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第29話 再び森のカフェへと

 それから数日が経過した。


 それは、真冬のあるとても寒い日だった。曇天の空からは、今にも雨か雪が降ってきそうだ。


 僕は、東京から高速道路を車を走らせ、一人、あの森の中にある『Cafe・プリマヴェーラ』へと向かった。


 近くのインターを降りる頃には、雪がポツポツと落ちて来た。

 次第に雪が舞う中プリマヴェーラに向かって森林や牧場のある国道を走っていく。


 そして、国道に面したカフェの駐車場に辿り着いた。


 辺りは、既に雪が薄っすらと積もっていた。


 天候は更に悪化していく予報で雪は絶えず降り続き、かなり積もりそうな気配だ。

 この辺りは雪がそれほど積もるエリアでは無いので、珍しいのかもしれない。


 僕は、そんな雪が降り、周囲の音を消すようにシーンとした中をカフェへと続く細い林道歩いていく。

 音と言えば、僕が雪を踏みつけるキュッキュッという音だけだ。


 静寂が森を支配していた。


 しかし、カフェに近づくと、ザーッという滝の音が静かに届いてきた。



 僕は、『Cafe・プリマヴェーラ』に辿り着いた。


 カフェのドアノブを回すが、鍵かがかっていた。


 ガラス窓があるドアから覗くと、内側に「都合により暫く休業いたします」の看板が見えた。



 プリマヴェーラの中には入れなかった。


 建物をよく見回すと、少し傷みも見える。



 サーッ、ササーッ!

 滝の流れる音だけが辺りを支配していた。



 僕は、滝の傍まで歩いて行く。



 僕は思い出していた。


 ここで、僕は泉天いずみさんに初めてあったのだ。


 絶望の淵で佇む僕に泉天さんが、優しい声をかけてくれた。

 あの時のやさしいきれいな泉天さんの笑顔を僕は()()()忘れることはない。


 そして、僕はまた絶望の淵にあった。

 でも、やさしく声をかけてくれる泉天さんはもういない。



 なら、一層今度こそ、滝に・・・・。


 しかし、泉天さんのあの時の怒った顔が浮かんだ。

 真剣に叱ってくれた泉天さん・・・。


 僕は、首を横に降り、そんな考えを打ち消した。



 雪が落ちてくる空を見上げると、僕は()()()()に行こうと思い立った。



 住居棟と菜園のある裏手から伸びる細道を行く。


 ここをキュッキュッと雪を踏みしめてドンドン躊躇いなく歩いて行く。

 そして、淡い緑色に塗られた東屋に辿り着いた。

 屋根には雪が積もっていた。


 ここは、『妖精のカフェ フェアリー』を開いた想い出の場所だ。


 やはり暫く放置されていたため、椅子やテーブルなど痛みが激しかった。


 僕は、何故ここに来たのだろう?


