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第36話 パパ・・・

再び、『妖精のCafe・フェアリー』をやったあの東屋が登場します。

この場所は、私も行ってみたいと思うやな空間ですね。

 泉天いずみさんの娘のホタルが、プリマヴェーラに来てから2週間ほどが経過していた。



 土曜日の夕食時に僕は、こうきりだした。


「毎日頑張ってくれていることだし、そろそろ・・・」

「?」

 ホタルは、黙々と食事をしていたが、僕の方を見た。

()()()()に会いに行こうか?」

「はあ?」

 ホタルが、何を言うんだという冷たい視線を僕に向けた。

「ようせいさん、ようせいさん!いくーーッ!」

 純華すみかの方は、絵本でみた妖精を思い浮かべているのだろうか?

 わーい、わーいと喜んでいる。


 姉弟きょうだいでも、こうも反応が違うものなのか。



「○○、忙しかったからかなあ。()、大丈夫?」

 ホタルは、眉間に皺を寄せ、憐れみの表情で僕を見ている。


 女子高生に、健康面の心配されてしまった。


 更に娘なのにこうも泉天さんとの反応の違いに、僕は戸惑ってしまう。

 しかし、ここは、気を取り直して。


「う、うふん。別に頭は平気です。ご心配なく。とにかく、明日、準備して()()()()の所に出発しますので」

「まあ、いいわ。付き合ってあげるから。で、妖精さんって、どこに行くの?」


 仕方ない、ここは合わせてあげようという様な寛大な大人の対応を見せて来る女子高生だ。


「それは、行ってからのお楽しみということで」

 機先を制せられたが、こちらも大人の対応で応じる。

「えー、もったいぶらないでよ~」

 ホタルは、不服顔になる。

「まあ、その方が喜んでもらえるということで」

「ふーん、そうですか」


 ホタルは、食べ終わった食器を持ち、キッチンへと運ぶ。

 僕は、そんなホタルの後ろ姿を見ると、肩が少しブルっとしたように見えた。

「ようせい、ようせい、ようせい・・」

 一方の純華は、尚も喜んでいる。


 ヨシッ!

 僕は、期待している2人を喜ばせようと言う気になっていた。

 



 実は、僕は、準備していた。



 あの『妖精のCafe・フェアリー』※をやった東屋あずまやにホタルを連れて行こうと思い立ったのだ。


(※お忘れだと思いますが、「第6話 妖精のカフェ始めました」をご覧ください。)



 ホタルが、来てから夏の多忙なこの時期も本当に助かっていた。彼女は一生懸命働いてくれるし、泉天さんの代わりではないが、ホタルに会いたくて来るお客さんもいる位の看板娘のような存在にこの短い期間でなっていた。血筋は争えないということか、と感心した。


 一方で、買い出し位しかどこにも連れて行ってあげられずにいたので、ホタルに申し訳ないと思っていた。ホタルの方は、そんなことは気にしていないようだったが。


 だから折を見て、僕は、一人あの東屋に行き、荒れた細道の整備や傷んだ東屋の補修をしていた。


 カフェの裏の森の細道を川沿いにずっと行った山間にあるあの東屋だ。


 そう言えば、泉天さんと『妖精のCafe・フェアリー』をやったのは、もう5年前のことだ。


 あの時のことは、今でもよく覚えている。


 泉天さんと過ごした貴重な一時。

 一緒に食べたハンバーガー、温かいスープやミルクティー。

 そして、一緒に見た幻想的な光景・・・・。

 

 泉天さんを意識したのもあれがきっかけだった。



 だから、ホタルにもあの場所を体験して欲しかった。




 そして、カフェが休日の日曜日の昼頃。


 朝、いつものようにショッピングモールに3人で食料の買い出しに行き、買い物を済ませると、僕等は泉天さんの友人であった薫さんのカフェでランチを取っていた。


 僕も、ショッピングモールに買い出しに来る度にここを利用させてもらっていた。


「うーん、カレー美味しかったな」

 僕は、満足の食事の後、食後のコーヒーを啜る。

「ここのコーヒーも美味しいよね」

 

 このテラス席でゆったりしていると、大量の買い出しの疲れも癒される。


 しかし、ホタルは別のことを思っていたようだ。

 目を向けると、少しイライラしているように見えた。


「ねえ、妖精さんに会いに行くって言わなかったっけ?ここでのんびりしていていい訳?」

「ああ、大丈夫だよ。焦らなくても。妖精さんは逃げたりしないからね」

 そう言って、僕はコーヒーを啜る。

「ふーん。そうですか」

 ホタルは諦め顔に肘をテーブルにつき、ストローでソーダ水を啜った。


 ホタルは、結構楽しみにしてくれているようで、僕はうれしくなった。




 そして、夕方になった。


 コンコン。

 僕は、ホタルの部屋をノックする。


「さあ、準備をして。妖精さんの所に出発するよ」

 僕は、ドア越しに声をかけた。

 ホタルがベッドから跳ね起きて、ドアを開けた。

 「え?今から?」

 ホタルは、すっかり諦めていたようだった。 

「そうだよ。さあ、手伝って」

「うんうん、着替えて来る」

 急にホタルはウキウキになった。

 

