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第23話 そのカフェの女店主と幸せ

 翌朝。



 僕は、差し込む陽射しと右腕に重みを感じて目を覚ました。

 

 あれ?


 いつもと違う部屋の景色だけど・・・。


 心地よい花の芳香が漂い、鼻孔をくすぐる。

 それに、右腕に何か乗っているこの重みは?


「うーん、ううん」

「え?」


 横を向くと、すやすやと眠る泉天さんの美しい顔が、すぐ目の前にあった。



「え?」


 再度同じ疑問符がよぎる。


 はて?

 これは?



 しばし、泉天さんと同じベッドで横になっているこの状況に僕の頭は混乱した。


 そして、思い出した!


 

 ああ、そうだ。

 僕と泉天さんは、昨日お互いの気持ちを確認し合い、結ばれたのだ。



 これは、夢じゃない。

 うん、夢じゃなかった!



 照れくささを感じながらも、暫くそうして、泉天さんの奇麗な寝顔を見て幸せというものを実感していたが・・・・。



 腕がしびれて来た。


「う、ううん・・・」


 突然、泉天さんの眼が、薄っすらと開いた後、見開いた。


「おはようございます。泉天さん」

 

「お、おはよう、○○君」

 泉天さんも状況が飲み込めたのか、泉天さんの頬が少し赤くなった。



 泉天さんは、僕の頭に腕を回して顔を近づけて、チュッと軽くキスをした。

「○○君、好きよ」

 泉天さんが微笑む。

「僕も、泉天さんが大好きです」

 僕もチュッと返す。


 お互いこんなことを繰り返してしまう。



 とても幸せな気分だ。



 互いに冷めやらぬ思いが強くなり、身体を密着させる。


 そして、自然と泉天さんの豊かな胸の方に僕の手が・・・。



 おっと、ここからはNGだ。


 僕が恥ずかしいからと二人だけの秘密だから。

 なので、これ以上は勘弁してもらおう。

 


 ただ、僕の幸福感が(恐らく泉天さんも)最高潮に達していることだけ、わかってもらえれば良い。



 僕がここ『Cafe・プリマヴェーラ』に来たときは、絶望のどん底で死のうと思っていのだ。泉天さんと出会えて僕は、幸福しあわせというものに気づけたのだ。




 朝、少しグダグダしてしまったが、素早く準備をすませ、僕と泉天さんは、カフェ開店オープンの準備をする。



 僕と泉天さんは、裏庭の畑で、カフェで使用する野菜の収穫をする。


「ふう、これ位でいいですかね?」

「そうですね。十分です」

 僕は、新鮮な野菜が一杯入った籠を持とうとする。

「私が持ちますよ」

「大丈夫ですよ。また、転ばれるのが心配なので、僕に任せてください」

「もう、意地悪言って」

 泉天さんの頬がプクっと膨らむ。

「ハハハ」

 こういう表情の泉天さんも可愛いから、ついからかいたくなってしまうのだ。




 順調に準備を終え、10時になると、お店の看板を『open』に替えた。


 そして、いつも質素シンプルな服装だけど、上品さを漂わせる初老の淑女レディーと言う言葉がピッタリな野木さんがさっそく来店した。この日も灰色のモノトーンの質素な服装だ。


「おはようございます」

 僕と泉天さんの声が唱和する。

 それを聞くと、野木さんがクスっと笑った。



 僕が、いつものテラス席に野木さんを案内すると、野木さんが言った。

「おはよう、○○君。今日は、いつもにも増して仲よさそうね。気のせいかしら?」

「え?え?あ、その、えーと・・・」

 僕は、しどろもどろになり、頬をかく。

 

 照れ臭くて、言葉が出て来ない。


「うふふふ、隠さなくてもわかるわよ。泉天ちゃんと上手く行く事ができたのよね?」

「は、はい。ありがとうございます」

 僕は、野木さんに正直に応え、お辞儀をした。

「良かったわね。○○君、泉天ちゃんを支えてあげてね。あの娘、しっかり者に見えてとても不器用なところがあるから」

「はい、頑張ります」

 僕は、応援してもらった野木さんに心から感謝した。




 そして、昼時になると、常連客等がやって来て混み合い出した。


「うわあ、今日は、混んでるな」

 関さんと近藤さんがやって来た。

 ちょうど、カウンター席が空いたところだったので、2人が腰かける。



「俺は、カレーセットにソーセージトッピングの大盛ね」

 関さんがメニューも見ずに注文する。

「私は、本日のパスタセットでお願い」

 近藤さんは、繁々とメニューを見ていたが、いつもパスタだ。

「はい。承知しました」

「○○君、5番テーブルの料理できましたぁ」


「はい。おっと、泉天さん、5番は、カレーのトッピングは、ソーセージではなくて、ベーコンですよ」

「うそっ!あら、やだ~」

「トッピングだけですから僕がやりますよ」

「あーん、私ったら」

「大丈夫ですから、気にしないでください」

 僕は、泉天さんに笑いかける。

「うん、ありがとう」

 僕と泉天さんは、アイコンタクトする。



 僕は、心配だったので、近藤さんの料理の注文の調理に入る前に耳元で囁いた。

「近藤さんのパスタは、ボロネーゼです。ミートソースじゃないですよ」

「あ、あら嫌だ、間違えるところだった」

 