 東屋の椅子に腰かけると、泉天さんとの思い出が蘇って来る。


 ここで二人でみた妖精(蛍)の瞬き。

 きれいだった。

 フェアリーが成功した時の、泉天さんの嬉しそうな笑顔。


 そうだ。僕は、あの時、()()()泉天さんを好きになったんだ。



 あの時は、淡く光る蛍が舞っていたが、今はシンシンと静かに雪が舞っていた。


 不思議と寒さは感じなかった。



 暫くじっと東屋から景色を見ていると、急に涙が出て来た。



「泉天さん、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」


「僕があなたを置いて行ったから、僕が来るのが遅れたから、あなたを一人にしたから・・・」


 僕の涙は、後悔の言葉とともに溢れ出て来た。


 そんな後悔の吐露とともに涙も枯れて行った。



 暫らくじっとしていると、このままここで死んでも構わないと思うようになった。 



 泉天さんの元へ行けるのならそれでいい・・。



 僕は、いつの間にかテーブルにうつぶせになり、眼を閉じた。

 そして、次第に眠気を覚えて来た。





『○○君、○○君・・。○○君、○○君・・』

『え?』

 僕は、背中に泉天さんの温もりを感じた。


 起き上がると、泉天さんが優しく微笑んでいる。


『泉天さん!ああ、会いたかった。ずっと・・・』

『○○君』

『僕は、泉天さんに謝らないといけない。ごめんなさい、僕はアメリカになんか行ったりしなければよかったんだ』

『いいえ』

 泉天はさんは、優しく微笑みながら首を横に振る。

『私が、あなたを行かせたんですよう。だから、後悔なんてする必要はないんです。○○君、あなたを愛しているわ。私は、いつもあなたを見ているから。()()()()とカフェをお願いしますねえ』


 申し訳なさそうにそう言い残すと、泉天は僕に手を振り、遠ざかって行った。

『待って、待ってよ、泉天さん、僕も連れて行って・・・』





 遠くに泉天さんの姿が消えると、僕は、ハッとして目を開けた。


 辺りは、すっかり暗くなってきていた。


 雪の中を淡いまあるい光が一つユラユラと揺れているのが僕には、見えた。

 それは僕を励ますかのように、微笑んでいるかのように僕の周りをユラユラと揺れている。


「泉天さん・・」

 そして、その淡い光は、僕の目の前に来ると空へとゆっくりと上昇して行く。

「泉天さん、待ってよ!」

 僕は、手を伸ばしたが、その光を掴めなかった。

「泉天さん・・・」


 淡いまあるい光は、暗い空へと消えた。



 雪がシンシンと降る中、僕はいつまでも空を見上げ立ち尽くして動けなかった。




 そして暫くして、僕はフラフラになりながら、プリマヴェーラまで戻ってきた。


 カフェの入口の所に人影が見えた。

 その人影が僕の方を見た。

「うん、誰だ?」

 その人影が大きな声を上げ、ライトを僕に向けた。


「あれ?お前、○○君か?」

「ああ、関さんですか?」

「そうだよ。関だよ。お前どうしてここに?いや、帰ってたのか」

「はい・・・」


 しかし、関さんの顔を見たら、急に涙がまた出て来た。

「何だ、雪だらけじゃないか」

 そう言い、関さんが僕の雪を払いのけてくれる。

 そして、関さんの胸にもたれ、僕は泣いた。

「うわあーーッ!」

「辛かったよな。泣いていいんだぜ。俺だって悲しいもんよ」

 関さんは、僕の頭を撫でながらそう言う。


 ひとしきり泣いた後に、ブルブルっと震えが来た。


「おっと、すっかり冷えちゃってるじゃねえか。中に入るか」

 そう言うと、関さんは、カフェの扉の鍵を開け、僕等は中に入った。



 中に入ると、関さんがコーヒーを淹れてくれた。

「○○君の味には敵わないと思うが、飲んでくれ」

「ありがとうございます」

 僕は、関さんが淹れてくれたコーヒーを啜ると少し落ち着いて来た。


「泉天ちゃんから頼まれていたんだ。時々ここに来て、換気したり、掃除したりしてたんだよ。泉天ちゃんが亡くなったと聞いても、やめられなくてさ」

 

 関さんは、ここで間を置いた。


「いつかきっと、○○君が戻るだろうと思っていたからな。泉天ちゃんから連絡があってさ。亡くなる直前に頼まれたんだよ。私がいなくなっても○○君が戻るからってよ」

「関さん・・・」

 関さんは、ここでニっと笑った。

「さあ、こいつは渡しておくぜ」

 関さんは、僕に鍵を握らせる。



「ここに戻って来たんだ。カフェ、やるんだろ?」

「・・・・・」

 言葉は出ないが、僕は静かに頷いた。



「そうか。今度は客として、お邪魔するぜ」

 そう言って、関さんはニカっと笑った。

 僕の眼からまた涙が溢れだす。

「はい。必ず・・。泉天さんが残してくれたこのカフェは、僕がやっていきますから」

 嗚咽しながら僕は宣言した。


「おお、期待してっからよ」


 関さんは、激励するように僕の肩を叩いた。



                               (つづく)

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