第32話 ホタル
泉天の娘のホタル視点のお話です。
泉天とホタルの微妙な関係が伺えますね。
まあ、ホタルはファザコンですね。
【ホタル(泉天の長女)視点】
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私は、ママが嫌いだった。
いや、嫌いになろうとしたんだ。
でも、そのママはもういない。
ママは、私が12歳の頃に弟を産んで急に亡くなった。
私は、突然ママを失い、急に純華という弟ができた。
そう思った。
純華は、大好きだった私のパパとの間の子ではない。
純華のパパは、アメリカにいるという。この感染症の流行で帰国できないらしい。
純華には、私はまだ1回しか会っていない。
純華は、母方のおじいちゃんとおばあちゃんの所にいる。
私は、父方のおじいちゃんとおばあちゃんの所だ。
父方のおばあちゃんは、ママの実家に行くことを嫌がる。
だから、ママの実家には行かないようにしていた。
私は、ずっと思っていた。
『私は、ママから愛されていない』
だから、ママは父方のおじいちゃんとおばあちゃんに私を預けた。
私は、そう思っていた。
ママは私なんかと暮らしたくないんだ。
一緒に暮らすおばあちゃんは、ママをあまり快く思っていなかった。パパを殺したのは、ママだといつも聞かされた。それは、ママが自分の仕事にかかりっきりでパパを助けなかったから、パパは過労で死ななくてはならなかったということだった。
私はおばあちゃんから何度もそう聞かされ、パパが死んだのはママがいけないんだと思うようになっていた。
そして、私はママに愛されていない。
だから、私をおばあちゃんのところに置いて会いにも来てくれない。
私は、ママと一緒に暮らしたかったのに・・・。
私は、パパが大好きだった。
家にいないことも多かったけれど、帰って来るといつもずっと私と一緒に居てくれて、楽しませてくれた。
長い間留守にしていて突然帰って来た時に、パパは私に言った。
「ホタル、パパは今スゴイお店を作っているんだよ。お店は深い森の中にあって、とても癒される場所なんだ。そして、すてきな料理でみんな笑顔にする。そんなお店をオープンしたら、ホタルは、パパを手伝ってくれるかい?」
パパは、優しい笑顔で嬉しそうにそう言った。
「うん、パパのお店をホタルも手伝う!」
私は、そのお店を想像してワクワクしたのを覚えている。
今もあの時のパパの嬉しそうな顔を忘れない。
でも、パパは、私が8歳の時に亡くなった。
パパが亡くなった時、ママは私に言った。
「ホタル、ゴメンね。ママが悪かったの。パパを死なせたのはママよ。だから、ママは、パパが命を懸けて開いたお店を続けたいの。ママは、パパのお店を続けるから。お店が上手く行ったら、必ず迎えにくるからね。それまで待っていてね」
そう言い残して、ママは私をパパの実家の祖父母に預け、出て行った。
私は、ママのその言葉を信じて待っていた。
ママが迎えに来てくれるのを、ずっと・・・・。
しかし、ママは、迎えに来てくれなかった・・・。
「泉天さんは、ホタルを放っておくなんて愛していないのかね」
しかし、おばあちゃんから、そう何度も繰り返し言われ続け、私は、ママから愛されていないと思うようになっていた。
そんな考えが少しづつ変わったのは、ママが妊娠して出産間近になり、東京の実家に戻って来てからだ。ママが近くに来てから、私は、おばあちゃんには黙って何度かママに会いに行った。ママの方から近くに来てくれて会うこともあった。そんな時に私はママに聞いたことがあった。
「ママが好きになった○○って人、どんな人?パパに似ているの?」
「え?うーん、そうねえ、顔は似ていないかな。あ、うん、でもね、雰囲気はパパに似てるかも。とても優しいところとかは、パパと同じかな」
○○のことを話す時、ママは嬉しそうだった。
「へー、優しい人なんだ」
「そう、とってもよ」
私は、○○の優しさとはどの程度かと想像した時、パパの優しさを思い出していた。
「ホタルにも会って欲しいわ」
そう言うママの横顔は、遠くを見つめているように見えた。
こうして何度かママと会っているうちに、ママへの反感は薄らいで行った。
そして、お腹の大きくなったママを見て、自分に弟かできると思うと、何かとても嬉しく思った。
しかし、ママは亡くなってしまったのだ。
ママは、亡くなる前に私に言った。
「ホタル・・・。良いママじゃなくてごめんなさい。傍にいてあげられなくてごめんね。とても愛している・・・わ」
力なく呟くママの手を取り、私の眼からポロポロと涙が止めども無く流れた。
ママが亡くなって暫くすると、おばあちゃんが相変わらずママのことを悪く言うのが、私は嫌になっていた。
何でママが亡くなってまで、そんなことを言うの?
私は、おばあちゃんの顔が見たくなくなり、距離を置くようになった。
私は、中高一貫校の受験勉強に集中した。入学後は部活や勉強のほか新しい友達なども出来て、気を紛らわせることができた。
ママが亡くなってから3年ほど経過した頃。
ある日、私は、ママの実家に行った。
それは、何年ぶりかの訪問だった。
弟の純華のことを忘れた訳では無かったが、純華がいないことを知り、おばあちゃんに尋ねた。
「ああ、純華は、お父さんの○○さんのところよ」
「○○って?」
私は思い出した。
○○は、ママの彼氏だった人で純華のお父さんだ。
アメリカに行っていたというが、今は帰国したと聞いていた。
「これ、○○さんでしょ」
「今どこにいるの?」
「泉天がやっていたカフェに戻って、一人でそのカフェをやっているのよ。小さい純華を育てながらだから大変だろうにね」
「カフェって・・・」
そうだ!
パパが開いてママが続けていたお店だ。
「山の森の中にあるカフェなのよ。私も何回かお邪魔したけど、とっても素敵なところなのよ。ほら」
おばあちゃんから見せられたスマホの写真を、私は食い入るように見た。
「ここ、私も行きたい!」
森の中のカフェ!
パパが手伝って欲しいと言っていたお店だ!
「あら、そう。じゃあ、今度のGWに一緒に行きましょうか?」
「うん、行く行く!」
お店の写真や滝や森の景色に惹かれたのも事実だが、それ以上に私は、お店の前で純華を抱くとても優しそうな○○という男の人に興味を持ったのだ。その面影がどことなくパパに似ていると思った。
私は、森の中にある『Cafe・プリマヴェーラ』に行くことを決意した。
(つづく)




