『違う』

 何でそうなる!

 なんかとても腹が立ち、秒で返信した。





【〇〇視点にもどる】

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 カランカラン


「いらっしゃいませー」

「ただいま」

 お店のドアが開くと、ホタルが帰って来た。

 14時を回っていて、お店のお客様は結構引けていた。


「へー、ここが森のカフェ、プリマヴェーラなのね。とても素敵ーッ!」

 友達が5人ぞろぞろと入って来る。その中に男子が一人いた。

「いらっしゃいませ。プリマヴェーラへようこそお越しいただきました。ホタルがいつもお世話になっております」

 僕は、丁重にホタルのお友達を迎える。

「は、はい」

 ホタルのお友達は、急にテンションが上がり始めた。


「ちょっと、ホタルのちちヤバい。ほんとスラっとしてカッコイイよね?」

「イケメン、イケメンよ」

 ヒソヒソとそんな女子会話(トーク)が聞こえて来る。

 女子高生の視線が痛い。

 返しに困り、ただ微笑む。


 一方で、ホタルの冷たい視線を感じた。

「鼻の下のばし過ぎ」

「はは・・」

「ふん」

 そう言い残すと、ホタルはお友達の方を案内する。

「テラス席もあるよ。そっちで食べる?」

「いい!テラス席いい」

 高校生たちは、テラス席に向かう。



 最期にいた背はそれほど高くないが、眼も大きくて端正な顔立ちの男子が僕の前で立ち止まり、礼儀正しくお辞儀をした。

 ホタルが彼氏じゃないと否定していたけれど。

「屋井です。今日は突然押しかけてすいません。よろしくお願いします、()()()()

「はい。こちらこそ、ゆっくりしていってください」

 僕は、親子関係の説明するのも嫌だったので、『お父さん』はスルーした。

 ホタルが、こっちをジッと見ていたが、何も言わなかった。


「ホタル、注文オーダーお願い」

「うん」

 ホタルは、テラス席にメニューとレモン水を持って行く。



 カランカラン



 ドアが開くと、関さんがやって来た。いつものようにカウンター席に座る。

「いらっしゃいませ。今日は遅かったですね」

 関さんは、ほぼ毎日やって来るが、いつもは昼時だ。

「ああ、今日は外回りでね。土曜なのにコキ使われているよ」

「ハハハ。注文は、どうしますか?」

「森のカレーでソーセージトッピングにして」

「はい」

「この時間にしては、賑やかだな」

 そう言って、テラス席の方を見る。

「珍しいな。女子高生なんて」

「ホタルがお友達を連れてきたんですよ」

「へー、あの性格の悪いホタルでも友達できたんだ」 

 僕の方に振り返ると関さんは、そう言った。


 パカーンッ!


「痛ッ!」

 いつの間にか後ろにいたホタルが、関さんの頭をトレイで殴った。

「悪かったわね。性格悪くて」

「お前な、何も殴ることないだろ!」

「ふん」

「2人とも」

 僕は、いつものことだが注意する。この2人は水と油のように仲が悪い。

注文オーダー入ります。森のカレーのソーセージトッピング1つと本日のおすすめランチ1つ、日替わりバスタセット3つでお願いします」

 注文を言うと、ホタルは制服の上着を脱ぎ、エプロンをつけてカウンターに入る。

「いいよ。友達といて」

「手伝う。早く給仕したいし」


「はい、関さんの森のカレーです」

「ほら、さっさと食え」

 そう言って、ホタルは関さんの前にカレーのプレートを置く。

「ホタル、言葉遣い」

「ほんと、癒しの女神のようだった泉天ちゃんの接客法を煎じて飲ませたいぜ」 

 関さんはスプーンを手に取り、食べようとすると、ホタルがカレーのプレートを横取りし、関さんのスプーンが空を切った。

「さあ、何か言う事は?」

 冷笑を浮かべてホタルは関さんを見る。

「うぬぬぬ・・・」

「ホタル・・」

 僕が注意すると、ホタルはプレートを関さんの前に戻した。

「関さん、すいません」

「〇〇君のせいじゃないよ。()()()()()()()()こいつはガキだからな。大目に見るさ。まあ、大人としての余裕というやつだな。ハッハッハッ!」

 そう言って、関さんはカレーを一口食べる。

「また打たれたいの?」

「何を!」

 2人がファイティングポーズを取るのをみて、僕は、声を荒げる。

「もういい加減にしてください!」

「はい」

 二人はシュンとして矛を収めた。

 これは、いつもの恒例行事だ。




 料理ができると、ホタルが、テラス席に運んでいく。

「はい。これは、ホタルの分」

 僕は、ベーコンをトッピングした森のカレーをカウンターに置いた。森のカレーは、目玉焼きレタスやトマトのサラダにレーズンをトッピングしたカレーだ。

「いいの?」

「ゆっくりとしておいで」

「ありがとう」




 ホタルが、友達と明るく談笑している姿を見て、僕は安心した。

「早速、友達が出来てよかったじゃないか」

 関さんが、カレーを食べ終わりコーヒーを啜りながら言った。

「はい」

「おじちゃん、抱っこーッ!」

 寝ていた純華が起きて来て、関さんの横にいた。

「おおー、純華。起きたのか。よーし」

 関さんは、席を立ち、純華を高く持ち上げ、高い高いをする。

「あははは・・」

「お、純華、またちょっと重くなったな」

「子供が大きくなるのは早いですね」

「段々、泉天ちゃんに似て来ているな。男の子だけど、純華は美人さんだな」

「そうですかね」

 

