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第28話 そして僕は彼女の死を知った

思わぬ展開となりました。

 泉天さんは、亡くなっていた。



 僕は、泉天いずみさんの遺影と向き合うと、急な眩暈が起き、吐き気が込み上げてきた。

 そして、血の気が引いて行くのを感じ、そのまま気を失った。


「〇〇さん、〇〇さん・・・」

 朦朧としていく意識の中で泉天さんのご両親の声が遠くから聞こえていた。




 眼が覚めた時、僕は病院にいた。



 最初は、何でこんな所にいるのかわからないでいた。

「・・・・」

 次第にボーっとしていた感覚が薄らいで行く。


「泉天さん!」

 僕は、ガバっと起き上がると、記憶が蘇ってきて、また胸がバクバクと苦しくなるのを感じ、胸を押さえた。


 苦しい。

 とても苦しい。


「〇〇さん、大丈夫ですか?」

 ベッドの横にいた泉天さんのお母さんが声をかけてくれた。

「・・・・」

 泉天さんのお母さんの問いかけに僕は、言葉が中々出て来なかった。

「はい、大丈夫です・・」

 胸の苦しみを抑えながら、やっと細い声を絞り出すことができた。


 この時の僕の表情は、苦悶に満ちていたに違いない。



「すいません。御迷惑をおかけして」

 僕は、泉天さんのお母さんに頭を下げた。

 

 でも、僕は、こんな所にいてはいけない。


 僕は、ベッドから出ようとした。

「顔色が悪いわ。まだ無理はしない方がいいわ」

 泉天さんのお母さんが制止する。

「大丈夫ですから。僕は、行かないと。泉天さんの所へ」


 泉天さんのお母さんの制止も聞かず、医師にもう大丈夫ですと伝え、無理を言ってフラフラしながら、僕は病院を出た。



 どうしても、泉天さんの所に行かないといけない。

 

 僕は、苦しみを抑え無理やり身体を動かした。




 僕と泉天さんのお母さんはタクシーに乗っていた。


 この時、ふと思い出された。


 待て!

 僕は、泉天さんとテレビ通話で会っていたじゃないか!


 アメリカを立つ直前にも・・・。 


 なら、泉天さんが死んでいるなんてことは無いはずだ。

 こんなことが、現実であるはずがない!



 僕は急いでスマホを取り出し、アプリで泉天さんの連絡先に電話をかけようとする。

 それを、泉天さんのお母さんに見てもらえば、こんなことは()()じゃないことがわかるはずだ!



 しかし、僕の手は通話のボタンを押す手前で止まった。


「!ッ」


 僕は、()()()()が頭にパッと思い浮かび、スマホを手から滑り落とした。


「○○さん?」

 それに気づき、泉天さんのお母さんが僕の方を向く。

「すいません。滑ってしまいまして」

 僕は、スマホを力なく拾った。


 日が暮れ暗くなり、僕は車窓を流れる灯が目立ち始めた雨降りしきる街並みを力なく静かに見ていた。




 そして、僕は泉天さんの遺影と再び向かい合った。

 

 それは、カフェで撮られた時の笑顔の泉天さんのものだ。

 僕は、これを記憶していた。泉天さんの誕生日の時の写真だったから。


 泉天さんは、あまり写真を撮られるのが好きでなかった。

 それにしてもこの笑顔の泉天さんは、最高の1枚だと思った。


 それから、泉天さんのご両親は、泉天さんが亡くなった時のことを話してくれた。



 泉天さんは、感染症も疑われたが、難産で出産後の経過が思わしくなく、純華を産んで一週間ほどで亡くなったという。


 それは、1年近くも前ではないか?


「何故すぐに知らせてくれなかったんですか?」

 僕は苛立ちを隠さず、詰問口調になる。

泉天あのこの遺志だったんです。本当にごめんなさい」

 泉天さんのお母さんは、頭を下げた。

「あなたには、自分の仕事を成し遂げてもらいたい、と。今自分のせいで投げ出させたくないと」

 僕は、膝の上に置いた両拳に力が入る。

「仕事なんて!泉天さんの方が僕は大切だったのに・・・。泉天さんがいなくては何の意味もない・・・」

 涙が溢れて来て、それから言葉が出て来なかった。



 そこに、赤ちゃんを抱いて泉天さんのお父さんが入って来た。



「〇〇君、君と泉天の子の純華すみかだよ」


 泉天さんのお父さんが僕の近くまで来て降ろすと、純華は立って僕のところによたよたとたどり着いた。


「ぱんぱ」。

 僕の顔を見上げて、純華は円らな瞳で確認するようにそう言った。

純華すみか?」

 僕は涙目だったが、驚きの眼で純華を見た。


 泉天さんに目元などが似ていると思った。


 純華は、僕のことがわかっているのか?