 ホタルは、急いで白のワンピースに着替えて出て来た。


 とても可愛くて良く似合っている。

 

 本当は、楽しみにしてくれていたようだ。



 カフェのキッチンで準備を進める。

 僕は、テイクアウトメニュー調理する。

 厚いチーズと地元の名産のベーコンをトッピングしたハンバーガー。クラムチャウダースープ、青野菜のサラダも手早に調理していく。


「棚からバスケットを出して、つめてね」

「え?外で食べるってこと?」

「そうだよ」

「今から?」

「そうだね」

「訳わからないんだけど・・・」

「行ってのお楽しみです」

「もう、そればっかり!」

 イラついたホタルに背中を殴られた。

「痛いな」

「ふん」


 そうは言いながらも、ホタルは、バスケットに作ったハンバーガーやサラダ、水筒に入れた温かいスープ、それとデザートのプリンなどを詰めていく。


 準備を終えると、僕等は出発した。



 カフェの裏手にある菜園を抜けて行くと、森の更に奥へ通じる細い道がある。


「へー、こんな道あったんだ」

 ホタルが辺りをキョロキョロと見る。

 森の中だが、まだ明るい。


「普段行かない道だからね」

「でも、こんな暗くなりそうな時間にピクニックなんて楽しそう」

「そうだね」

 そんな話をしているといつの間にか、純華がドンドン先に進んで行っていた。

「ダメだよ。純華、先に行っちゃ!」

 僕は、大きな声をあげた。右手は崖になっているから危ないのだ。

「純華、さあ、お姉ちゃんと手を繋ごうね」

 ホタルが、純華に追いつき、純華の手を取った。

「ふう、良かった」

「慌て過ぎだよ」

 ホタルの方が、僕よりも親っぽいと思い、少し恥ずかしくなる。


 そんなこんなで、さらに先に進んで行くと細い川にぶつかり、降りながら川沿いに進んで行く。そして道を更に降っていく。



 10分ほど進んだだろうか。


「見えた。あそこだよ」


 僕は、前方を指さした。

 草木の茂る小川のたもとに、小さな東屋あずまやが見えた。


「わあ、東屋だ!純華、行こう!」

「わーい!」

 2人が走り出した。

「2人とも気を付けて!」



 僕等は、緑色の東屋の中に入った。


 東屋ここについてもまだ辺りは明るかった。


 四角い大きなテーブルの周りにベンチ式の椅子が4つある。テーブルにバスケットやリュックなどの荷物を置くと、ホタルと純華が川に目をやる。


「純華、川があるよ、行こう」

「うん」

 川はジャンプしても渡れるほどの細い小川だ。周辺には草が生い茂り、夏の虫の声が小川のせせらぎと調和してとても心地よい響きとなる。


 2人は、川に走る。


「入ろう、純華」

「うん」 

 2人は靴を脱ぎ、川に足をつけた。

「きゃあ、冷たい!」

「つめたい、つめたい!」

「うわー、きれいな水」

 ホタルは、水をすくって見つめる。


 僕は、そんな二人を横目にみながら、食事の準備を進めた。


 バスケットから、準備してきた料理を取り出し、テーブルに並べて行く。


 カフェで人気の厚いチーズと地元の名産のベーコンをトッピングしたハンバーガーだ。お店では、これにレタスなどの野菜もプラスしているが、野菜は抜いてサラダを別に用意した。それとクラムチャウダースープを水筒からカップに注ぐ。暗くなってくるとこの辺りは冷えて来るから、温かいものがよい。それと、デザート用プリンとミルクティーも並べた。