 純華が、ホタルを見つけると走って行った。

「ホタルねえさま~」

 最近、純華に『姉さま』と呼ぶようにホタルが手なずけていた。



「あー、可愛い。この子、ホタルの妹?」

「弟だよ」

「え?男の子」

「さあ、純華、皆さんにご挨拶して」

「ホタルねえさまのおとうとのすみかです」

「もー、ちょーかわいい、天使じゃん!」




「じゃあな、そろそろ行くわ」

 関さんが席を立った。

「はい。気を付けて。またお願いします」

「おう」

 会計を済ませ、関さんは店を出た。




 高校生グループは賑やかだ。純華も加わり、話がつきないようだ。


 少しして、屋井君が来た。

「お手洗いお借りします」

「どうぞ。奥の右手です」


 トイレから出て来ると、屋井君に声をかけられた。

「少しお話させてい頂いてもいいですか?あっちは女子トークで盛り上がっていて」

「はは、男子一人だと辛いですよね。どうぞ」

「あの、聞いてもいいですか?」

「何でしょう?」

「気になっていたんですけれど、〇〇さんは、ホタルさんの父親でいいんですか?」

 僕は、屋井君のこの質問に顔を上げた。

 屋井君は、真剣な表情だ。

「はい、どうぞ。ブレンドコーヒーです。あ、コーヒーは平気ですか?」

「大丈夫です。ありがとうございます」


 僕は少し間を置いた。

「わかると思いますが、あの子は、ホタルは、私の子ではありません。あの子は、私が死別した妻の()()()です。弟の純華は、私と妻の子ですよ」

 面倒なので、泉天さんと正式に結婚してないことは言わなかった。ホタルは連れ子でもない。

「では、血縁は無いんですね?」

「ええ。私とホタルは、妻とこのカフェで繋がっているんですよ。その絆は実の家族にも負けないものと思っています」

「僕が、もし、ホタルさんと付き合うことになったら、〇〇さんは認めてくれますか?」

「え?」

 あ、そうか、そう言うことか。


「それは、私が決めることではないので。屋井さんは、ホタルが好きなんですか?」

「はい」

「ホタルに伝えたんですか?」

「はい。でも、あっけなく断られました」

「あ?」

 僕は、屋井君を見るが、特に気にする風もなくコーヒーを啜っている。

「僕のことを、そう言う風に見れないと」

 メンタル強いな。この子。ホタルもストレート過ぎるだろう。


 イケメン髙橋さん(※)を思い出す。

 あの人も何回も泉天さんに告白したとか。

 (※イケメン髙橋は、第10話から15話・番外編辺りに登場します。) 


「でも、今日、○○さんと会って理由がわかった気がします」

「私と会って?」

「〇〇さんがライバルでも、僕諦めませんから」

 屋井君は、真剣な眼差しを向ける。

「え?」

 

 思いもよらないことを言われ、僕は戸惑った。


「えーと、何か勘違いしていませんか?私とホタルは家族ですよ」

「そ、そうですよね。変なことを言ってすいませんでした」

 屋井君の顔は、見る見るホッとしたような表情に変わった。

「コーヒー美味しかったです」

 屋井君はペコリとお辞儀をして席に戻って行った。



 その後も、ホタルとお友達との会話が盛り上がり、夕方までカフェにいた。

 帰りは、ホタルが、林道を抜けた国道までお友達を見送に行く。

 僕は、ホタルと屋井君が並んで会話しながら歩いて行くのを見た。

「ふう。もうひと頑張りするか」

 お客様はまばらだったが、気合を入れる。


 少ししてホタルがカフェに戻って来た。

「今日はありがとう。皆喜んでいたよ」

「どういたしまして。素敵なお友達だね」 

「うん。みんないい友達だよ」

 ホタルがニカっと笑った。 



 しかし・・・。 

 その日の夕食後、僕は、昼間の奥井君とのやり取りが気になったので、ホタルに切りだす。


「ホタルは、学校で好きな人とかいるの?」

「え?なに、急に?」

「あ、いや、別に詮索している訳ではなくてね」

 少しごまかしを入れる。

「屋井君から何か言われたの?」

「え、まあ・・」

「屋井君にこくられたけど、断ったよ。それに、私には好きな子がいるもん」

「え?そうなの?」

「うん」 


 僕は、少し動揺していた。

 だ、誰だ?そいつは?

 


「私が好きなのはー、純華だよ~~~~~ッ!」

 そう言うと、純華を抱き寄せた。

「純華ーーッ、愛しているよ!」

 そう言って、弟の柔らかい頬をスリスリしている。

「うーん、気持ちいい」

「ねえさま、くるしいよ」

「ついでに、○○もね」

「なんだ、ついでにって」

 そう言って、僕の腕を取った。

「私達()()だし!」

 ホタルがニンマリと笑った。

「ああ、その通りだ」


 そう、僕たちは、家族だ。


 そのうち、ホタルも誰かいい人を見つけて付き合ったりするのだろう。

 親心としてだと思うが、少しそれには抵抗感を感じる。


 だから、ホタルの今の言葉に僕は、ホッとした。


 しかし、また一方で何か少しモヤっとしたものを感じている自分がいた。

 


                              (つづく)

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