 純華は、僕に抱っこさせようとよじ登ろうとする。

「すみか・・。ゴメン、ごめんよ。僕が君のパパだよ」

 僕がぎこちなく抱っこすると、純華はケタケタと笑い出した。


「まんま」

 純華は、泉天さんの写真の方を差して、そう言った。

「ぱんぱ」

 そう言って僕の顔を触った。


「ああ・・」

 僕は、どん底に突き落とされたと思っていたが、まだ大切なものがあることを純華に気づかされたのだ。

「純華、純華・・・」

 僕は、純華を優しく抱きしめた。



 僕は、落ち着くと、泉天さんのお父さんとお母さんと向き合った。


「申し訳ありませんでした。泉天さんを死なせてしまったのは、僕のせいです。僕が自分を優先して、泉天さんを置いてアメリカなどに行ったりしたから」

「○○君、それは違うよ。泉天はいつも君のことを話していて、幸せそうだったよ。君と出会え、こんな可愛い孫まで授かった。泉天が亡くなった時、私等も耐え難いほど落ち込んだが、泉天が遺してくれた純華を育てていくことで次第に悲しみも和らいで行った。君と泉天には感謝しかないよ」

「お義父さん・・」

「そう言ってくれて、嬉しいよ。君と泉天は正式に結婚したわけではないが、私等は君を息子のように思えていたよ。君のことは、泉天から散々聞かされていたからね」

「うふふふ、そうでしたね」

 お義母さんが、泉天さんと似た笑い方をした。



 暫くしてお義母さんが思い出したようにきりだした。

「○○さん、あなたに見せたいものがあります」

 そう言うと、お義母さんは、見慣れたスマートフォンを持ってきた。

 それは、泉天さんが使っていたものだ。


「これは、あなたが戻ったら、あの子から見せてと言われたものです」


 それは、泉天さんの出産の時の動画だった。幾つかあったが、最後に撮られたものを僕は見ていた。


『○○君、愛しています。ああ、あなた、許して・・・。ごめんなさい。純華を、そして私たちのあのカフェをお願いします・・・』


 そこに写っていたのは、澄んだように白い顔の泉天さんだ。とても痩せていたがとてもきれいだった。最後の言葉の辺りで泉天さんの頬を涙が伝った


「ああ、泉天さん・・・」


 僕はスマホを握りしめ、僕の眼からは、感涙と哀しみの涙が溢れて止まらくなった。




 翌日。

 東京は、冷たい雨がシトシトと降っていた。

 


 僕は、純華すみかをお義父さんとお義母さんに預け、一人泉天さんのお墓へと脚を運んだ。

 純華には申し訳ないが、僕は、一人泉天さんと向かい合いたかったのだ。



 天候の悪いせいもあったと思うが、墓には誰もいなかった。


 傘を差し、起伏のある墓地を進み、泉天さんのお墓に辿り着いた。


 僕は、泉天さんのお墓にお花を供え、お焼香をした。


「泉天さん、来るのが遅くなってごめんなさい」


 しかし、お墓を見つめていると、耐えられず涙が出て来た。

 

 僕は、傘を落とした。


「僕はどうしたら?あなたがいないこの世界で、どう生きれば・・・いいの?」

 


純華すみかのために頑張らなくてはいけないのはわかっているけれど、この現実はあまりにつらい・・・」


「あなたがいないこの世界は、僕には耐えられないよ」



 その時僕のスマホのベルが鳴る。


 それは、泉天さんからかかって来る時のコール音だ。

 僕はスマホを取り、電話に出た。そこには美しい()()さんがいた。


『○○君』

「・・・・」

 僕は、涙の痕を拭く。

『知ってしまったのね』

 画面の中の泉天さんは、悲し気に話す。

「・・・・」

『でも大丈夫ですよ。これからは私が○○君を支えますから』

 画面の中の()()()()は、泉天さんそっくりにそう言った。

「ふざけるな!お前は、お前はただのAIだろう」


 そう、これは、僕が開発したAIの()()()()だ。


『私は泉天です。あなたによって作られた。私はあなたに寄り添い、ずっと傍にいるように作られたのですから』

 そう言うと、画面のAIは、泉天さんそっくにニッコリと微笑んだ。


 僕は、この言葉に憤りが最頂点に達した。


「お前は泉天さんじゃない。泉天さんを冒涜するな!AIが!」

 僕は、スマホを地面に思い切り叩きつけると、画面が割れ、通信が消えた。



「僕は、僕は、こんなものを作るためにアメリカに行ったのか?こんなことのために、泉天いずみさんを失ったのか?」



 僕の眼からは涙が溢れ、雨と涙が混じり合った。

 しばらく僕は、ずぶ濡れになりながら、泉天さんの墓前にすがり、哭いた。



                                (つづく)

今話は、作者も書くのが辛い回となりました。

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