「二人とも、食事の準備が出来たよ!」

 僕は声をかけた。

「はーい」

 ホタルと純華が走って戻って来た。

「うわー、美味しそう!」

「おいしそう、おいしそう」

 テーブル一杯に並べられた料理を見て、2人は目を輝かせた。


 少し暗くなってきたので、僕は持参したランタンに灯を灯した。

「さあ、食べようか」

「いただきまーす」

 3人揃って手を合わせた。


「このハンバーガー、めちゃ美味しいんだけど!」

 ホタルが、ハンバーガーにかぶりついた後、大きな声をあげた。

「お店で出すのと変わらないよ。野菜は抜いてあるけどね。自然の中で食べると違うのかもね」

「うん、きっとそう!」


 静かに流れる清流の音と夏虫の声が実に心地よく心に響いて来る。


 そして、食事を終える頃には、辺りはすっかり真っ暗になっていた。

「ふう、お腹いっぱい」

 デザートのプリンも食べ終えると、満足の一言が出た。



「さあ、そろそろかな。()()()()も準備できたようだ。ホタル、君をここに連れて来た理由がこれだよ」


 僕は、そっとランタンの灯を消した。


 小川の茂みのあたりからぼや~っと光が浮かび出してきた。


 そして、光は段々と広がって行き、辺り一面を覆う様にポツンポツンと小さな光が照らしはじめた。

「あ!蛍だ!」

 

 ホタルが蛍を見て、叫んだ。


「ここの()()()()は、今年もとてもきれいに光ってくれているね」

 僕は、その幻想的な光景に目を奪われた。

「私、蛍、見るの初めて!純華、近くに行くよ!」

「ホタル、ホタル。ホタル姉ちゃん」 

 2人は、蛍が多くいる茂みの辺りに駆けだす。


 ホタルは、純華と茂みにとまる蛍を見つめた。

「うわーっ、蛍ってお尻の方が光るんだ!ゆっくり光っているよ」

 ホタルが、蛍を感心して観察する。

 しかし、純華が、蛍を掴もうと両手を伸ばすと、蛍は、手をすり抜けゆっくりと飛び出して行く。

「あーッ」

「純華、ダメだよ。妖精さんの邪魔をしちゃ」

 僕は、純華を後ろから抱えると、肩車をした。

「そら、周囲を見てごらん」



 強い光を発するもの、淡く光るもの、無数にも見える蛍の輝きは、調和しらべが取れているように漂っていた。しかし、それはどこか儚さを感じさせるものだ。


 ホタルは、腕を胸の前に置き、祈るように見つめていた。

「ありがたい・・・」


 そう呟くと、急にホタルは、蛍の調べに合わせるかのように手足を大きく動かし、舞い始めた。くるくると回り、踊った。時に大きく跳ね、舞う。それは、彼女の内から自然と出て来たものなのだろう。


 ホタルは、バレリーナのように、美しく舞う。


 蛍の光が漂う中、舞うホタルを見つめ、僕は素直に美しいと思った。


 パチパチパチパチ・・・。

 僕は、静かに拍手を送った。


 ホタルの動きが止まった。


「ありがとう・・・、妖精さんたち」

 ホタルは、淡い光を発し漂う蛍を見上げ、そう呟いた。




 『妖精のカフェ』からの帰り道。


 僕等は、なだらかな細い道を昇って行く

 僕は、疲れて寝てしまった純華をおぶって歩いていた。

 ホタルは、バスケットを持って僕の後に続いていた。


 夏虫の声と小川のせせらぎだけが美しく響く。



 その時。

 突然ホタルが後ろから微かな声で呟いた。


「パパ・・・」


「え?」

 僕は立ち止まり、振り返った。

「・・・・」

 ホタルは、薄明りだったが、少し赤い顔をして恥ずかしそうに僕から視線を逸らしている。

「今、何か言ったよね?」

「別に何も。気のせいじゃない・・・」

 尚も僕と視線を合わせない。

「嫌、言ったよ。小さい声で」

「何て聞こえたの?」

「『パパ』って、言わなかった?」

「言ってないよ。言う訳ないじゃん」

 尚もホタルは、言い張る。

「えー、そうかな」

「言わない!○○は、パパじゃないもん。な~に、ひょっとして私にそう言って欲しいの?」

 ホタルは、まだ赤くなっている顔を僕の方に向けた。


 強情だな、と思いつつ・・。


「いや、別にそうじゃないけど。でも、ホタルが、寂しくなった時は、パパになってあげても・・・、いいかな」

 僕は頬を搔きながら、言った。


「なに、それ・・・」

 ホタルは、バスケットを落とすと、急に僕に正面から抱きついて来た。

「ホタル?」

「今は、こうさせて、パパ・・・、パパ・・・」

 ホタルの肩は、静かに震えていた。

「ああ、いいよ」


 今は、この子の気持ちを受け止めよう。

 それだけでいい。



 そして、僕は、ホタルの体温を感じながら、空を見上げた。



 高い木々の隙間から見える星空で、泉天いずみさんが僕等に優しく微笑んでいるように見えた。



                                (つづく)


ホタルと○○の関係が、少しずつ深まっていますね

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