 先読みしてアドバイスをして正解だった。


 僕は、関さんのカレーを盛り付ける。

「○○君、カレーは、こう注いで。サラダは、柔らかく盛り付けるのよ」

「はい」


「はい、カレーセットにソーセージトッピングです」

「本日のパスタセットでパスタは、ボロネーゼになります。どうぞ~」


 そして、関さんと近藤さんの料理をほぼ同時に僕と泉天さんは、提供した。

 関さんと近藤さんは、出された料理を見た後、僕と泉天さんをジッと見る。


「はい?」


「いや、何かいつもより二人の距離が近いような気がしてさ」

「え?そうでしょうか?」


 そう言われて、僕と泉天さんは、顔を見合わせると少し距離を取った。


「それに、何かいつもより息がぴったり合っているというか、親密というか・・」

 関さんと近藤さんの視線が鋭く僕を指す。



 はあ・・、ダメだ。


 とても誤魔化すことはできない。関さんと近藤さんに嘘はつけない。


 僕が、泉天さんの方を見ると、泉天さんは頷いた。



「あの・・・、私達つきあうことになりました」

 僕と泉天さんは、恥ずかしくて少し顔を赤らめながら言った。



 しばし、カフェの中がシーンとなった。


 どうやら、カウンター席だけでなく、テーブル席にも聞こえていたようだ。



「えーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」


 店の中が、シーンとした沈黙の後、男性客の驚きと落胆の悲声でどよめいた。



 それは、そうだろう。泉天さん目当てで訪れていた男性客等だ。

 急に知り合ってから1か月ちょっとしか経たない男、それもひ弱そうに見える僕に地元の聖母マドンナを持って行かれたのだから。



「えーーーー?どういうこと?○○君と泉天ちゃんて親戚なんじゃなかったの?」

「親戚同士で付き合うのか?」

「泉天ちゃん、今は誰とも付き合うつもりはないって言っていたじゃん」

「あー、ポッと出の○○君に持って行かれたーーーーっ!」


 

「あ、あの、ですね・・・」

 ここで泉天さんが溜まらず何かを言おうとするが、関さんが手で制止した。


 すると、関さんが立ち上がり、一斉に不平不満を言う男性客等の方に振り向いた。


「まあ、待て。諸君。先ずは、確認することがあるはずだ。()()()()()が起きた時のな」

「うーん、まあ、そうだけど・・・」

「でもな・・」

 

 関さんの発言に対しても落胆とも悲痛の声が漏れ出る。


「じゃあ、いいか?俺が確認するぞ」


 関さんが僕の方に振り向き、射るような鋭い視線で僕を睨む。

 関さんからこのような視線を向けられるのは、初めてで僕は、ドキっとし、視線を逸らしそうになるが、堪えた。


「○○君、ハッキリと答えてもらうぞ。君は、真剣に泉天ちゃんと付き合っていくということでいいんだよな?」

「関さん、それはもう私が聞いているから」

「泉天ちゃんは黙ってて。○○君の本心を俺たちも確認する()()がある」



 権利があるかは、疑問だけど、僕は、真剣にこの問いに応えなくてはならないと思った。



「はい。僕は、泉天さんを愛していますので、真剣に泉天さんとのことを考えています」

 

 泉天さんを支えるためにも、ここで僕は負けるわけにはいかない。


「泉天ちゃんも()()()になった。君より10歳も年上だぞ。それでもこの先彼女を支えていけるのか?」

 関さんは、年齢に語気を強めて行った。


「もう!何で私の()()を強調するんですか!」

 泉天さんの顔が赤くなり、抗議する。


「はい。僕は、泉天さんが先におばあちゃんになっても支えます」

「もう○○君まで、私を年配としより扱いして!」

 泉天さんがむくれてしまう。

「あ、いえ、そういうことじゃなくて!」

 げ、泉天さんを怒らせてしまった!



「わかった!」

 しかし、関さんはそんなことはお構いなしに、しばしの沈黙の後に、そう大きな声を上げた。



「○○君、ちょっとこっちに出て来てもらおう」

 関さんは、変わらず、鋭い視線で僕を睨む。


 僕は、何が起きるか想像できなかったが、これは泉天さんとともに歩むための試練だと思った。

 僕は、泉天さんを見ると不安そうな表情をしていたが、頷くとカウンターを出て、関さんの前に進んだ。


 そして、男性客も立ち上がって来て、僕と関さんを取り囲む。



「○○君・・・」

 関さんが、真剣な眼差しを向けると、僕の両肩がっしりと掴んだ。

「はい」 

 僕も真剣だったが、冷や汗が出そうだ。


「このヤローーーーッ!おめでとう!」


 そう言うと関さんは、僕を引き寄せ抱きしめた。


「関さん?」

「あっはっはっはっはー、さあ、皆!この羨ましい野郎を祝福するぞ!」


「おーっ!」


 そう言うと男性客等が僕を囲んだ。


「え、ちょっと、待って、うわあーーーーーっ!」

「そーれっ!」



 僕は、胴上げされた。



「この野郎!よくも我らがマドンナを持って行きやがったな」

「うらやましいぞ!このーっ!」

「泉天ちゃんを大切にしねえと、承知しねえぞ!」

 そんな悪態の声と共に僕は何回も胴上げされ、降ろされた。


 そして、最後に・・・。


「この野郎、うらやましいぞ!」

 関さんに脇で首を絞められた。

「痛い、痛い、痛いですよーーーっ!」

「泉天ちゃん持って行ったんだ。これ位は我慢しろ」

「ギブです、ギブッ!ウギャーーーーッ!」 

 関さんにさらに締められ、 僕の絶叫が店内に木霊した。




 常連客に告げたらどうなることかと冷や冷やしていたが、どうも前々から『マドンナ(泉天さん)を者にしたら恨みっこなし協定』を男性客同志で決めていたのだと言う。


 僕は、協定に入った覚えはないが、僕にも適用してくれたようだ。


 この土地の人々の気持ちの良い位に親和性を重んじる温かい風習に僕は助けられた。




 こうして、僕と泉天さんの交際は、カフェのお客様にも歓迎してもらえることになった。


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